7月豪雨の家屋解体制度、「半壊」も対象と小泉大臣が早々に表明した背景
「令和2年7月豪雨」の発生から、早くも2週間。九州を中心に各地で被害に遭われた方々に、あらためてお見舞い申し上げます。コロナ禍で、私も安易に現地取材には入れません。しかし、過去の被災地取材を基にすると、これぐらいの時期から住宅の「解体」について考えたり、着手したりする人が徐々に増えてくると想像できます。
壮絶な被災体験をした上に、住み慣れた、愛着のある家を取り壊すというのは、誠につらいことと思われます。しかし、解体するかしないか、「公費解体」か「自費解体」かの決断は、生活再建の一歩であり、復興のまちづくりにも関わります。
昨年の台風19号における長野市や、一昨年の西日本豪雨での岡山県の状況については、今年1月の記事でまとめました。
・台風19号から3カ月 住民が苦悩する自宅の公費解体(ヤフー個人・2020年1月12日付)
長野市で公費解体・自費解体の住民説明会が始まったのは、災害発生から約3カ月後というタイミングでした。ずいぶん時間がかかったように思えますが、だからこそ、被災した人たちが早めに公費解体の概要を知り、考え始めておくことは「先が見通せる」ことにもなります。西日本豪雨で住民の法律相談にのった岡山弁護士会災害対策委員長の大山知康弁護士も、「被災1週間後ぐらいから十分な広報をしてもいい」と提言していました。
独特な「公費解体」制度の位置付け
とはいえ、公費解体は他の被災者支援制度に比べて、かなり独特の位置付けにあります。まず、役所の窓口が違います。「罹災証明書」の提出など、災害救助法や被災者生活再建支援法の手続きは通常、市町村の総務課や危機管理課、あるいは保健福祉の部署が窓口。それに対して公費解体は普段、産業廃棄物などの処理に携わる環境部局が窓口となります。これは、災害直後に道路脇などに積み上がる瓦礫を撤去する作業と同じ「災害廃棄物処理事業」の枠組みだから。よって、国の担当省庁も環境省です。
制度自体は1995年の阪神・淡路大震災のころから運用されています。対象は原則、地震や水害の罹災証明で「全壊」と判定された家屋ですが、東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨、昨年の台風19号などの大規模災害では「半壊」の家屋も対象となっています。
では今回の7月豪雨はどうなのか。環境省廃棄物適正処理推進課に聞くと、「被害の状況を見ながら検討している」最中だと言われました。台風19号では、発生から約1カ月後に「半壊も対象」と小泉進次郎環境大臣が明らかにしました。ここは自治体が迷わないようにぜひ決断を早めてもらいたい…と思っていたところ、17日午前に小泉大臣が半壊も対象とする意向だと明らかにしました。
・環境省、家屋解体撤去「半壊」も支援 九州豪雨、対象拡大を検討(時事通信)
そもそも特定非常災害などの指定とは切り離されて、環境大臣が個別に判断することに疑問はありますが、これまでよりはかなりスピードアップした表明で、歓迎できる流れだと思います。
こうした国の決定と補助を受け、公費解体では、自治体が被災家屋の所有者に代わって、解体工事の発注から支払いまでをします。所有者に金銭的負担は一切かかりません。しかし、解体作業は原則、住民が申請した順番に進み、工事の時期は指定できないので、いつ自分の番がくるかは分かりません。また、工事前には原則、家屋内の家財道具類を自分たちで搬出し、工事完了時は本人か代理人の立ち会いが必要です。
一方、すでに自ら業者に依頼し、解体・撤去工事をしてしまった人や、これから自力で発注するという人にも、費用が償還される「自費解体」制度があります。所有者がいったん業者に工事費を支払う立て替え払いの形なので、一時的な金銭負担は発生します。実際にかかった費用が市の工事費算定より高かったら、その分は償還されないデメリットもあります。しかし、公費解体ではどうしても順番がくるまで時間がかかるため、急ぐ人は自費解体を選んだ方がいいと言われています。
被災者には早めの情報提供と考える時間を
他にも、実際の工事ではさまざまな条件や制約が発生し、各家庭によって迷うケースが出てくるはずです。西日本豪雨で約6000棟の住家が浸水被害を受けた岡山県倉敷市では当初、公費解体の申請期間を9カ月半としていました。しかし、これでは住民が解体するか、修繕するかを検討できないとして、岡山弁護士会が申請期限の延長を行政に要望。これを受けて市は期限を6カ月延長し、最終的に1年半近くの時間をとりました。
西日本豪雨ではそもそも、島根県の被災自治体の一部で公費解体を適用していなかったことが明らかになっています。報道によれば、自治体側が国の補助対象になる家屋はなかったと認識していましたが、実際は本来、公費でまかなえる解体費用を住民が全額負担してしまったケースがあったようです。
これについて岡山県の大山弁護士は、公費解体が平時の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」が根拠で、災害時の特別な支援制度と位置付けられていないことが原因ではないかと指摘。また、自治体が「災害廃棄物処理計画」を定めていなかったことも問題だったのではとしています。
自治体は災害廃棄物処理計画の策定急務
今回、球磨川の氾濫被害を受けた人吉市、球磨村では災害廃棄物処理計画を策定し、公費解体についてもその手順などを明示しています。
一方、同じ球磨川沿いの八代市、芦北町、また飛騨川の氾濫で被害の出た岐阜県下呂市も、公式サイト内を検索する限りでは同計画が見当たりません。ひょっとして策定しているかもしれませんが、現場はまだ災害廃棄物処理の初動に集中しているでしょうから、落ち着いたころを見計らって確認させてもらおうと思います。もしなければ、国や県が適切に指導することが望まれます。
最後に補足しておくと、公費解体制度を使うなら、家屋は完全に解体しなければなりません。リフォームでも対応できるという場合は、災害救助法に基づく応急修理費用(大規模半壊・半壊で最大59万5000円)を受けることになるでしょう。ただし、被災者生活再建支援法では、「大規模半壊・半壊でもやむを得ず解体」した場合は全壊と同様とされ、最大300万円の支援金が受けられます。これは使いみちが定められていない見舞金という扱いで、修理費用以外にも充てられるなど、場合によって被災者のメリットにもなるでしょう。迷ったら、弁護士会が設ける無料相談などを利用してみましょう。
それぞれの事情に合わせて、諦めず相談をすれば、必ず生活再建の道を探れるはずです。