銀メダル獲得を笑顔で喜ぶ小林陵侑の裏で「個人2冠ならず」と叫ぶ実況中継!日本の五輪報道を考える
【小林陵侑選手の銀メダル決定後に発したアナウンサーの言葉】
東京五輪に引き続き、北京五輪でも日本代表選手たちが活躍を続け、日本に明るい話題を届けている。4年に1度の舞台でプレッシャーのかかる中、我々に感動を与えてくれる彼らに頭が下がる思いだ。
今回の北京五輪でその代表格ともいえる存在が、ジャンプの小林陵侑選手だろう。ノーマルヒルで金メダルを獲得し、新競技での混合団体でも素晴らしいパフォーマンスを見せ、ラージヒルでも見事に銀メダルを獲得することに成功した。
まだ小林選手の競技は続くとはいえ、すでにジャンプの日本代表選手として歴史的な活躍をしているにもかかわらず、ラージヒルで小林選手の銀メダルが決まった瞬間、実況アナウンサーの第一声が、以下のような内容だったのだ。
「史上初の個人2冠はなりませんでした!」
まさに耳を疑うしかなかった。
【メデイアの期待が優先される五輪報道】
今更説明するまでもないと思うが、日本における五輪報道は、ある意味常軌を逸している。主要メディアにとって五輪という世界的なイベントが重要な収入源になっているのは理解しているが、あまりに極端すぎる。
今回の小林選手に関しても、日本人選手史上初の個人2冠を期待したのはメディアであって、小林選手ではない。実際実況アナウンサーが上記のコメントを発する最中、小林選手はチーム関係者と笑顔で抱き合っていたのだ。誰もがそのギャップに違和感を抱いていたのではないだろうか。
明らかにメディアの五輪報道が、選手本人の気持ちとはかけ離れているということではないだろうか。
【五輪シーズン以外の注目度の薄さ】
筆者も長年にわたり様々なアスリートを現場で取材してきた。米国を拠点にしていた頃は、基本的にMLBが中心だったが、オフになればウィンタースポーツ取材も依頼され、2016年には世界選手権2位に入ったロコ・ソラーレも現場で取材させてもらったし、宇野昌磨選手が世界で初めて4回転ジャンプを成功した際も現場で取材するなど、様々なアスリートの活躍を目の当たりにしてきた。
ただその一方で、ショートトラックやアルペンスキーの日本代表チームの取材に回った時などは、五輪シーズンではなかったこともあり、現場で取材するメディアはまばらで、日本でもほとんど関心を集めることはなかった。
実は世界選手権2位になったロコ・ソラーレでも、結果的に日本で話題になったが、五輪シーズンではなかったこともあり、現場で取材していた日本メディアは自分を含め2社だけだった。
【アスリートにとって五輪もシーズン中の大会の1つ】
繰り返すが、メディアにとって4年に1度の五輪は重要な取材マターであり、収入源であることは理解している。ただ五輪報道が人々の関心を集めることを意識するあまり、アスリートを無視して身勝手に期待を煽るような報道をすることは、果たして正しい姿勢なのだろうか。
今回の北京五輪でも、小林選手だけでなく女子モーグルの川村あんり選手がメダル候補と大々的に報じられたが、本人は2本目の滑走でガッツポーズをする滑りをしていたのにメダルを逸すると、メディアの前で涙を流しなら謝罪しているのだ。
しかも川村選手は、インタビュー後にメディアを労う発言をしている姿を見せられ、何ともいたたまれない気持ちにさせられた。
冬季五輪に出場するアスリートのほとんどは、五輪もシーズン中のイベントの1つでしかない。にもかかわらずメディアは五輪を特別視するとともに、彼らの五輪での活躍に執着し、異様なプレッシャーをかけ続ける。
長年日本以外の五輪報道にも触れてきた立場からも、日本は明らかに異常だと断じざるを得ない。何とかならないものだろうか…。