どうなればコロナは終息するのか 再感染例の続発やブラジルでの抗体陽性率低下は何を意味するのか?
今や新型コロナウイルス感染症の感染者は3200万人に達しており、このうち99万人(3.1%)の方が亡くなられています。
つまり9割以上の方は新型コロナウイルス感染症から回復していることになります。
一般的に、感染症に罹患し回復した人は一定の期間は感染しなくなることが多く、例えば麻しん(はしか)には一度罹ると生涯感染しないことが多いとされます。
一方、性感染症である梅毒のように、一度感染しても何度でも感染する感染症もあります。
新型コロナについては感染者に免疫ができるのか、できるとしたらどれくらい持続するのかに関心が寄せられていましたが、先月から続々と新型コロナの再感染例が報告されています。
また、ブラジルのマナウスでは6月に人口の50%以上が抗体陽性に達したものの、その後抗体陽性率が減少しているという報告も出ています。
新型コロナの終息は集団免疫の達成と考えられていましたが、これらの報告はそれが遠のいたことを示唆しています。
集団免疫とは
そもそも集団免疫とは、集団の中に占める免疫を持つ人の割合を増やすことで、その集団の中で流行を起こさなくする作用を指します。
ある集団における、感染症Aの流行を防ぐための免疫獲得者の割合(集団免疫率)は、基本再生産数(R0; 一人の感染者から平均何人にうつすか)から算出されます。
集団免疫率(%)= (1-1/R0)×100
と計算されますので、例えば、麻しんではR0=12~18なので、91.7~94.5%の人が免疫を持つとその集団では流行しなくなるということになります。
つまり日本全体で94%の人が麻しんワクチン接種により免疫を持つようになれば日本国内では麻しんは流行しなくなるということです。
では、新型コロナの場合はどうでしょうか。
新型コロナの基本再生産数R0はこちらの研究では2.24~3.58となっていますので、先程の計算式に当てはめれば55.4~72.1%の人が感染すればその集団では感染は広がらないということになります。
しかし、これはあくまでも「新型コロナに感染すれば免疫ができる(=一度罹れば長期間感染しない)」という前提に立った場合の計算です。
新型コロナでは感染して数ヶ月で徐々に抗体が減衰する
新型コロナウイルスに感染させたアカゲザルは次には新型コロナウイルスに感染しないという動物実験があることから、ヒトでも少なくとも特定の期間は一度感染した後はしばらく感染は起こらないのではないかと推測されています。
ではどのくらいの間、新型コロナの免疫は持続するのでしょうか。
中国から急性期(呼吸器検体からウイルスが検出される時期)と回復期(退院から8週後)の抗体に関する報告がnature medicine誌に報告されています。
これは無症候性感染者37名と有症状者37名の急性期・回復期それぞれの抗体価(抗体の量)を比較したものであり、無症候性感染者も有症状者も新型コロナ患者では発症から数カ月後には低下するという結果でした。
この傾向は抗体の量だけではなく、中和活性という実際の抗ウイルス効果も同時に減衰することが確かめられています。
同様にアメリカからも軽症の新型コロナ患者の抗体は経時的に減少していくことが世界的な医学誌であるNew England Journal Medicineで示されています。
やはり無症候性感染者や軽症の新型コロナ患者では発症後しばらくすると抗体が減少していくようです。
では酸素吸入を要する中等症や人工呼吸管理を必要とした重症患者の抗体はどうでしょうか?
その疑問について、Kutsunaらが(どこかで聞いたことがある名前ですね)同じくNew England Journal Medicineで回答しています(上から3番目の投稿です)。
Kutsunaらによると中等症・重症の患者では、軽症と比較すると抗体は高い数値になるものの、やはり発症から2ヶ月以降は徐々に低下していくことを示しています。Kutsunaらの報告は大変重要な示唆を与えていると忽那は思います。
さて、発症から数ヶ月で抗体が減衰するというのは、他の感染症と比較してもかなり早いタイミングです。
例えばA型肝炎やEBウイルス感染症など一度感染するとIgG抗体は生涯陽性になるものもあります。
しかし、新型コロナでは長期間は抗体が持続しないようであり、また中和活性という実際のウイルスへの活性も相関して低下してくることも示されていることから、集団免疫に暗雲が立ち込めています。
ブラジルは、世界で3番目に感染者の多い国でありこれまでに450万人が感染したと報告されています。
このブラジルの都市でアマゾン川流域に位置するマナウスという都市における、人口の抗体陽性率に関する報告が査読前論文として投稿されています。
このマナウスでは、6月には人口の51.8%が抗体陽性であり理論上の集団免疫を達成していたものの、7月には40%、8月には30.1%にまで下がっていると報告しています。
検査数やサンプルの偏りの可能性はあるものの、数ヶ月で抗体陽性率が低下したという結果は集団免疫の維持の困難さを示唆しています。
再感染事例も続々と報告されている
新型コロナに2回感染した事例も次々と報告されています。
Reinfection Trackerという再感染例の報告を集めているサイトでは、これまでに15例の再感染例が報告されています。
この15例を表にまとめました。
初回から2回目の平均期間は59日で、これまでに再感染例での死亡者は報告されていません。
しかし、世界最初の再感染例は軽症例であったため「2回目に感染したとしても1回目よりも軽症で済むのではないか」と筆者も希望的観測をしていましたが、その後の報告では、2回目の感染の方が重症になっている事例も複数報告されています。
つまり、一度感染したから安心、とは決して言えないということになります。
ただし、再感染がどれくらいの頻度で起こるのか、またどれくらいの割合で重症化しうるのかは現時点では分かっていません。
また重症化については、自己の免疫だけでなく、曝露したウイルス量に関連している可能性もありますので、重症度は免疫だけの問題ではないのかもしれません。
新型コロナはどうなれば終息するのか
ここまでの新型コロナへの免疫の議論をまとめますと、
・新型コロナへの抗体は長期的には低下していく
・地域における集団免疫を長期間維持するのは難しいかもしれない
・再感染することがあり、重症化することもある
という、私たちにとって「ぴえん超えてぱおん」なことばかりです。
では、どうなればこのWithコロナ時代が終わりを迎えるのでしょうか。
現時点ではまだ「いつどうなれば終息」と明確に述べることは難しいように思います。新型コロナに関しては、ウイルスと免疫との関係、それらがどのように相互に作用して感染を防ぐのかは抗体の推移だけが関わっているわけではなく、まだ分かっていないことが多いのが現状です。
現在開発が進行しているワクチンが、自然に感染するよりも「より強力なより長期間の」免疫を惹起することができれば、終息に向かう可能性はあるかもしれません。
しかし、自然感染では抗体が減少していくことや再感染の事例を考慮すると、少なくともワクチンは1回で終わりではなく定期的に接種しなければならない可能性が高まったように思います。
いずれにしても、新型コロナは新しい感染症であり、感染成立の機序や免疫の仕組みは分かっていないことが多いということを知っておく必要があります。
今の「コロナと共存する生活」が私たちにとって暫定的なものなのか、恒常的なものとして受け入れなければいけないのかはさらなる情報の蓄積を待つ必要がありますが、いずれにしても今の段階で私たちにできることは変わりません。
三密を避ける、こまめに手洗いをするなど個人個人にできる感染対策を地道に続けていきましょう。