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リモートワーク疲れの正体【井上一鷹×倉重公太朗】第1回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは、JINS 所属で株式会社Think Labの取締役をしている井上一鷹(いのうえ・かずたか)さん。JINS MEMEは、身につけた人の目の動きや体の傾きなどを計測し、集中状態を見える化するデバイスです。そこから得た情報をもとに、五感刺激を最適化し、「世界一集中できる場所」を目指してつくられたのが会員制ワークスペースThink Lab。集中に関するさまざまな情報を分析し、発信されている井上さんに、テレワーク時代の新しい働き方について意見を伺いました。

<ポイント>

・リモートワークにポジティブな人、ネガティブな人の違い

・ストレスを感じるオ仕事環境と、その改善策

・在宅勤務でオン・オフのスイッチを切り替えるには?

(前回の対談)

「”生産性”を考えよう」井上一鷹×倉重公太朗 第1回 JINS MEME誕生秘話

https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20180918-00097205/

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■集中できるのはどんなオフィスか?

倉重: 本日は株式会社JINSの井上一鷹さんにお越しいただいています。

『WEEKLY OCHIAI』にもご出演されており、落合陽一さんと肩を並べる大物です。

2度目の登場ですが改めて自己紹介をお願いします。

井上:私などは全然落合さんのような方ではありません(笑)。

眼鏡屋のJINSの者なのに、眼鏡をしていなくて恐縮なのですけれども。

倉重:確かに、コンタクトです(笑)。

井上:今私のしていることをざっくりご紹介すると、JINS MEME(ジンズミーム)という、ウェアラブルデバイスといわれる眼鏡型の端末を開発しました。

まばたきの数や姿勢を計測して、どれぐらいの人が今生理的にきちんと集中できているか、頭を使えているかを見える化します。

眼鏡の新しい可能性として展開し、新しいバージョンも出しています。

3年前に働き方改革として「人の働く状態を見える化すると面白いのではないか」というお話をいただき、いろいろな会社にこの眼鏡を持って行っては、「皆さんの会社の集中を上げましょう」「生産性を上げましょう」という提案をさせていただきました。

そうすると当然「JINSの社員は集中しているのか?」と聞かれますよね。

うちの会社でも測ってみたのです。

弊社は、5年前に「『日経新聞』が選ぶニューオフィス賞」をいただいたほど、当時は一番いいオフィスだったのです。

それなのに、と恐ろしく集中していません。

JINSにいるときが一番集中していないのです。

私3年間言い続けているので恥ずかしいのですが、ルノアール最強説をずっと唱えていて。

倉重:ルノアール最強説は本当におっしゃるとおりだと思います。私も大好きです。

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井上:土曜の昼の公園でも集中できるのに、オフィスが一番集中できないということが明らかになりました。

倉重:オフィスがこれでは困りますね。

井上:そうなのです。それから、JINS MEMEを使って、集中するために五感刺激をどう最適化したらいいかというデータを導き出しました。植物の配置はどうあるべきか、耳から入れる音源はどうあるべきかを研究し、環境づくりのコンサルティングを実践しています。

その空間を体験できるのが、「Think Lab」というワークスペースです。

倉重:なるほど。集中に関して豊富なデータと分析結果をお持ちということですね。

今テレワークやテレカン疲れしている日本人が増えています。

そういう意味では、大変参考になる知見をお持ちなのではないかと思っています。

井上:恐縮です。

倉重:先日もNewsPicksで語られていましたけれども、今多くの人がテレワークを実践しています。「意外といけるのではないか」という前向きな声がある一方で、「今までにない疲れがある」という方も非常に多くいらっしゃるわけです。

その理由をご説明いただいてもよろしいでしょうか?

井上:弊社も、本社の200人ほぼ全員が在宅勤務を余儀なくされました。「効率がいい」と言う人もいれば、「つらくてしょうがない」と言う人もいます。

その理由を私なりに考察しました。

もともとJINS MEMEの開発を担当していたので、「在宅勤務でどうやったら集中できるか」ということは大勢から質問されていました。

ヒアリングをしていく中で、在宅勤務に対してポジティブな意見とネガティブな意見がはっきり分かれる因子は、この縦軸と横軸の関係だということがわかりました。

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井上:縦軸は、仕事環境です。

椅子一つとっても、オフィスチェアはそれなりに考えられています。

私たちは平均で6時間半ぐらい座っているのです。

ワーカホリックの人は下手したら12時間くらい座っているかもしれません。

オフィスチェアは長時間座る前提で作られているので、メッシュ構造で通気性も良く、それなりの弾力性を担保しているから、床ずれにもなりにくいのです。

ところが一般的な在宅勤務では、リビングのいすや机で無理やり仕事していると思います。

木のフレームのいすは1時間以上座るように設計されていないので、長く腰掛けると腰痛の原因になります。

弊社はまだ在宅勤務1カ月目ですが、3カ月後ぐらいになると腰痛は絶望的に増えると思います。

倉重:労災認定されそうですね。

井上:絶対になると思っています。

これはTipsですが、東洋人はもともと腰痛持ちが多いのです。なぜかというと、黄色人種は腹筋が強くて背筋が弱いのですよ。

もともと私たちはのこぎりを「引く」ようにつくっています。引くときに使うのは内側の筋肉です。欧米人はのこぎりを押します。これは背筋が強いからです。

背筋が弱い私たちが木のいすに長時間座ると、腰を立てて背筋で姿勢を保つことが難しいので、腰痛になりやすいのです。

いすが一番の原因ですが、それ以外にもいろいろあります。

横軸は家族構成です。

私は単身で、部屋を勝手にリノベーションしているので、仕事がはかどる家になっています。

「在宅のほうが、効率がいい」と思っているぐらいです。

ですが、お子さんのいる家庭で、保育園や小学校が休校している状態は、ソリューションが見付からないぐらい絶望的に困っている方が多いと思います。

課題を聞いてもソリューションを提案しきれないので、話を聞くのもつらい感じです。

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井上:これらの仮説を立証するために、JINS MEMEを使って、リモートワーク疲れについて検証しました。

オフィスで集中している人は全体の50%ぐらい。

1時間集中しようとしたら30分できるというのが一般的なオフィスワーカーです。

私の場合は、オフィスにいるより家のほうが断然生産的ということがわかっています。

ですが、育児をしていたり、在宅勤務の環境を整えていなかったり、夫婦共働きでお互いがテレカンに入ることが常態化すると、やはり集中が落ちていてきます。

倉重:書斎っぽく使える部屋の領土争いが起きるときついでしょうね。

井上:知り合いがみんなベランダに追い出されてテレカンに入っているのを見ると、「これはやばいな」と思っています。

■テレワーク疲れの正体とは何か?

井上:「テレワーク疲れとは何か」という質問に対しての私の一つの答えは、集中できないから仕事が終わったときの達成感が持ちにくいという仮説です。

私はこういうビジネスをしているので、3年ぐらい集中力を測りながら暮らしています。

集中できていた日とできていない日の心理状態の違いは何か考えると、達成感の有無なのです。

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井上:これは知的生産をしている人が多いデータです。仕事自体が大きく変わっているわけではないので、どれぐらい自分の能力を注ぎ込めたかという達成感があるかどうかで、疲労度も異なるのではないかというのが1つ目の仮説。

2つ目は、私が周囲の人の話を伺ってまとめたものです。

今起きている在宅勤務は、物理空間にいろいろなものが押し込められたような状態だと考察しています。

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井上:縦軸に物理空間があって、横軸に社会空間を配置しています。

オフィスのリアルパブリックには会議があります。オフィスの中にも1人の仕事があったり、社内のグループやスラックのような連絡ツールがありますね。

プライベートの中にも当然リアルパブリックがあり、育児や介護をしなければなりません。右側にはSNSがあり、LINEやメッセンジャーの通知などが鳴る世界があります。

在宅勤務を余儀なくされている状態で何が問題かといったら、この6つの象限が、1個の物理空間に押し込められることです。

私のチームに、ワンルームマンションに住んでいる若手がいます。都内のワンルームですから狭いのです。ベッドで最高にリラックスする場所と、ものすごく集中して仕事しなければいけない場所が、全部4平方メートル以内にあります。これは普通に囚人のような状態です。自分の役割を切り替えることを無理にでもしなければいけません。

在宅勤務ではないときには、移動したりたばこを吸ったり、人と少し雑談したりする時間があります。アナログで0から1にゆるやかに立ち上げているのです。ところが在宅勤務では、チェックインを0秒でやらなければいけません。

仕事をした後のチェックアウトも同じです。チェックイン、チェックアウトという役割6個すべてデジタルでやらなければいけないことに、みんな疲れているのではないかと推測しています。

倉重:なるほど。仕事の立ち上げということですね。

「試験日まで半年ぐらいある受験生が、自分の部屋で勉強をやるような感覚」とnoteで書かれていて非常に納得しました。

意思の力でやるのは大変ですよね。

井上:変な話ですが、私は「集中」という言葉を絶対に使いたくないと思っています。

「集中しなさい」と言われると、部屋に押し込められている受験生のような気持ちになるからです。これはつらいと思います。

倉重:そこで自分なりの立ち上げルーティンがあるといいのではないかと思っています。

私は朝、散歩してからゆっくり紅茶を入れるという、今まで絶対にしなかったことをしています。フルーツティーをわざわざ10分ぐらいかけて作って、ゆっくり飲んでいるとだんだん立ち上がっていくような感覚があります。

ここ2週間ぐらいそんな感じなのです。そういう儀式を決めて、「これをしたら仕事だ」ということを自分に思い込ませるとスムーズかもしれません。

井上:まさにそれは大事なことだと思います。

チェックインとチェックアウトのリテラシーを両方持たないと、みんなのメンタルが崩壊してしまいます。

私は10年ぐらい前に、会社を辞めて個人事業主をしている先駆者に話を聞きました。彼らも最初に同じことで悩んだそうです。

大企業を辞めて新しく企業を立ち上げると、誰からも「仕事しなさい」と言われなくなります。

能動的に仕事に出たり入ったりしなければならないのです。

倉重:コロナでなくともそこは悩むポイントなのですね。

井上:その通りです。先人はいろいろな知恵を持っています。

例えば私の知り合いは、「仕事に入るときはジャケットを羽織る」と言っていました。そうすると娘が話し掛けてこないそうなのです。「このときのお父さんには駄目だ」と見た目でわかるのですね。

私は「時計をつけたときは仕事しよう」というふうにしています。

倉重:人それぞれスイッチがありそうな気がしますね。

私は髪の毛を平日だけセットして、お休みの日はそのままにしているのです。

これからは仕事のときは整えようと思いました。

井上:女性はお化粧するといいますね。

それがないとやはりオンに入りにくいと言います。

チェックイン以上につらいのはオフです。

倉重:オフはどのようにしたらいいのですか。

井上:これは私の勝手な考えですが、私たちは仕事をしているときは目と耳を使っています。情報のうちの94%は目と耳から入ってくるので、これを使うとスイッチにならないのです。嗅覚か触覚か、味覚でスイッチしないと感覚をずらすことができません。

例えばベランダに出て風に当たったり、お風呂に入ったりすることで刺激が得られます。

私は在宅勤務中、1日4回湯船に入っているのです。バブの消費量が大変なのですけれども。お風呂やトイレという空間は何かアイデアが降ってくると言われています。

倉重:三上ですね。

井上:ええ。昔の人は「三上」という言葉で表しています。考え事をするのに最適なのは馬上・枕上(寝床)・厠上(トイレ)だと。この「三上」を紐解くと、一人であることと五感に対する刺激があることなんです。

五感刺激がはっきりと違う場所を家の中で探すと、一番はお風呂です。

もっと簡単なのはアロマですね。仕事の場所のアロマはグレープフルーツにして、寝る場所はレモン等にするだけでも楽になります。

倉重:切り替えのタイミングで私もできるだけ八百屋さんに買い物に行ったり、テイクアウトを取りに行ったりして、意識してスイッチをオフにしています。

自分なりに決めておかないと、ずっと仕事モードでいると頭と心が疲れてしまうということですね。

井上:それは本当にそうだと思っています。

(つづく)

対談協力:井上一鷹(いのうえ かずたか)

大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。JINS MEMEの事業開発を経て、株式会社Think Labを立ち上げ、取締役。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。最近「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」を執筆。 https://twitter.com/kazutaka_inou

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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