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世界12位を破り、東レPPOでベスト8へ! 大坂なおみの成長を、対戦相手のチブルコバの言葉より探る

内田暁フリーランスライター
(写真:Motoo Naka/アフロ)

「私のサーブやストロークは、彼女に読まれていたと感じた」

18歳の新鋭に2-6,1-6の完敗を喫した世界12位のD・チブルコバは、試合後の会見で開口一番、敗因を簡潔にそう説明した。

大坂なおみと言えば、先の全米オープンで最速201キロを叩きだした超高速サーブがトレードマーク。この日の試合でも、194キロに達したスピードサーブで、7本のエースを奪いもした。

しかし、外野の目にあまりに鮮烈に映るそれらサーブやパワフルなフォアハンド以上に、敗者が脅威に感じていたのは、プレーを「読まれた」という焦りであり、それがゆえに、戦略面および精神面で後手に回った事実であった。

160センチと身長に恵まれぬチブルコバは、トップ選手ながら、サーブが弱点となりやすい。「セカンドサーブになると、リターンから攻められる……」そのような恐れが、確率重視でファーストサーブを入れる安全策に、小柄な世界12位を走らせる。

だがそれこそが、大坂が「読んだ」展開でもあった。

「私がファーストサーブを入れていくことを彼女(大坂)は分かっていたようで、最初からプレッシャーを掛けてきた」

チブルコバのファーストサーブは、確率こそ70%と高かったが、それに比してポイント獲得率は40%と低い。相手の術中にはまっていると感じながらも、チブルコバは、そこから抜けだす策が見いだせなかった。

リターンで攻め込まれた窮状は、ストローク戦でも、常に彼女を後手に回らせる。

「クロスコートにばかりに打ってしまい、ショットの方向を変えることが出来なかった。そこも相手に読まれていたようで、彼女は私の打つところで待っていた」

作戦立案と遂行力で敗れた……それが、チブルコバが吐き出す言葉の端々から滲んだ悔いだった。

このような敗者の弁と見事なまでに対を成すのが、勝者の言葉である。

「相手が私を知っている以上に、私が相手を知っていた。だから試合前に立てたプランが上手くいった」

それが大坂が、試合後の会見で開口一番、口にした勝因。日頃から「私、顔の筋肉が生まれつき動きにくいみたいなの」と申し訳なさそうにしていた18歳は、「そうは見えないだろうけれど、本当に凄く嬉しいのよ」と言って、僅かに口角をあげた。

完璧なる「プラン」を立てたその背後には、日本ナショナルチームのコーチ陣による分析と指導があった。

相手がどのようなサーブを打ってくるか、あるいは自分がどのコースにいかなるサーブを打つべきか……それらを単純に、コーチが選手に「こうせよ」と伝えるのではない。対戦相手の情報を与え、あらゆる状況を想定した上で、まるでクイズのように「ではこの時には、どのコースにどの球種のサーブを打つ?」「相手はどこに打ってくると思う? その時君は、どのようなリターンを打つべきか?」と問うていく。まだ18歳ながら、多くのトッププレーヤーと戦い、試合中にも涙を流すほどに悔しい敗戦をも経験してきた大坂は、それらの問いに対して自ら考え、模索し解を導きだす。そうして心に思い描いていた策を、彼女は実際にコート上に余すことなく描ききった。

だからこそ、「今日は例え勝とうが負けようが、立てた作戦通りにプレーできたので満足できたと思う」と彼女は快勝を振り返る。表情こそ冷静なままではあるが、その声は喜びの色を帯びていた。

仮に読まれていようともエースを奪えるサーブやストロークに加え、戦略性やポイントパターンをも急速に体得しつつある柔軟性――。一段飛ばしで上位への階段を駆け上がる18歳は、母国日本開催の最大の大会でベスト8へとまずは達し、そしてここから、さらに上を目指していく。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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