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なぜ、氷が溶けるとダメなのか

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
北極海の海氷は一年あたり北海道に匹敵する面積が消失している(写真:アフロ)

 北極海の海氷は毎年、9月に最も小さくなります。今年は9月16日、466.10万平方キロメートル(速報値)となり、記録が残る1979年以降では10番目に小さくなりました。

減る北極、増える南極

 世界の海の約15パーセントは氷に覆われています。北極海と南極海は季節によって満ち欠けしますが、両者には大きな違いがあります。

 北極海の海氷は危機的な状況で、一年あたり北海道に匹敵する面積が消えています。小さくなるだけでなく、氷の厚さも薄くなっていて、容易に溶けやすくなっていることも減少に拍車をかけています。

 一方、南極海の海氷は海域による変動が大きいものの、全体としては増える傾向にあります。この状況の違いは絶滅が心配されるホッキョクグマと愛らしいしぐさのペンギン、かれらの置かれている立場に表れているように感じます。

【9月中旬の北極海の海氷面積】最大だった1980年と今年(2022年)を比べた図(気象庁ホームページより、筆者が言葉を加えました)
【9月中旬の北極海の海氷面積】最大だった1980年と今年(2022年)を比べた図(気象庁ホームページより、筆者が言葉を加えました)

温暖化のホットスポット

 なぜ、北極海の海氷が減ると困るのか。ホッキョクグマだけではない理由があります。

 海氷は白く明るいために、太陽のエネルギーの50%~70%を反射します。氷があるから冷たいのではなく、太陽の光を反射するので、北極圏が涼しく保たれるのです。しかし、海氷が溶けてしまうと、太陽のエネルギーのほとんどを海が吸収してしまうため、海水温が上昇し氷が張らなくなってしまいます。そうなるとますます海が太陽のエネルギーを吸収するようになり、温暖化が進みます。今、この悪循環に陥ってしまっていると考えられています。

白い表面と暗い海面では太陽の熱吸収に大きな違いがあることを説明している図(米国雪氷データセンターホームページより NSIDC Tom Prater/Carbon Brief)
白い表面と暗い海面では太陽の熱吸収に大きな違いがあることを説明している図(米国雪氷データセンターホームページより NSIDC Tom Prater/Carbon Brief)

 この40年あまりで、夏の海氷は半分以下になりました。あまりの急激な減少に、気象関係者は驚きを隠せません。何が起こっているのか、これから何が起ころうとしているのか、北極圏は世界中の研究者が注目しているホットスポットなのです。

極端な寒波の原因にも

 そうだとしても、北極というと遠い別世界のように感じます。一度だけ、フィンランド北部の北極圏に足を踏み入れたことがありますが、寒くて暗いイメージしかありません。

 なぜ、北極海の海氷に注目するのか。地球全体の2倍から3倍の速さで温暖化していることもありますが、それよりもエネルギーバランスが不安定になっているのではないかと考えます。例えば、昔と比べて日本海側の雪は少なくなりましたが、ときどき極端な寒波に襲われます。

 遠くで起こっていることを身の回りに置き換えて考えることはとても難しいけれど、耳を傾けて理解していきたいと思います。

【参考資料】

気象庁:海氷に関する診断表、海氷域面積の長期変化傾向(北極域)、2022年10月20日

気象庁:海氷に関する診断表、海氷域面積の長期変化傾向(全球)、2022年1月31日

米国雪氷データセンター(NSIDC)ホームページ

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは128冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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