金正恩自慢のタワマン、死者続出でも「トイレ優先」
北朝鮮が、首都・平壌で進めている住宅建設プロジェクト「平壌市5万世帯住宅建設構想」の一つとして、建設が行われている和盛(ファソン)地区。その一部のタワーマンションの室内に、水タンクの設置が命じられた。それは、「ありがたいご配慮」によるものだった。平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
和盛地区1万世帯住宅建設総指揮部は今月10日、地区のシンボルというべき40階建てのツインタワーマンションの11階以上の部屋のトイレ用に、3〜5トンの水タンクの置き場を作れという追加指示を下した。
この指示は中央から下されたものだが、総指揮部の説明によると、こんな背景があった。
(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出)
金正恩総書記は今年3月と5月に、地区の建設現場を非公開で現地指導したが、そこでこんな言葉を口にした。
「中区域の万寿台(マンスデ)通りのマンションでも、2日に1回、朝に1〜2時間しか水道が使えないが、和盛地区のツインタワーマンションには住宅内に水タンクを設置すれば、水を思う存分使えるだろう」
朝鮮労働党の庁舎がある超一等地の万寿台通りにあるマンションですら、水道がまともに使えないほど北朝鮮の水道事情は劣悪だ。それを知っていた金正恩氏は、平壌の新たなランドマークとも言える新築マンションの水道供給に、神経を使うように指示を下したのだ。
中央は「元帥様(金正恩氏)の愛とご配慮を実践する」として、内装工事の計画案を修正し、それが追加施工指示に反映されて現場に下されたというわけだ。
作業が追加されても、竣工検査のスケジュールは今年12月から来年2月の間で決まっており、現場の指揮部は工事を遅延させてはならないと、施工評価を毎日行っている。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)
工事はただでさえ無理なスケジュールで進められていて、死亡事故が続発している。この現場では6月までに、5人もの死者が出た。いずれも徹夜での労働を強いられた上に、安全装備をきちんと装着しないまま作業を行っていた際、高所から墜落して死亡したのだ。
「愛の水タンク」設置工事でさらに現場にしわ寄せが行き、事故が増えることが考えられる。
毎日思う存分水が使えるのは、北朝鮮では贅沢なことだ。首都・平壌の一般的なマンションですら、電力不足でポンプがまともに機能せず、高層階では蛇口から水が出ないため、地上まで汲みに行かなければならない。北朝鮮のマンションで、高層階より中低層階の方が人気が高いのは、このような事情がある。
それでも、清潔な飲み水が身近で確保できるだけまだマシだ。一部地域では、歴史上一度たりとも水道が敷設されたことがなく、水は遠くまで汲みに行かなければならない。それも、激しく汚染されており、地域住民の間では皮膚病が多発している。