世界遺産登録に近づく!「鳴門の渦潮」を徹底解明へ
四国と兵庫県・淡路島の間、鳴門海峡で発生する「鳴門の渦潮(うずしお)」を世界遺産に登録しようという取り組みが、地元で進められています。現在、登録に向けて進められている調査で、その全体像や価値が、科学的に明らかになってきました。
激しい潮の流れが海面に渦巻き模様を描く「鳴門の渦潮」。ダイナミックな自然現象をひと目見ようと、多くの人が鳴門海峡に訪れます。海上45メートルの地点から渦潮を観測できる徳島県鳴門市の「渦の道」を訪れる外国人観光客も年々増えています。
この自然現象を世界遺産に登録しようと奮闘しているのが、兵庫、徳島両県の関係自治体や民間団体などでつくる兵庫・徳島「鳴門の渦潮」世界遺産登録推進協議会です。鳴門の渦潮の仕組みや、推進協議会の取り組みについては、2017年11月の記事でも書きました。
協議会が目指す、自然遺産での世界遺産登録のためには、「最上級の自然現象またはたぐいまれな自然美・美的価値」などの価値を証明しなければいけません。このため協議会では、兵庫県側が自然分野、徳島県側が文化分野と手分けをして、学術調査を進めています。
18年3月、徳島県鳴門市内で開かれた協議会の総会では、両県の調査活動の成果が報告されました。このうち、兵庫県側の調査報告で、「直径20メートル以上のうず」や、「鳴門海峡でしか見られないさまざまなうず」が確認されたことが分かったのです。
鳴門の渦潮は、これまで世界最大規模と言われながら、うずの大きさや発生メカニズムを科学的に証明したデータは、ほとんどありませんでした。
「最上級の自然現象で、たぐいまれな自然美」であることを証明
兵庫県側の学術調査委員会は、17年11月に鳴門海峡で、12月から18年2月にかけて、愛媛県の来島海峡や、山口県と福岡県の間にある関門海峡、長崎県の針尾瀬戸で、ヘリコプターやドローン、GPS(全地球測位システム)搭載ブイなどを使って現地調査を実施。それぞれのうず・潮流の特徴や発生のメカニズムなどを比較しました。
その結果、鳴門海峡では、下に向かって巻いていく「下降渦」、下降渦がいくつも連なった「渦連」、潮流が速い流れの両側でうずが起こり、やがて合わさっていく「渦対(うずつい)」、海底から盛り上がった「湧昇渦(ゆうしょううず)」と、多様なうずが確認されました。
また、レーザー計測でうずの大きさを定義したところ、最大直径20メートルを超える大規模なうずがいくつも見つかりました。最も大きいうずは、直径23.4メートルを記録しました。
来島海峡でも、下降渦は見られましたが、同じ場所でのみ発生し、鳴門のような大規模なうずは確認できませんでした。関門海峡や針尾瀬戸でも、大きなうずは確かめられませんでした。
鳴門の渦潮が、世界遺産登録に必要な「最上級の自然現象で、たぐいまれな自然美を感じることができる」現象であるということが、少なからず証明されたのです。
調査を担当した広島工業大学の上嶋英機客員教授は「大きいものは20メートル以上あるということや、渦連となって移動しながら発達し、集合体である渦対をつくるのは、鳴門だけであるということが分かりました」と話しました。
学術調査は、19年度までを予定しています。兵庫県の担当者によると、18年度は、三次元でのうずの構造解析や、鳴門海峡の地形からうずを生み出すメカニズムを探るなど、さらに詳細な調査を行うほか、ノルウェーのサルトストラウメン海峡やイタリアのメッシーナ海峡といった海外の渦潮との比較調査も進めていくそうです。
このようにして、徐々に鳴門の渦潮の“すごさ”が解明されてきています。世界遺産登録までの道のりは長いですが、少しずつ、近づいていってほしいです。
撮影=筆者(一部提供)