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真飛聖を支える“2つの心得”

中西正男芸能記者
女優として新たな道を歩みだし、5年が経った真飛聖

女優・真飛聖さんが宝塚歌劇団を卒業し、新たな道を歩み始めてから丸5年が経ちました。織田裕二さん主演のTBS系ドラマ「IQ246~華麗なる事件簿~」にも出演中。織田さん、土屋太鳳さん、ディーン・フジオカさんら華やかな面々の中でも存在感を見せています。同じ芝居の世界とはいえ、タカラヅカ時代とは全く違う日々。不安や葛藤と向き合うこともありますが、そんな時に背中を押してくれるのはタカラヅカの先輩からもらった“2つの心得”だと言います。

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女優5年、男役20年

タカラヅカを退団して、今のお仕事になって丸5年。今でも男役のクセは出ますよ(笑)。やっぱり20年やってきたので、5年じゃ戻りません…。髪の毛も長くなって、スカートもはくようになりましたけど、ふと気づいたら座っていても足が開いてたり(笑)。本来、女性なんですけど「アレ?女性らしい仕草って、どんなのだったかな…」と迷うことも多々ありますし。

実際、今、やらせていただいているドラマ「IQ246~華麗なる事件簿~」でも、いろいろ考えもしました。私の役・今市種子は男っぽい女性刑事という役。台本も基本的には男言葉で書いてありますし、それだけ男社会でもまれて、結果、男っぽくなったという女性なんです。

ただ、これは微妙なニュアンスなんですけど“男っぽい女性”と“男役”は全く違う。男役を20年やってきた私がやることによって男役に見えたらダメだなと。でも、でも、さらにもう一歩先まで考えて、私がやる以上、男役というものが少し垣間見えても、それはそれで、私がやる意味で、お楽しみいただける方もいらっしゃるのかなと。これは非常に難しいさじ加減でもあるんですけど、今回はそのバランスをすごく考えました。

共演者から学ぶ日々

あと、感じているのは、皆さん、とても役に対して良い意味で貪欲でらっしゃるなと。常に、その役について考えているというか。だから、撮影の合間も、織田さんをはじめ、ずっとその役のままでいらっしゃることが多いんです。よく“オン”“オフ”って言いますけど、私はそこを切り替えてきたというか、舞台の上、カメラの前では役になりきるけど、それ以外では自分で過ごすというのがいつものパターンだったんです。でも、今回は私も休憩中も役柄のままのトーンでいるようにしてみたんです。

そうすると、意外な効能みたいなものもあるんだなと。というのは、役のまま、雑談をしたりすると「この役の人がこんな話をしたら、確かにこういう展開になっていくよな…」というシミュレーションにもなる。そこから、こんな流れもできるかもという部分までもが生まれていく。新たな感覚でした。

タカラヅカ時代は、毎回作品は変わるけど、同じ仲間とお芝居をしていく。だからこその阿吽の呼吸やチームワークがあるんですけど、基本的にはいつも一緒のメンバー。でも、退団してからのお仕事というのは毎回「はじめまして」から始まることが多い。

最初は「もう、この人たちとはこの作品が終わったらお別れなんだ…」という寂しさを感じてもいたんですけど、だからこそ生まれる緊張感や、グッと凝縮する濃さみたいなものもあるんだなと。そして、また次のお仕事では新たな出会いがある。その刺激と言いますか楽しみも、今は感じられるようになってきました。

さらに、5年やってきた中で、前に作品でご一緒した方と再び会うということも出てきましたしね。そういうサイクルがあると、自分も今の世界で積み重ねができているんだなとも感じます。

先輩からの教え

今で5年。こうやってお仕事ができている心の支えというか、自分の軸になっているもの。今振り返ると、それはタカラヅカ時代に体験させてもらった2つのことが大きかったなと思います。

まず1つめは2003年。タカラヅカに在籍しながらタカラヅカ以外の舞台に出る外部出演というのがあるんですけど、その形で舞台「シンデレラ」に出してもらったんです。そこで初めて王子役をやることになりました。実は、これにとても迷ったんです…。「王子ってなんだろう」ということをずっと考えて「王子様なら、こんなことをするかな」とか、普段の私服からしてヒラヒラがついた服を着たみたり。いろいろ考えて、いろいろやってみたんですけど、やればやるほどアタマが「王子とは何だ…」ということで、袋小路に入ってしまう。そんな時に、共演の鳳蘭さんをはじめ、タカラヅカの大先輩が言ってくださったんです。

「今、ガチガチになってない?王子といっても、王子である前に人間なんだから。王子という性格もないし、王子だからこうしなきゃというのはないのよ。あなたの心が動くままに動いて、あなたの歩幅で歩いて」

この言葉を聞いて、一気に自分の心が楽になったんです。言われれば、そうなんです。王子と言っても、いろいろな王子もいるし、これが正解なんてことは本来ない。ただ、どんどん自分で自分をどんどん追い詰めていっちゃってたので、私にとってはここから抜けられたというのはすごく大きかったんです。そして、100年以上続いているタカラヅカがの歴史を、そして、その中に自分がいるということを強く感じた体験でもありました。

今でも女性を演じる時に、さっきもお話したように「女性らしい動きってどんなのだろう」とか細かい部分では思うことはある。ただ、幹の部分では「男性も、女性も、そもそも人間なんだ」という広い視野というか、柔らかいアタマというか、そういうものを持てている。この感覚って、今こそ役立つものだなと感じています。

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そして、もう1つは私が組替えになった時(05年、星組から花組に異動)、先輩で月組トップスターの瀬奈じゅんさんからお手紙をいただいたんです。瀬奈さんとは直接お付き合いがあったわけではないんですけど、実は、密かに組替えですごく悩んでいた時期だったんですけど、その気持ちを見事なまでに察してお手紙をくださった。瀬奈さんも組替えも経験されているし、それも踏まえて言葉をいただいたんです。

「いろいろ考えるかもしれないけど、そもそも、男役はいつまでもできるものではない。タカラヅカでしかできないし、それがやれている今、やらなくてどうするの?私はしっかりと見てるから、頑張ってね」

この言葉も、本当にその通りだなと。男役ができる場所、時間なんて限られているし、自分がそれを楽しまないでどうするんだと。こちらも、今でもいろいろな役をいただきますし、それが難しくて逃げ出したくなる時もある。でも、この役ができるのは今しかない。だったら、今、楽しんでやろうと。そう思えるようになったんです。

タカラヅカへの恩返しとは

今の立場でタカラヅカにお返しすることがあるとすれば、タカラヅカに興味がなかった方が私を見てくださって「あ、この人って、タカラヅカだったんだ」と後付けで知ってもらって、タカラヅカに興味を持ってもらう。そういう存在になれるように、自分自身が頑張る。それしかないと思っています。もちろん、簡単なことではないし、本当に一歩、一歩なんですけどね。

…すみません、私、いろいろまじめに話しすぎましたかね?大丈夫ですか(笑)。

真飛聖(まとぶ・せい)

10月13日生まれ。神奈川県出身。95年、宝塚歌劇団入団。2007年に花組男役トップスターに就任する。11年に歌劇団を退団し、ワタナベエンターテインメント所属となる。12年、フジテレビ系「37歳で医者になった僕〜研修医純情物語〜」でテレビドラマ初出演。14年、映画「柘榴坂の仇討」で「第10回おおさかシネマフェスティバル」新人女優賞を受賞する。現在、放送中のTBS系ドラマ「IQ246~華麗なる事件簿~」に警視庁捜査一課の刑事・今市種子役で出演中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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