給与所得者の数や所得税額の実情をさぐる(2020年公開版)
平均給与と賞与の実情
日々の仕事をこなして得た給与に対し、国は所得税を徴収する。多くの給与所得者は会社側が各種計算をしてくれるので、年末調整の手続きをする程度で済むこともあり、所得税に関しては日頃から意識をする機会は無い。一方、所得税は国の税収においては重要な項目の一つであり、その額は国全体の経済の動向を推し量る一つの指標にもなる。今回は国税庁が公開している各種データを基に、いくつかの所得税に関する動向を確認していく。
まずは正規・非正規給与所得者別の各種動向。国税庁では2012年分から正規・非正規別の値の公開を始めているため、現時点では8年分のみが確認できる(ただし1年勤続者、つまり該当年を通して勤続し続けた人のみ)。
次のグラフは給与所得者数の実情。直近では正規給与所得者が3485万2753人、非正規は1215万0891人。この他に役員や非給与所得者も所得税の課税対象者としては存在するが、今回は取り扱い範囲外。
双方ともほぼ増加傾向にある。データ取得開始が2012年からだったため、現時点では8年分しかないのが残念。特に非正規の動向は気になるところなのだが。
続いてこれら給与所得者における総額としての給与・手当と賞与額。そして人数で除算した平均額。人数が多ければ多いほど総額は増えるが、一人一人の額面も増えないと平均額は上昇しない。
総額は正規・非正規ともに増加、平均額は正規給与所得者では上昇継続中、非正規では2013年に前年比で減少したものの、2014年では増加に転じ、前々年となる2012年を上回る値を示している。そしてその動きは2015年以降も続いていたが2019年では前年比で減少。
2019年で非正規が前年から減少した理由について、その詳細を確認すると、給与・手取り、賞与ともに減っているが、給与所得者数と総額が増えていること、正規が人数で大幅に増加していることから、比較的高給を得ていた非正規が正規として雇われるようになったことと、高齢で給与・手当などの低い非正規が増えたことが、平均額を押し下げたものと思われる。
ちなみに給与所得者の役員は2019年時点で約462万人(前年比約6万人増)、平均給与・手当+賞与は654万5000円(前年比32万4000円減)となっている。当然正規・非正規社員よりは高い金額である。
給与所得者数や税額はどうだろうか
給与所得者の数そのもの、そしてその人たちから徴収できる所得税は、経済そのものの指標の一つとなる。次に示すのは役員も含め、正規・非正規を問わずの給与所得者数(給与をもらっていない人は含まれない。それらの人の中にも、例えば配当生活者のように、所得税を支払う人はもちろん存在する)の推移。1年勤続者と1年未満勤続者の双方を合わせた数の推移を示している。後者は1年継続して就業できなかった人であり、正規・非正規とはまた別の区分であることに注意。
給与所得者は漸増していたものの、前世紀末あたりからその伸び率は緩やかなものとなった。今世紀初頭は1年勤続者が減り、1年未満勤続者が増加する動きもあったが、2008年の1年未満勤続者の大きな増加をピークとし、それ以降はおおよそ1年未満勤続者が漸減、1年勤続者が増加の流れを示している。直近分2019年は1年勤続者が前年比で4.6%増、1年未満勤続者は18.9%減となっている。
続いてこれら給与所得者からの所得税税額の推移。給与所得者が多ければ、そして個々の稼ぎが大きければ、つまり総所得額が大きいほど、一般的に税額も大きなものとなる。要するに景気がよくなり多くの人がたくさん稼げば稼ぐほど、徴収税額も増える次第。また繰り返しになるが、これが所得税の徴収額すべてではないことに注意。
景気が悪くなれば給与所得者は減り、受給額も減る。当然税収も減ってしまう。バブル経済期には税収も大きく伸びていたが、その後経済の失速とともに漸減、金融危機直前まではいくぶん回復の兆しも見られたものの、2007年以降は減少。リーマンショックで大きく下落し、その後円高不況、震災などを経て低迷を続け、2013年からようやく持ち直しを示す形となっている。
今記事は所得税の中でもある程度区切った範囲での動向が主な解説対象となっている。それでも経済の動向と小さからぬ連動性のある給与所得者の数やその人たちから徴収されている所得税などの推移を介し、経済の鼓動が聞こえてくるはずである。
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