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【おもちゃの歴史】日本のおもちゃは世界一?文化がちがう海外の人々さえ魅了させる秘密とは

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

とつぜんですが、あなたは世界の中でトップを走る玩具メーカーは、どこの国にあるかご存知でしょうか。

2023年の世界の玩具メーカー・時価総額ランキングを見ると、1位“バンダイナムコホールディングス”、5位に“サンリオ”、10位に“タカラトミー”と、ベスト10に日本の会社が3社もランクインしています。

おなじ時価総額でもすべての分野の企業となれば、上位はアメリカの会社が席巻し、日本企業の姿はありません。しかし、おもちゃの分野にフォーカスすれば、じつは世界のトップを走り続けている国なのです。

日本人が生み出すおもちゃが、異文化の人々まで魅了させる理由、そしてその強みの秘密はどこにあるのでしょうか。

魔法のようなからくり人形

今から数年前のお正月、筆者は江戸東京博物館で披露された、からくり人形師の興行にど肝をぬかれました。それは幕末に通称“からくり儀右衛門(ぎえもん)”と呼ばれた発明家が作った“文字書き人形”という作品でした。

まげを結い、座布団に正座した男性の人形。卓上の硯(本物の墨入り)に筆をひたしていますが、稼働すると眼前の紙にスラスラ。その後、観客へ向けられた紙には『松』の一文字が。ここまでの動きが、すべて全自動なのです。

そして背後で職人が何かを操作し、同じ人形が再び書くと、今度は字形がまるで異なる『寿』の文字。もちろん電力などはいっさいなく、すべて歯車と糸と重りの、アナログです。

後ろで見ていた海外の方は「ワーオ、アメイジング!」と驚きの声をあげました。筆者もあまりの不思議に人形を凝視したまま、固まってしまったほどでした。なお実際に人形が動いている動画は以下のリンクより見られますので、ご興味のある方はご覧ください。(※音が出るのでご注意ください)

≫文字書き人形・特別公開【神奈川新聞】

このように、からくり儀右衛門は類まれな技術を持った人物でしたが、当時は彼と競うような職人も多数おり、江戸時代の計り知れない技術力の一端が伺えます。こうした職人文化は、玩具の開発にも大きく活かされた側面がありました。

ガラパゴス化のアドバンテージ

江戸時代、日本は鎖国していた期間が多く、これは逆に他の文化の影響を受けにくく、極めて個性的な文化を花開かせました。浮世絵ひとつを見ても世界に似たような絵はなく、ゴッホなどの有名画家さえ、虜になって収集したエピソードがあります。

現在では周囲とかけ離れて発展した存在を“ガラパゴス化”と言いますが、江戸文化こそこれの極みと言えるでしょう。類をみない発想や工夫があるものにこそ、人は面白さを感じます。

また、通常であれば「それがおもちゃに結びつくのか?」といった面もありますが、からくり儀衛門のように日本人の性質として“大人になっても、遊び心を忘れない”という側面が、昔から見られました。

海外では現在も「おもちゃは、子どもが遊ぶもの」という認識が強い国もあり、大人が夢中になっていると、奇妙な目で見られる地域もあると言います。しかし日本ではその逆どころか、開発者も手を抜かず真剣な発想や技術で作り、質の高い玩具が作られていきました。

時代とともに発展したおもちゃ

明治以降になると、江戸の名残りを色濃く受け継ぎ、紙メンコやベーゴマなどが流行る一方、海外の文化も入り始めます。ガラス製のおはじきやゼンマイで動く金属人形など、多様な材質のおもちゃも登場。海外の人にも人気を博し、国内だけでなく世界に向けて輸出も行われていきました。

日露戦争など戦争が勃発した時期には双眼鏡や軍刀、軍人将棋など戦争関連のおもちゃが流行るなど、時代の影響を受けながらも、さまざまな玩具が開発され続けて行きました。

日本初のエスカレーターが登場した東京の大正博覧会では、約3千種ものおもちゃも展示され、人気を博したと伝わります。

昭和期になるとセルロイドやゴムなど、今までになかった素材も使われるようになりますが、太平洋戦争が始まると政府の統制により、ふたたび紙や木、竹などの素材の玩具しか作れなくなってしまいます。

しかし戦後に復興を遂げ、プラスチックやビニールなどの素材も使えるようになると、フラフープやホッピング、プラモデルなども登場して大人気に。また高度経済成長期を通じて、“鉄腕アトム”や“鉄人28号”などのキャラクターグッズや、旧タカラが開発した“リカちゃん人形”など、今にも人気が続くおもちゃも登場しました。

その後1970年代に入ると半導体の活用が始まり、おもちゃのハイテク化が進みます。 “インベーダーゲーム”の登場、そして1983年には任天堂の“ファミコン”が大ヒットとなり、子どもたちの遊びにデジタル要素が、急速に台頭するようになって行きました。

世界を駆け抜ける日本のおもちゃ

最近になって人気を博した“ポケモンGO”も、本来は位置情報に役立てるスマートフォンのGPS機能を、ゲームと結びつける斬新な発想です。海外の人々が、大人も含めて目を輝かせている様子が、ニュースでも流れました。

このように日本発のおもちゃ商品は、今も世界中の人々を夢中にさせ続けています。経済の不調や人口減の面では「低迷している」と、暗い評価も少なくない日本ですが、「人を楽しませることにかけてはトップレベル」という事実は、誇りに感じて良いかも知れません。

もちろん玩具メーカーだけでなく、キャラクター商品の人気を後押ししているアニメ業界や、その他も様々な人々が力を合わせての成果ではあると思います。おもちゃの歴史を辿ると、いろいろな時代背景と結びついて興味深さを感じるとともに、この先も日本の“おもちゃ”を心から応援していきたい思いです。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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