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育休記事は男性に読まれない マタハラを「女性問題」にしないために

小川たまかライター
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9月4日、20代の看護助手を妊娠を理由に解雇し、その後是正勧告にも従わなかったとして、茨城県のクリニックが実名を公表された。マタハラによる事業者の実名公表は初という。院長は勧告に対し「妊婦はいらない」「(男女雇用機会)均等法を守るつもりはない」などと応じたと報じられている。参考:「妊婦はいらない」茨城の医院“マタハラ”で初の実名公表(産經新聞)

マタハラ(マタニティーハラスメント)という言葉の認知度は、2013年からの2年間で急激に伸びたという。

厚生労働省が運営する「STOP!マタハラ〜妊娠したら解雇は違法です」のページでは、「『経営難』や『能力不足』を口実に掲げながら、妊娠・出産などを理由に、解雇やパートへの契約変更など不利益な取扱いを行うことは『違法』です」との説明がある。具体的な例として、「妊娠を報告したら『経営難』を理由に正社員からパートに降格させられた!」「上司から『うちでは産休はとれないんだよ』と言われ退職を迫られた!」「育休から復帰しようとしたら『戻り先はない』と言われた!」が挙げられている。「女性の方向け」と「事業者向け」のリーフレットもHPからダウンロードできる。安倍首相も、6月にマタハラ防止に向け法整備を進めて行く方針を示している。

9月17日には、日本労働組合総連合会が、マタハラに関する電話相談を受け付ける「連合 マタハラに負けない!! 産休・育休なんでも労働相談」を行う。

連合では3年連続でマタハラに関する意識調査を発表。今年は8月27日に第3回調査が発表された。

これによると、「『マタハラ』という言葉を知っている」と答えた人は93.6%。2013年が6.1%、2014年が62.3%だったことを考えると、急激に認知度が上がりつつある。2014年の新語・流行語大賞のトップ10に「マタハラ」が選ばれたことや、今年に入りアメリカ国務省の発表する『世界の勇気ある女性賞』をマタハラNet主宰の小酒部さやかさんが受賞したことも認知度に拍車をかけたのだろう。

ただし、この93.6%という認知度は、「全国在住の過去5年以内に、在職時妊娠経験がある20~40代女性654人」に聞いてのこと。妊娠経験のある女性が対象だから、この高さだったということも考えられるだろう。調査が発表された勉強会で、「男性に対する認知度の調査の予定はあるのか」と聞いたところ、今のところはないが検討するという回答だった。娘や妻がマタハラの被害に遭っているという男性からの相談例は、これまでにあるそうだ。

マタハラは女性の問題として考えられがちだが、当然のことながら、子どものいる女性だけの問題ではない。調査で寄せられた自由回答を見ると、それがよくわかる。

・男性も育児にかかわって、理解をできる者が上司として務めてもらいたいです(30代・東北地方・専業主婦)

・働くにあたり全員が、今現在の事実を知る必要がある。また、少子化を問題とするならばもっと出産についての知識を身に着け、男女共に自分のことと置き換えて考えてほしいと思う。妊娠を素直に喜べない社会はおかしい(20代・九州地方・契約社員)

・管理職や独身女性の理解を深めていくように勉強する機会を設定する必要がある。また、自分の時は育児休暇を取得出来なかったという経産婦の先輩も理解が足らないと思う(20代・近畿地方・正社員)

・男性の長時間労働こそ、改善を(30代・関東地方・パート・アルバイト)

マタハラをなくすためには、子育て中の女性以外の理解や行動が必要であり、さらに言えば管理職の意識を変えられるかどうかは非常に大きい。最近は男性が一人で子どもを抱っこして歩いている様子や、休日に父子が2人で出かけている様子を目にすることが増えたように思う。男性の育児参加は一昔前よりもかなり進んでいると感じるが、一方でまだ男性が育休を取ることは非常に少ない(2014年度の男性の育休取得率は2.3%/雇用均等基本調査)。マタハラに関して女性の意識だけが変わっても仕方がないのと同じように、男性の育休に関しても、男性の意識が変わることと同時に、社会の意識を変えなければならない。マタハラの問題は多くは、「長期で休んだり、復帰後も時短を取ることになる働く母を会社が嫌がる」ことによって起こる問題だが、そもそもの長時間労働を減らせば、時短を取るママ社員とそうではない社員の差は少なくなる。すでに長時間労働を減らし、女性が働きやすい環境にして成功しているランクアップのような例もある。

ところで、ランクアップは今年に入り、あるビジネス系ニュースサイトで長時間労働を減らすにはどうしたらいいのかという趣旨の連載を行っていた。30~40代男性をメインターゲットとするサイトだ。連載の4回目までのテーマは長時間労働で、非常にアクセス数が良かったそうだ。しかし最終回のみ、アクセスが激減した。最終回のテーマは「育休」だったそうだ。

私自身も、「産休・育休」「ワーママ・イクメン」「共働き」「保育園」「学童保育」など、子育て系のキーワードがタイトルに入る記事は男性から読まれないことを実感している(Yahoo!ニュース個人では、記事を読んだ人の男女比がわかる機能がある)。長い間、子育ては女性のものとされてきたのだから、ある意味仕方のないことだとは思う。多くの男性はわざと無視しているわけではなく、意識外のところで弾いているのではないかと思う。話が飛ぶようで恐縮だが、たとえば私は昔、定期購読していた雑誌があった。その中で毎回読んでいた2分の1ページのコラムがあったのだが、その上にある別のコラムがどんな内容なのかをずっと認識していなかった。あるとき気付いたが、それはあるスポーツに関するコラムだった。当時はそのスポーツに興味がなかったため、コラムの内容を意識的に認識することすらなく、「飛ばして」いたのだ。ましてや次から次へと記事が流れてくるネット上。育児を自分ごととして捉えていない人たちが、無意識のうちに興味のない育児関係の記事を読まない、そもそも目に入らないということはあると思う。

女性と男性の意識の差をつなげるためのキーワードはやはり「長時間労働」だと思う。先述した通り、長時間労働をどうするべきかについては男性も女性も関心が高い。「マタハラ」と「長時間労働」が同根の問題だと気付いている人もいるが、その認知をさらに広げていくべきだ。「長時間労働」が男性だけの問題ではないように、「マタハラ」も女性だけの問題ではない。厚生労働省のリーフレットはとてもわかりやすいが、「女性の方向け」ではなく、「出産を控えるご家族向け」などであった方が良かったのではないだろうかとも思う。

※実際に悩む人にとっては、下記のような無料相談は役に立つだろう。

■連合 マタハラに負けない!! 産休・育休なんでも労働相談■

産休・育休を経験した女性の弁護士、社労士、連合本部役職員が対応する。

9月17日(木)10時~20時

フリーダイヤル 0120-3919-25 ※9月17日限定の相談ダイヤル

対象:「マタハラを受けた」「産休・育休はないと言われた」など、マタハラや産休・育休に関する職場のトラブルを抱えている方。

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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