名古屋城天守閣のため鎮守の森が伐られている
愛知県各地の神社で、鎮守の森の大木が次々と伐られていると聞いた。なかにはご神木もあるとかで、何が起きたのかと噂を呼んでいる。
たまたま訪れた愛知県新城市に、神社境内の大木が何本も伐られたという神社があった。武生神社である。
そこで現地を訪れて見るとともに、氏子総代に話を聞いてみた。
訪れると、参道の階段を登り切った両側に、太いヒノキの切株があった。さらに境内を見て回ると、幾本もの切株を見かける。いずれもヒノキで、多くは直径50センチ級の大木である。また残されたヒノキの樹皮は明るい赤茶の色になっている。これは檜皮を剥いた後だろう。
神社の由来は10世紀まで遡り、本殿のほか幾つも社殿があって、なかなか立派な造りだ。ただ常駐の宮司はいないらしい。近隣の人によると、もともと各地にあった村社の一つで、集落が合併した時に、ここに周辺の神社を合祀して移したそうだ。
氏子総代に尋ねたところ、「今年になって業者が、名古屋城の天守閣を建てるためのヒノキ材がほしいと言うので認めた」のだという。「ご神木はスギで、伐ったのは神木ではない」とのことだった。ただ切株から想像できるヒノキは、樹齢100年、いや150年生だろう。
それにしても、名古屋城の天守閣のために……。
たしかに河村たかし名古屋市長が、天守閣を木造で建て直すことに執心していると聞いている。しかし名古屋市議会はまだ予算を通していないはずだ。木造再建には反対の声も強く、まだGOサインが出たわけではない。それなのに、すでに木材集めを始めているのか。
もちろん木材、とくに国産材は欲しいと言ってもすぐに集まらない。大木なら尚更だ。また伐採後の乾燥も必要だから、受注するつもりの竹中工務店は、先を読んで動いているのだろう。名古屋市も、そのための予算は付けたと聞く。
しかし、未定の計画のために鎮守の森を伐っているとは。
「もっと国産材を使おう」という声があるから、日本の森には木があふれているかのような印象を持つ人もいるだろうが、それは戦後の植林した木がようやく使えるようになっただけだ。天守閣に使いたいような無垢の大径木は、底をついている。そこで狙いをつけたのが、神社のご神木なのだろう。
実は数年前からご神木が急に枯れ始める事件が全国で頻発している。そこに木材業者が現れて、「どうせ枯れるんだから私が買い取る」と安く引き取るのだそうだ。だが、枯れた原因は誰かが薬剤を注入したためだった。おそらく業者が事前に行ったのだろう。そんな犯罪的な真似をしても欲しいのが、ご神木クラスの大径木なのだ。
今の愛知県で起きていることは、ちゃんと宮司や氏子の許可を取っているようだから、それほど悪質ではないだろう。
運営に苦労している神社にとっては、臨時収入になると喜ばれているかもしれない。天守閣の一部になるのなら、と認めた気持ちもわかる。しかし長く人々が守ってきた鎮守の森が、まだ正式に決定もしていない天守閣再建というお題目で伐られることがよいことなのか。
現在の名古屋城は本丸御殿の復元が進んでいるが、ここには木曽檜を使っているそうだ。木曽檜も資源量は少なくなった。伊勢神宮の式年遷宮に使う分も十分な量を確保するのが難しくなっている。木造建築物が増えるのは悪いことではないが、その建物が貴重な天然林を破壊しているとか、鎮守の森から伐りだされた木材を使っていると聞いたら素直に喜べない。
現在の鉄筋コンクリート製の名古屋城天守閣にも昇ってみた。「尾張名古屋は城でもつ」と言われた城だが、内部の展示の貧弱さに驚いた。なぜ江戸時代の長屋が再現されているのかわからない。そもそも入口に耐震性能が足りないという看板を掲げているのに、観光客を中に入れているのも妙だ。木造化を推進する前にやることがあるはずだ。(木造の方が耐震性能が高いというのも?である。)
最後に。武生神社のヒノキは、伐って見ると質が悪くて天守閣には使えないと言われたそうだ。結局、一般のヒノキ材として使われるのだそうである。