「景気動向指数」から消費増税延期で衆院解散と考えて良いのか?
フーテン老人世直し録(439)
皐月某日
13日に内閣府が発表した3月の「景気動向指数」は、景気判断の基調を「悪化」に下方修正した。日本経済は景気後退の可能性が高いと判断されたのである。
おりしも米中貿易摩擦は「報復合戦」の様相を呈し、しかも背景には覇権をめぐる争いがあるため長期化する見通しだ。米中貿易摩擦は米中双方と密接な関係にある日本経済を直撃し、安倍政権の経済運営は厳しいかじ取りを迫られる。
そして今年は夏に参議院選挙が、10月には消費増税が予定されている。政治家は景気の動向に敏感にならざるを得ない。そこで消費増税の「再々延期」や、それに伴う衆議院解散・総選挙に注目が集まる。
4月18日に総理側近の萩生田幹事長代行が、「消費増税延期」のアドバルーンを打ち上げたことで、メディアはそれに引きずられ、内閣府の発表と萩生田発言とを絡める傾向がある。つまり景気悪化を理由に安倍総理は消費増税を延期し、さらに衆議院を解散して国民に信を問うつもりだというのである。
しかしフーテンの見方はそれとは異なる。安倍総理が消費増税延期に踏み切るのは相当に難しい。理由は「森友疑惑」にある。また解散は喉から手が出るほどやりたいだろうが、やるとなれば政権を失うかもしれない大博奕になる。
まず消費増税延期が難しい理由だが、第二次安倍政権がスタートできたのは、民主党政権が野党時代の自公と結んだ「3党合意」を実現するため、野田総理が不利を承知で解散に打って出たことによる。
「3党合意」は、世界最速で少子高齢化に向かう日本の将来のため、社会保障の安定財源を確保する目的で、消費税率を2014年に8%、15年に10%にする内容だった。しかし民主党から権力を奪うと、安倍政権はデフレ脱却を経済政策の柱に大胆な金融緩和で円安と株高を実現する。それをアベノミクスと命名して宣伝した。
将来のことより目の前の景気に国民の目を向けさせ、それは輸出産業を潤し、世界の投資家から注目されたが、やがてアベノミクスを評価した米国の経済学者から「デフレの原因は人口減少にある」と指摘され、インフレ目標も達成できずに先細りになった。そのため「アベノミクス第二幕」と称して政策を少子高齢化対策にシフトさせている。
その間に「3党合意」を全く無視するわけにもいかず、14年4月に8%の消費増税を行うと、消費が目に見えて落ち込み、以来、安倍総理は2度にわたって増税を延期せざるを得なかった。その年の11月に増税延期を表明し衆議院を解散する。その時「税こそ民主主義の基本」と大見えを切って、増税延期を解散の大義にした。
2度目の延期は16年の参議院選挙の前だったが、麻生財務大臣から「税こそ民主主義」なら衆議院を解散しダブル選挙にしなければ筋が通らないと言われた。しかし安倍総理はダブルに踏み込まない。一気に政権交代の危険性があるからだ。
自公は衆参両院で憲法改正に必要な3分の2の議席を持っている。それなのにリスクを冒す必要はない。憲法改正が政権の最重要課題なら衆参ダブルに踏み込むべきではない。そう主張したのは菅官房長官である。
そしてそこにあの「森友疑惑」が起きた。17年2月に国会で取り上げられると、「昭恵夫人と自分が国有地の払い下げに関係していたら総理も議員も辞める」と安倍総理は断言した。しかし昭恵夫人が関与したと思える話が次から次に出てくる。財務省は公文書を改ざんし、自殺者まで出して安倍総理を守った。
権力者を守るのは官僚の役目だが、同時に2度も延期された消費増税を実現するために安倍総理に「貸し」を作る必要がある。官僚ならそう考えて総理を守る。それが官僚の本性というものだ。
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