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新型コロナの最前線ではたらく看護師の待遇に改善の兆し 現場の声は

倉原優呼吸器内科医
(写真:ロイター/アフロ)

最前線にいる看護師

2020年の春に第1波がやってきて、そこから私たち医療従事者は幾度となく押し寄せる波と向き合ってきました。多くの医療従事者が最前線に立っていましたが、新型コロナ患者さんの最も近くで最も多くの時間ケアにあたったのは看護師です。

今回、書籍を執筆するにあたり、全国津々浦々で新型コロナのケアにあたった多くの看護師にヒアリングを行いました。パンデミック初期から個人防護具(PPE)をずっと着た状態で看護をしなければならないストレスは計り知れません。そのため、「コロナ病棟の中でずっと働いているのに、この給与ではさすがに割に合わない」と待遇面での不満を訴えた人も少なくありませんでした。

写真:ロイター/アフロ

コロナ禍における看護師の待遇

看護師の求人・転職情報サイト『看護のお仕事』では、看護師1,722人に「新型コロナウイルス感染症拡大を受けての労働環境に関する実態調査」を実施し、新型コロナ患者さんに直接かかわる看護師の50%超は、給与が減ったことを明らかにしています(1)。また、コロナ禍前と比較して「業務が多忙になった」と感じる看護師は約7割にのぼりました。これはつまり、「コロナ病棟で働いて」、通常より「忙しくなった」にもかかわらず、「給料が下がった」ということを意味しています。

さて、「夏のボーナスゼロ」に対して、看護師400人が一斉に退職の意向を示したという大学のケースは記憶に新しいです。ボーナスカットに踏み切った施設もあり、労働組合が「適切な手当が支給されていない」と声高に訴えた施設もありました。

国からは特別給付金も支給されていたものの、病院の収益を回復させるほどの額には至っていません。調査によると、約4,400病院のうち、2020年冬季ボーナスを満額支給できた病院は約6割にとどまりました(2)。

看護職は、夜勤手当を含めると20代前半では全産業の平均給与よりも高いのですが、30代以降にはこれが逆転しはじめ、40代では他職種より開いていきます。さらに看護師は、夜勤手当、夜間看護等手当、超過勤務手当などによって給与が底上げされており、業務内容を見る限り、基本給は低めに設定されていると感じます。

「成長と分配の好循環」と診療報酬改定による看護師の賃上げ

諸外国では、いまだ新型コロナ新規感染者数が多い状況が続いています。アメリカの某病院グループは、看護師の給与を大きく引き上げる発表をしました。離職や転職を引き留めるために、賃上げは必要不可欠な策でした。

写真:ロイター/アフロ

一方日本は、首相が掲げる「成長と分配の好循環」の一環として、2022年2月から看護師、介護職員、保育士の賃上げをおこなうことを今年11月19日に決定しました。介護職員や保育士の収入を、平均9,000円(月3%)引き上げる方針を明言しましたが、相対的に給与水準が高い看護師に関しては、やや限定的な平均4,000円(月1%)の引き上げにとどめました(3)。

段階的に同じ3%程度まで引き上げることを目指す予定ですが、「看護師の賃金上げ幅がまず制限された理由がよくわからない」と看護師から不満の声も聞かれます。

新型コロナで傷ついた病院が多いため、2022年度の診療報酬改定について、看護師などの医療従事者の人件費などにあたる「本体」部分の改定はわずかに引き上げる方向で検討されています。さらに、「本体」部分とは別に看護師の待遇改善に関する財源を確保すべきという見解が議員連盟から示されています。こうした流れが、早く看護師の賃金に反映させることができればと思います。

「犠牲なき献身こそ真の奉仕」というのは、フローレンス・ナイチンゲールが残した言葉です。看護は自己犠牲じゃありません。また、看護師は最前線で何でもやってくれる便利屋さんではなく、誇り高き専門職です。

【記事は『新型コロナ病棟ナース戦記: 最前線の現場で起きていたこと』(倉原優、メディカ出版)より抜粋、一部改変して掲載しています】

(参考)

(1) 看護師の求人・転職情報サイト:看護のお仕事.コロナ患者に直接関わる看護師の50%超が給与減【看護師の労働環境に関する実態調査】.(URL:https://kango-oshigoto.jp/media/article/3347/

(2) 日本病院会ほか.新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第3四半期)―概要版―.2021.(URL:https://ajhc.or.jp/siryo/20210216_covid19ank.pdf

(3) コロナ克服・新時代開拓のための経済対策(令和3年11月19日)(URL:https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2021/20211119_taisaku.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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