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【深読み「鎌倉殿の13人」】梶原善さん演じる、謎の男「善児」は何者なのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
梶原善さん演じる、謎の男「善児」は何者なのか。(写真:アフロ)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」7回目では、梶原善さんが演じる善児が登場した。善児は武士でもなさそうだが、いったい何者なのだろうか。その点を深く掘り下げてみよう。

■善児とは

 梶原善さん演じる善児が登場すると、ネット上がざわつくようだ。源頼朝と八重の間に誕生した千鶴丸を殺した善児。北条宗時と工藤茂光も謀殺した善児。セリフがたくさんあるわけでもなく、非常に不気味である。いったい何者なのだろうか。

 いろいろと調べてみたが、善児のことはわからない。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」には善児の解説があり、「伊東祐親に仕える下人。祐親から信頼され、与えられた役割を淡々とやり遂げていく不気味な仕事人」と書かれているだけである。ますます謎が深まる。

 実は、結論を端的に言うと、善児は実在したのではなく、オリジナルキャラクターだった。がっかり。調べてもわかるはずがない。とはいえ、それで終わらせるのはもったいない。せっかくなので深掘りしておこう。

■下人とは何か

 そもそも下人とは何か、ということである。下人という言葉からイメージできるように、「身分が低い者」の総称である。善児は人殺しをしていたが、下人ならば武士身分でないのはたしかだ。

 鎌倉時代になると、下人は奴隷身分を示す意味を持つようになる。奴隷は特定の主人に従属していたので、相続や売買の対象になった。しかし、これはおおむね鎌倉時代以降のことなので、善児は伊東家の奴隷ではないだろう。

 武士の従者をあらわす言葉としては、郎等、従類がある。下人は郎等、従類より身分が低く、せいぜい伊東家の使用人というイメージが残る。もし、善児がヒットマンのような立場ならば、郎等、従類の方が適切かもしれない。なお、家の子は主人と血縁関係のある従者のことだ。 

■むすび

 あれこれ考えてみたが、あえて下人にしたのには何か理由があるのだろう。大河ドラマには、随所に善児のようなオリジナルキャラクターが登場する。今後、善児がどのような動きを見せるのか、大いに注目したい。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『蔦屋重三郎と江戸メディア史』星海社新書『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房など多数。

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