Yahoo!ニュース

失策増は甲子園練習無しが原因?守備力から見る選手権大会

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

甲子園見学だけではやっぱり厳しい?

ベスト4が出揃った第97回全国高校野球選手権大会、今大会は守備の乱れから失点する場面が目立つ。昨年の大会全体での失策数は81個だったが、今年は30試合を終えた段階で84個。決勝1週間前にして早くも超えてしまった。その結果、智弁和歌山が1試合7失策を犯し初戦で敗れるなどの波乱も起きている。

昨年と今年で大きく違うのは、大会前の甲子園練習が無くなったこと。今年は18歳以下の世界大会、U-18ワールドカップが28日から日本で開催される影響で選手権大会の開幕が早まり、出場校に与えられていた恒例の30分間の甲子園練習は無し。15分間の甲子園”見学”だけとなった。毎年行われていた甲子園練習、決められているのは30分という時間だけで何をするかは自由。そのため各校工夫をこらしチームカラーに合わせた練習を行っていた。ただ自由とは言ってもほぼ全ての高校が行うのがノック。普段とは違う球場で試合をするのだから当然だろう。甲子園は地方大会で使用される球場と比べて単純に広い。そのため外野手の判断ミスは即失点につながる。記録に残らないミスとしてはクッションボールの処理を誤り一塁走者の長駆生還を許す、レフトへの当たりで三塁打を許すというシーンが見られた。

今春の選抜前に行われた甲子園練習では龍谷大平安が特に入念な準備を行っていた。選手達はポジションに就くとまず近くからボールを転がしたり、グラウンドに叩きつけたりして跳ね具合を確認する。ノッカーが打つのはその後だった。全校がここまで徹底していたわけではないが、残り時間がわずかとなり内野手がグラウンド整備をする中、外野手はクッションボールの確認を行う高校もあった。これが出来ていれば上記の記録に残らないミスは防げていたかもしれない。何よりも数日前にノックをこなし本番に近い景色と雰囲気を味わった選手達と比べて、試合直前のノックで初めてグラウンドで打球を捌くという選手達が浮き足立ったとしてもおかしくない。

3年前の明徳義塾はフェアゾーンに飛んだ打球の8割をアウトにしていた

以下は数字上の話だが、失策数以外でチームの守備力を測ることが可能だ。野球を統計学の観点から分析するセイバーメトリクスにはDER(Defense Efficiency Ratioの略)という指標がある。これは(打席-安打-四球-死球-三振-失策)÷(打席-本塁打-四球-死球-三振)で計算されフェアゾーンに飛んだ打球をどれだけアウトにしたかを示す。安打か失策かは記録員の主観によって左右されるが、これはアウトになったかどうかという客観的事実に基づいたものでチーム全体の守備範囲の広さを表す。ただし、投手力の影響を全く受けないわけではないし、進塁失策と出塁失策を混同している。そして何よりもトーナメントで戦うためサンプル数が極めて少ない。あくまでも失策数以外で守備力を測る際の参考、目安程度に。過去3年間のベスト4に残ったチームの準決勝進出時のDERは以下の通り

2014年

大阪桐蔭 70.4%

三重 70.5%

敦賀気比 75.5%

日本文理 67.3%

2013年

前橋育英 69.5%

延岡学園 71.7%

日大山形 78.9%

花巻東 64.6%

2012年

大阪桐蔭 69.4%

光星学院(現八戸学院光星) 72.2%

明徳義塾 81.3%

東海大甲府 68.8%

特に優秀な数値を残したのが2012年の明徳義塾。例年と比べるとチーム力は高くなかったが、ここに明徳義塾の強さとしたたかさがある。準決勝で敗れはしたが、藤浪晋太郎(現阪神)、当時2年の森友哉(現西武)のバッテリーを中心に春夏連覇を成し遂げることになるタレント揃いの大阪桐蔭を相手に善戦した。世代を代表するような好投手やスラッガーがいなくてもきっちりアウトを取ることが出来ればどんな相手とも戦える。やはり野球で守備力は大切だ。ちなみに今大会ベスト4のDERと失策数は

早稲田実業 4試合 DER 68.3% 失策4

東海大相模 3試合 DER 72.0% 失策2

仙台育英 4試合 DER 73.1% 失策4

関東第一 3試合 DER 58.7% 失策7

甲子園練習無しで始まった今大会、高校野球100周年の節目の年に頂点に立つのはどの高校か。

(以前、高校野球ドットコムに掲載したコラムを準決勝前に再編集したものです)

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

小中翔太の最近の記事