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探偵ドラマ「シャーロック」がBBCを潤す ―来年年頭に新シリーズ

小林恭子ジャーナリスト
BBC「シャーロック」のウェブサイト

18日、スコットランドでは独立の是非を問う住民投票が行われている。結果は19日未明にも判明する見込みだ。

もし独立賛成派が多数となり、独立することになったら(実現は早くても2016年3月以降)、現在は英国全土をカバーするBBCの番組を見たいとき、「外国」となったスコットランドではどれほど自由に見ることができるのだろう?例えば、BBCの見逃し番組再視聴サービスは英国内のテレビライセンス料(NHKの受信料に当たる)を払っている人向けに提供されている。新たなルールを決める作業が必須となりそうだ。

ネットでテレビを見る時代となり、BBC自体の将来に不透明感も出ている。

先月25日、米テレビ界で最高の栄誉とされる第66回エミー賞の授賞式が、ロスアンゼルスで開催された。ミニ・シリーズ/テレビ・ムービー部門の主演男優賞、助演男優賞、脚本賞を獲得したのが探偵ドラマ「シャーロック」。英国ドラマの威力を印象付けた。

日本でも人気の「シャーロック」(2010年夏に初放送、2回目が2012年1月、3回目が今年1月)は世界224の国・地域で放送権が販売されており、BBCにとって最大の「輸出品」だ。

BBCの最新の年次報告書(2013-14年)によると、テレビライセンス料は年間約37億ポンド(約6400億円)。BBCは国内の活動をこれでまかなっているが、緊縮財政を敷く英政府の方針の下、年間のライセンス料(145・50ポンド)はここ数年、値上げなしの凍結状態だ。

収入増の頼みの綱が商業部門で、今年度はBBCの番組を海外で販売する「BBCワールドワイド」などが14億4100万ポンドを稼ぎ出した。このうちの1億7400万ポンド分がBBCの番組制作に回っている。前年度から11%増だ。

「シャーロック」は初回放送から視聴率がうなぎのぼりとなり、最新シリーズ放送後には中国の動画共有サイト「Youku」で7000万回を超えるヒットを記録した(BBC)。来年1月の次回シリーズの放送はさらに大きな注目を集める見込みだ。

筆者は番組のファンだが、実のところ、3回目のシリーズにはずいぶんとがっかりしたものだー見ていただければ、同意する方もいらっしゃると思う。4回目もきっと見るとは思うがー。内輪話から脱却し、最初の頃の「謎解きで勝負!」に戻ることを望んでいる。

BBCは1920年代の放送開始からテレビライセンス料を主たる資金源として活動してきたが、デジタル時代にライセンス料制度は成り立たなくなるという見方が業界内では強い。見たいチャンネルあるいは番組を購読料(サブスクリプション)を払って見る手法が自然になるだろう、と。ライセンス料制度が瓦解すれば、BBCは収入の安定性を失ってしまう。世界中で販売できる質の高い番組の制作がBBCにとって死活問題になってきた。

(「週刊エコノミスト」のワールド・ウオッチコラム掲載分に若干補足しました。)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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