伊東健人、小林裕介らが謎解きに挑戦 ポニーキャニオンとCAT-HANDSが進める朗読劇の新しい可能性
舞台の上で役者が台本を持ってマイクの前でセリフを音読する朗読劇。セリフを丸暗記する必要がない一方で、舞台美術や衣装も簡素化されている場合が多く、役者はその分声と手振りだけで表現することが求められます。こうした性質から朗読劇は声優によって演じられることが少なくなく、特に声優ファンにとっては人気のコンテンツとなっています。
この朗読劇には、劇場を使わず作品の舞台そのままの場所で行うものや、台本すらなく全体のプロットと設定があるのみで、あとは役者のアドリブで進めていくものなど、様々なスタイルがあります。その中で、観客も参加可能で、役者も先の展開が全く読めないゲーム形式のものがあります。ポニーキャニオンと、企画制作会社のCAT-HANDSが展開する朗読×謎解きイベント『ボイスミステリー』です。
ボイスミステリーとは
ボイスミステリーは、役者達による謎解きを中心としたゲーム形式のイベントで、終始演者がマイクの前に立って、台本を手に持ち役を演じる従来のものとは多少異なります。ボイスミステリーの大部分では役者は座った状態で進行し、ゲームを解いていくパートが中心となります。ゲームの内容は事前に役者には知らされておらず、ゲーム中に配られる台本も役者にとっては初見になります。役者にとってはアドリブ力も試されることになります。
ボイスミステリーでは、冒頭にバックストーリーの設定の説明が舞台のスクリーンに投影され、続いて役者がプロローグを朗読します。そしてメインとなるゲームパートの説明が司会兼ゲームマスターからなされ、役者達は与えられたミッションを解決すべく行動していきます。
行動はターン制で、役者が一人ずつそのターンでできることを進めていきます。舞台上のスクリーンにはマップが映し出され、移動できる場所が数字で表されています。このマップは観客にも事前に配られます。移動したり、行動したりすることでターンが消費されていきます。ターンの数には上限がありますが、その上限は事前に知らされている作品とそうでない作品があります。
そのターンで正しい行動を取った場合は、役者に葉書サイズの紙が渡され、そこにはアイテムや新情報を手に入れたといった文章が書かれています。この情報はスクリーンにも映し出されます。これを役者が読み上げる点でも、朗読劇要素があるのが特徴です。
こうしてゲームが進み、重要なシーンに差し掛かると台本が配られ、朗読劇のパートに移行します。これはRPGゲームで例えるならば、イベントシーンで3Dやアニメーションムービーが流れるのと同じ感覚と言えます。
そして物語が佳境に入り、残りターン数が限られる中で謎を解き、正しい行動を取ることでグッドエンディングを迎えることができます。エンディングは一種類だけでなく、ゲームクリアに失敗した時のバッドエンドをはじめ、複数用意されているといいます。
観客もLINEで謎解きに参加
こうした謎解きは決して簡単なものではないのですが、謎を解くのは役者達だけでないというのがボイスミステリーの最大の魅力と言えます。ターンごとの役者の行動にしばしば司会兼ゲームマスターがアドバイスをくれますし、何より、観客も一緒になって謎解きに参加し、アドバイスを役者に直接送ることができます。
この役者とのやり取りに使われているツールがLINEのオープンチャットです。オープンチャットとはそのトークルームのURLさえ知っていれば誰でも参加できるもので、加わるユーザーもそこでは匿名のハンドルネームでの参加も可能です。オープンチャットのURLは入場時に観客に配られる紙に印字されているQRコードで共有されます。
これを使って役者達のターンごとの行動に対して、観客から直接声を出さずともアドバイスを送ることができます。また、観客からの情報だけでなく、運営側からLINEで役者達が読み上げてきた紙の情報やアイテムの画像データも投稿されています。オープンチャットは役者もリアルタイムで見ており、観客だけでなく役者も情報の整理に活用できます。
観客が導き出したヒントは、その場で唯一正解を知る司会兼ゲームマスターが役者に正しい行動を取らせるための理由作りにも一役買っており、ボイスミステリーに欠かせないものとなっています。
7月に都内で4公演
7月10日(日)と17(日)には東京・池袋で各日昼と夜の2回、計4回にわたってボイスミステリーが公演されました。昼公演と夜公演で使用される作品(ゲーム)が異なり、昼の部が『摘発:思惑めぐる南国と謎の人工知能』、夜の部が『追想:始まりの宝石と真夜中の包囲網』となっています。主要登場人物はいずれも3人で共通しています。
『摘発:思惑めぐる南国と謎の人工知能』は、捜査機関のエージェントである3人が南の島に赴き、その島で起きている異変を解き明かしその核心に辿り着く話。『追想:始まりの宝石と真夜中の包囲網』は、タイムカプセルをあけに小学校を訪れた3人の幼なじみがある特殊な宝石を手に入れたことをSNSに投稿したために、それを狙うエージェントに包囲されることになり、夜の学校から脱出する話となっています。
ゲームルールは多少異なり、例えば『摘発』のほうではマップ移動が一度に隣接するマスにしか進めず、またキャラクターごとにとれる行動に違いがあるのに対し、『追想』のほうは一度にマップ移動できる範囲は決められたエリア内であればどこでも可能で、またキャラクターごとにとれる行動にも基本的に違いはありません。『追想』のほうがルールがシンプルである分、謎解きが難しくなっています。いずれの作品も最後に次回作に繋がりそうな引きがあるのも特徴です。
10日と17日の回のいずれもこの『摘発』と『追想』が演じられましたが、演じる声優が各日で異なりました。10日は岩崎諒太、田丸篤志、葉山翔太の3人、17日は石谷春貴、伊東健人、小林裕介の3人の男性声優です。司会兼ゲームマスターは全4回共通しており、声優の田中正平が務めました。
筆者は全4回の公演を視聴しましたが、同じ作品でも演じる声優によってゲームのアプローチや進み方が異なり、そこに役者の個性が出ました。こうした点もボイスミステリーの醍醐味と言えるでしょう。
朗読劇の新しいフォーマット
ボイスミステリーは元々CAT-HANDSが5年ほど前から単独で企画・制作していました。そこに今回の7月の公演からポニーキャニオンが加わったことで、今までなかったキャラクターが追加され会場でのグッズ販売が新しく始まり、インターネット配信でもボイスミステリーが見られるようになった経緯があります。
なぜボイスミステリーに目をつけたのか、ポニーキャニオンの中島純プロデューサーはこう話します。
「CAT-HANDSさんと別件でお仕事させて頂いているうちに『こんなイベントもやってます』ということでご招待いただいて、実際に観に行ったところ、これは非常に優れた新しい朗読劇のフォーマットだと感じました。それですぐにCAT-HANDSさんに一緒にやらせて頂けないかとご相談したのがきっかけです。ポニーキャニオンが持つ長年の蓄積でもある役者の手配や映像配信、キャラクターコンテンツ化やグッズ化などのノウハウを、今回のボイスミステリーから惜しみなく投入させていただきました」
演じた声優による評判も上々です。17日の回を演じた石谷春貴は「途中ミニゲームを入れることで、観客の皆さんと一緒に楽しめるのではないか」、小林裕介は「それこそみんなで投票してもらってキャラクターの行動を決めるパートがあってもいいのではないか、本当にやり方が無限に広がっていくコンテンツだと思う」と最後に話し、参加したプレイヤーからも様々なアイデアが出てくるのがボイスミステリーの面白さや奥深さだといえます。
次回は9月11日(日)と25日(日)で公演が決まっており、11日(日)公演には沢城千春、寺島惇太、堀江瞬が出演し、25日(日)公演には小笠原仁、榊原優希、廣瀬大介が出演します。中身はまだ謎に包まれていますが、『摘発』と『追想』の最後が次回作に繋がりそうな構成になっていたのと、『摘発』と『追想』のキャラクターが引き続き登場する模様で、物語の続きが展開されるのかもしれません。
「同じ作品でも違う声優がやるとどうなるのか?」と思わせてくれるのもボイスミステリーが持つ最大の魅力で、いかにフォーマットとして優れているかを実感できます。今のところ男性声優中心で構成され、ボイスミステリーの面白さはほとんど女性ファンにしか知られていないのが現状です。今後は女性声優の出演などを通じて、男性のボイスミステリーファンも増えていけばいいなと思います。
(舞台上の写真はいずれもポニーキャニオン提供)
(c)Voice Mystery PJ