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藤井聡太七段(17)押し切るか? 木村一基王位(47)強靭な粘りでしのぐか? 王位戦第1局2日目開始

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 7月2日9時。愛知県豊橋市において第61期王位戦七番勝負第1局▲藤井聡太七段(17歳)-△木村一基王位(47歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 対局場はホテルアークリッシュ豊橋で、チャペル「音楽堂」に10枚の畳を敷いての対局となります。

 2013年竜王戦七番勝負第4局・渡辺明竜王-森内俊之挑戦者戦。このときの対局場となった香川県宇多津町「サン・アンジェリーナ」もまた結婚式がよくおこなわれる施設で、大盤解説会はチャペルで開催されていました。

 8時35分頃。藤井七段は対局場に姿を見せました。普段の対局から、時間にかなり余裕をもって盤の前に座るのが藤井流です。

 棋聖戦、王位戦と、藤井七段の和服姿が注目されています。

 前日と同じく、藤井七段は淡い水色の羽織。立会人の谷川浩司九段とよく似た色合いです。

 8時45分頃。木村一基王位が上座に着きます。

 両者ともに駒を並べ終えた後、記録係・中西悠真三段(18歳、久保利明九段門下)の棋譜読み上げにしたがって、前日の棋譜を再現していきます。

 対局開始前の振り駒で先手を得たのは藤井七段。今期で5回目の王位戦七番勝負登場となる木村王位は、過去5回とも第1局は後手番だったそうです。

 戦型は角換わり腰掛銀。後手番の木村王位が工夫を見せたものの、第1局の進行は藤井七段がリードを奪ったように思われました。

 1日目は53手目、藤井七段が▲7三歩成と桂を取ったところまで進みました。

 封じ手をする際に、藤井七段が脇息(ひじかけ)の上に封筒を置いてサインをしたことがちょっとした話題となりました。「マナー違反」かどうかは筆者にはわかりかねますが、珍しい光景ではありました。盤上の技術も盤外の所作も堂々とした藤井七段。このあたりはわずかに新人らしさが表れた場面と言えそうです。

 2日目朝、そこまで並べられた後、谷川九段が封じ手を開きます。図面用紙には赤いペンで、左上から右下に伸びる長い矢印が引かれていました。

 谷川九段が図面用紙2通を対局者の方に示しながら、木村王位の54手目を読み上げます。

谷川「封じ手は△2九角成(なる)です」

 木村王位はゆったりとした手つきで、端に打った角を大きく動かし、藤井陣一段目の飛車を取りました。予想でも本命と見られていた一手です。

谷川「それでは時間になりましたので、対局を再開してください」

 木村王位、藤井七段が一礼をして、2日目の対局が始まりました。

 局面はすでに終盤戦に入ったと言ってよさそうです。

 藤井七段は前日対局中の長考、さらには一晩の時間の中で、先まで広く深く読んでいたことでしょう。それでも少しだけ、消費時間にして1分ほど間をおきました。そして木村王位の金をと金で取って、王手をかけました。

 木村王位は、このと金を取るかどうか。できれば取ってしまいたいところです。しかし取ってしまっていいものか。木村王位もまた、前日からこのあたりは先の先まで読んだはずです。そしてさらに22分の消費時間を使って、と金を取らず、玉を逃げる順を選びました。

 木村王位は飛車を取った。対して藤井七段は金を取り、さらに玉の近くにと金まで残せた。差引勘定としては、藤井七段の方が得をしたのかもしれません。

 形勢は藤井七段にやや分があると見られています。しかし一手でもミスをすれば途端に難しくなり、あっという間に逆転するのが将棋というゲームです。しかも相手は百折不撓、不撓不屈の粘り腰で栄冠を勝ち得てきた木村王位。勝負のゆくえは、まだまだわかりません。

 両者ともに時間を十分残しての終盤戦。藤井七段は52分考えて、歩を打って王手をかけました。これが最善の寄せなのかどうか。木村王位はこの歩を取った方がいいのか、それとも逃げた方がいいのか。それはどうも、ほとんどの観戦者の目には、進んでみなければわかりません。

「もしかしたら早く終わってしまうのではないか?」

 そんな予想もありました。しかし筆者がこれまで見てきたところ、2日制のタイトル戦における「早く終わりそう」という見立ては、圧倒的にはずれることが多いようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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