潜水母艦は「港で停泊中に」潜水艦に補給する
潜水母艦(潜水艦母艦)という艦種があります。これは潜水艦に補給を行う目的の船なのですが、港に停泊した状態で補給するのが基本的な運用方法です。通常の補給艦は洋上で航行しながら補給を行うので、同じ補給が目的でもこの点が大きく異なる性格の船になります。
水上艦への補給は洋上で停船していたら敵に狙われやすいので移動し続けながら行います。一方、水上艦と異なり潜水艦は乗員が自由に動ける甲板の面積がほとんど無いので、船外作業を波の高い外洋で行うことが難しく、基本的に潜水艦への補給は波の無い安全な港湾の中で停泊中に行うことになります。
第二次世界大戦以前では沖合いの洋上で停船中に潜水艦への補給を行う運用もありましたが(前線に近い海域での隠密補給作戦になるので、潜水母艦ではなく仮装巡洋艦や補給潜水艦が実施)、現代では航空機と人工衛星が発達し洋上で停船していたら発見されやすくなったのと、燃料補給が不要な原子力潜水艦が主力となったこともあり今はもう基本的には行われていない方法です。
潜水母艦の任務は本国より遠く離れた港で潜水艦に食料や水、弾薬(魚雷、ミサイル)の補給を行ったり、潜水艦の部品修理や、潜水艦の乗員を宿泊させて休養を取らせる、病気の検診、入院などを行います。船自体が小さな工場や病院を持つ潜水艦基地として機能します。補給艦というよりは遠征移動基地と捉えた方がいいかもしれません。
前線に近い場所では敵の攻撃が激しくなるので、港湾施設は破壊されることが予想されます。移動できる潜水母艦ならば状況に応じて安全な後方に下がったり、他の港湾で活動することができます。
・アメリカ海軍発表写真:170302-N-ZD021-027
潜水艦への補給を行う潜水母艦「エモリー・S・ランド」。左右の両舷に展開式作業台を伸ばしている(普段は後方に畳まれている)。船体中心線後方に大型クレーン1基と、船体両舷前方に小型クレーン1基ずつ計2基を搭載。展開式作業台もクレーンも停船し接舷した状態で補給を行う装備。潜水艦同時4隻に補給が可能。
展開式作業台からホースが降りている。おそらく真水の補給用。
・アメリカ海軍発表写真:211125-N-SS370-1372
潜水母艦「フランク・ケーブル」の展開式作業台。手前の黒い船体は日本海上自衛隊潜水艦「せきりゅう」。