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2020年アメリカ初の女性大統領が誕生する「女らしさ、自分らしさ」にこだわれ 日本の女性首相はいつ?

木村正人在英国際ジャーナリスト
米NYで開かれた世界女性サミットに出席するヒラリー・クリントン氏(写真:ロイター/アフロ)

『拝啓マダム・プレジデント』

[ロンドン発]バラク・オバマ米大統領時代のホワイトハウス広報部長(大統領補佐官)で、民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏の広報部長を務めたジェニファー・パルミアーリさん(51)が24日、新著『拝啓マダム・プレジデント 世界を率いる女性大統領への公開書簡』のプロモーションのためロンドンにやって来ました。

ジェニファー・パルミアーリさん(筆者撮影)
ジェニファー・パルミアーリさん(筆者撮影)

ヒラリー氏は2016年の米大統領選で得票数では共和党のドナルド・トランプ大統領を286万票以上も上回ったものの、州ごとに割り振られた選挙人の獲得数で敗れてしまいました。女性の多くがヒラリー氏の敗北にがっかりしているため、パルミアーリさんは意識して楽観的に新著を書いたそうです。

米誌フォーブスの「世界で最もパワフルな女性」に通算で11回も選ばれたドイツのアンゲラ・メルケル首相をはじめ、イギリス史上2人目の女性首相のテリーザ・メイ首相、今年6月に第一子を出産予定のニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と女性指導者は世界では決して珍しくなくなりました。

しかし、アメリカでは初の黒人大統領(オバマ氏)が誕生したものの、女性大統領の誕生は人種差別、性差別的な発言を繰り返したトランプ大統領に阻まれました。ヒラリー氏は女性票で12ポイントもリードしたものの、白人女性票ではトランプ大統領に負け、大学に進学しなかった女性票を獲得するのに苦戦しました。

「トランプ流の古いやり方はいつまでも続かない」

パルミアーリさんは「トランプ大統領の勝利はアメリカ女性の魂を打ち砕いたというより、こんな古いやり方はいつまでも続かない証拠だと逆に女性たちを奮い立たせたように感じる」と総括します。アメリカ女性は自分たちの道をすでに歩み始めています。

次世代の女性には、男支配が続くアメリカ政界でも「女らしさ」を政治的なアドバンテージだと考えてチャレンジしてほしいと訴えます。「少女から若い女性、年配の女性まですべての女性に、私にもアメリカ初の女性大統領になるチャンスはあると思って読んでほしい」

ヒラリー氏は口を開いても開かなくても批判されるなら、自分の心境を語るべきだというのがパルミアーリさんの立場です。

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート 2017」によると、アメリカは144カ国中49位(日本は114位)、06年は23位でした。政治参画も06年の66位から随分ランクを落として96位(同123位)です。連邦議会における女性議員の割合は19.4%で85位(同9.3%、129位)、女性閣僚の割合は16.7%で84位(同15.8%、88位)でした。

世界ランキングで見た場合、アメリカも日本と同様、女性の地位は悪化しています。「ヒラリー氏が大統領選に敗れたのはジェンダーが問題ではなく、古い価値観にしがみつく『恐竜』たちの抵抗が強かったからでは」と筆者が質問すると、「その問題は1年では解決しない。乗り越えるのに20年はかかる」と答えました。

「トランプ大統領は中間選挙に勝てない」

パルミアーリさんは「トランプ大統領は今年11月の中間選挙には勝てない。2020年の米大統領選で女性大統領が誕生する可能性は十分にある」と断言しました。

ヒラリー氏が大統領選で犯した最大の過ちは、「ヒラリーは弱い」というトランプ大統領の攻撃に反応して「女性であることは何の問題でもない」ということを証明するために力を入れてしまったことです。

それがヒラリー氏に男性大統領の資質を求めることになり、彼女の人間性と、女性のヒラリー氏だからこそ大統領執務室に吹き込める資質をアピールするチャンスを奪ってしまったと分析します。その反省から、男性の大統領にはない「女らしさ」「自分らしさ」にこだわることこそが大事だと言います。

ヒラリー氏は辛い時は朝起きてその日にしないといけないことに集中し、ベストを尽くします。それを次の日も繰り返します。ヒラリー氏は夫のビル・クリントン元大統領やオバマ前大統領のようなインパクトのあるストーリーがないことを気にしましたが、もっと自分の信念と力、女性だからこそのストーリーにこだわる必要がありました。

初の女性大統領は

誰がアメリカ初の女性大統領に一番近いのか。「自分にそのつもりはない」と首を振ったパルミアーリさんが一番に挙げた女性大統領候補はカーステン・ギリブランド上院議員(51、ニューヨーク州)。二番目はカーマラ・ハリス上院議員(53、カリフォルニア州)。三番目はエリザベス・ウォーレン上院議員(68、マサチューセッツ州)でした。

民主党は女性の人材が豊富です。

アメリカの世代ごとの人口構成を見ておきましょう。

グレート世代(91歳以上)210万人

サイレント世代(73~90歳)2445万人

ベビーブーマー(54~72歳)7277万人

X世代(38~53歳)6553万人

ミレニアル世代(20~37歳)8074万人

Z世代(0~19歳)8224万人

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一番大きな膨らみを持つZ世代(ジェネレーションZ)が有権者になる頃には古い価値観にしがみつく「恐竜」たちは滅び、アメリカの政治は激変しているのは必至です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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