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週刊現代「入ってはいけない大学」記事は、真に受けてはいけない~記事検証、大学のマスコミ対応など

石渡嶺司大学ジャーナリスト
問題となっている週刊現代「入ってはいけない大学」記事

大学業界が大ブーイングの特集

大学ジャーナリストの肩書でご飯を食べている石渡です。

大学業界関係者には、結構な数、嫌われているらしいです。

そういえば、出入り禁止に近い大学がいくつあったかな、と(数えたくない・苦笑)。

まあ、これまでに出した本が『最高学府はバカだらけ』『アホ大学のバカ学生』などですからねえ。

タイトルだけで誤解されたとしても、それは身から出た錆、というものです。

実際のところは、大学のいい部分、悪い部分、両方をテーマに書いていこうとしているだけです。

が、誤解される大学業界関係者からすれば、

「あんなん、ヤ●ザと変わらんやろ」(某出入り禁止に近い状態の大学関係者・談)

らしいです。

ま、これも身から出た錆か。

なので、他のメディアが大学をネガティブにまとめた記事や特集だったとしても、あれこれ、人のことを言えた義理ではありません。

ですが、あまりにも度を越しているのが、週刊現代2017年2月4日号掲載の「入ってはいけない大学 『有名だけど就職できない』大学一覧」です。

今、この特集が大学関係者の間では大ブーイングとなっています。

大学関係者から大ブーイングの週刊現代記事
大学関係者から大ブーイングの週刊現代記事

「就職率」の計算方法

同記事は全4ページ。

うち、1.5ページが

「有名だけど就職率の低い大学」

の一覧表(東日本編、西日本編)になっています。

同記事で言うところの就職率は、

「進学者を除いた卒業者数全体から、そのうちどれだけが就職できているかを割り出したもの」

記事では「実就職率」としています。

文部科学省・厚生労働省の合同調査による「就職内定状況調査」は、10月、12月、2月、4月(卒業者)に調査を実施。

計算方法は就職希望者に対しての就職者が占める割合です。

そのため、どう転んでも割合としては高く出るものであり、2016年卒は97.3%。

2000年代に入ってから90%台を割ったことはありません。

2000年代の最低値は2000年の90.5%。

リーマンショック後の氷河期だった2011年でも90.7%です。

マスコミ記事や大学の宣伝等で使う就職率は、その大半がこの就職希望者ベースの数値です。

この数値だと、どの大学でも90%台で当たり前、事情を知らない人からすれば「なんか高そう」と思えてしまいます。

その反面、就職できなかった学生を「希望者ではなかった、進路変更をした」と言い張れば「就職希望者/分母」を減らすことができます。

分母の数字が小さくなれば、割合として高くなるのは小学生でもわかる話でしょう。

なお、文部科学省・厚生労働省の合同調査「就職内定状況調査」は、全大学ではなく、一部大学を抽出しての調査でもあります。

一方、文部科学省単独による「学校基本調査」は全大学が対象。

こちらでは「卒業者に占める就職者の割合」を算出しています。

分母が卒業者総数、分子が就職者です。

本来なら、こちらの数値が「就職率」と呼ぶにふさわしいはず。

ただ、文部科学省では「卒業者に占める就職者の割合」として、「就職率」とは呼んでいません。

私の記事や本では、この学校基本調査の数値を「就職率」としています。

さて、週刊現代記事に話を戻します。

この記事での「就職率」は進学者を引いた卒業者数。これだと大学院進学者の多い理工系大学も数値が低くなることはありません。

就職者19人でも「有名」

この週刊現代記事の就職率の一覧表、実はランキングにはなっていません。

就職率70%台と低い大学から順に、ワーストランキングであるかのように構成されています。

が、その割に、ワーストの順位は特になし。

問題の週刊現代記事。就職率が80%越えでも「入ってはいけない」扱いに
問題の週刊現代記事。就職率が80%越えでも「入ってはいけない」扱いに

しかも、です。

「有名だけど就職率の低い大学」

と、タイトル付けしていますが、実際には、有名とはいいがたい大学が結構入っています。

たとえば、東日本編に入っている稚内北星学園大学。

校名に入っている通り、北海道稚内市にある、日本最北端の大学です。

2016年の就職者は19人。

大学サイトによると、2016年卒業者は25人。

これのどこが「有名」なんでしょうか。

稚内北星学園大学以外にも、「有名」とはいいがたい大学が結構入っています。

掲載の94校中、知名度がある、と言えるのは40校程度。半数以上は、どう転んでも「有名」とは言えないでしょう。

消えた「70%未満」の大学

このデータの出典は大学通信です。

大学通信は、進学情報などを扱う企業としては老舗であり、信頼できます。

週刊現代記事は、この大学通信のデータを「使って」います。

なお、後述しますが、大学通信の「提供」ではありません。

とは言え、大学通信データであるならば、就職率は70%台がワーストなんてことはまずありえません。

もっと低い大学もあるはず。

実際、

東洋経済オンライン2016年3月3日記事「最新!『大学就職率ランキング』トップ300」

では、570校の就職率ランキングを掲載しています。

なお、データの出典は週刊現代記事と同じく大学通信。

ただし、週刊現代記事は2016年卒(後述しますが「データ提供」ではありません)、東洋経済オンライン記事は2015年卒という違いはあります。

この記事を見ていくと、就職率70%未満の大学は35校あります。

2016年卒の就職状況が大幅に改善しているので、就職率70%未満の大学は減少しているのでしょう。

東洋経済オンライン記事。左側の数字が就職率。70%未満の大学もこれだけある。
東洋経済オンライン記事。左側の数字が就職率。70%未満の大学もこれだけある。

が、それにしてもゼロになる、ということはあり得ません。

それなのに、週刊現代記事では、就職率70%未満の大学は掲載ゼロ。

では、どこに消えたのでしょうか?

注釈のカラクリで大学は迷惑

就職率70%未満の大学が消えた理由、それは注釈にありました。

・実就職率70%以上を紹介

・音楽系、芸術系の大学、女子大は除いた

なるほど、そりゃあ、ないわけです。

しかし、この注釈、はなはだ、謎に満ちています。

「音楽系・芸術系は除く」、これ、理屈はわかります。

こうした学部だと一般の学部と違い、就職の構造が異なりますし。

ただ、それを言うのであれば、東京工芸大学、札幌大谷大学を掲載するのはおかしいでしょう。

どちらも、芸術系学部が主です。

東京工芸大学は工学部、札幌大谷大学は社会学部があるから掲載しました、というのであれば、なぜ京都精華大学(芸術学部など4学部のほか、人文学部もある)は掲載されていないのでしょうか。

杉野服飾大学も服飾学部が芸術系学部と言えることを考えれば掲載は微妙なところ。

そもそも論として、なぜ就職率70%以上なら掲載となるのでしょうか?

基準からして曖昧すぎます。

ポジティブな内容なら基準が曖昧でもまだ許される余地はそれなりにあります、

しかし、「入ってはいけない大学」というネガティブな内容であれば、掲載基準はもっと精査すべきでした。

ランキングもどき、ツッコミどころが満載すぎて

このランキング、というか、ランキングもどき、他にもツッコミどころが満載すぎます。

・医療系・薬学系・社会福祉系の大学も掲載している。

→国家試験準備のために就職せず卒業する学生も多いはずだが?

・北海道大学、神戸大学、九州大学

→まさかの難関国立大の掲載。規模の大きさや医療系学部などの存在も考えれば、低いとは言えないはずだが?

・筑波技術大学

→聴覚・視覚障碍者対象の大学。視覚障碍者向けは保健科学部という医療系学部で、就職はぎりぎりになることも。

・大阪観光大学など

→前年の就職率58.0%から大幅にアップ(81.1%)なのに掲載。前年比がどうだったか、という情報が一切なし。

この、ランキングもどき、どこのボケ、もとい、ライターだか、編集者だかが作ったのかわかりません。

小池知事を真似すれば、

「エビデンスがない」

「マネーの虎」を真似すれば、

「これ、うちの社員が持ってきたら、怒鳴りつけていますわ。ええ」

天下の週刊現代編集部がよく通したもの、と思うとがっかりしますが、さらにひどいのが本文です。

本文に登場の大学、大迷惑

ランキングもどきに掲載されている大学から、大阪経済大学、帝京大学、駒澤大学、関東学院大学、神戸大学、桃山学院大学の6校が被害、もとい、掲載されています。

「昨年春、TOKYOMXの番組で、大阪経済大学が『使えない大学』ランキングの全国4位にランクインしました(中略)ものすごい『逆風』だったと思います。最終的には内定を取れましたが、大学名で損をしたんじゃないかという思いはぬぐえません」

※大阪経済大学・男子学生のコメント

「(文系の教員は)黒板に書く字がふにゃふにゃで読めない人もいる。生き馬の目を抜くような就活の相談に乗ってくれる雰囲気は感じません」

※帝京大学・男子学生のコメント

「(インターンシップの単位認定について)もう少し学生の就職の意欲を汲んで仕組みをつくってほしい」

※駒澤大学・女子学生のコメント

「学部によっては、入学者のうち10%超が退学するらしいです」

※関東学院大学理工学部4年男子学生のコメント

「神戸大は文系の場合、レポートが少なく、試験も楽。単位が取りやすい。そのせいで入学してから腑抜けてしまう学生がいて、そのまま就活に突入して失敗する例も少なくありません」

※神戸大学経営学部3年男子学生のコメント

「ピン大は、一時期友達をつくれない学生のために料理教室を開くなどの試みをして話題になりました。しかしここまで手取り足取りのお節介だと、逆に学生の自立が妨げられ、就活にも響くのではないかと思われます」

※「ピン大」は桃山学院大学の略称。コメントは教育ジャーナリスト

改めて週刊現代記事を再読すると、ネガティブに取り上げている大学6校の攻撃材料は全て、コメントのみ。

それも桃山学院大学の「教育ジャーナリスト」以外は、全て学生の印象論です。

桃山学院大学についてコメントしている「教育ジャーナリスト」、これ、事情を知らない人は、この石渡か、私の先輩格にあたる小林哲夫さん(『大学ランキング』編集統括)あたりを疑うでしょう、誰がどう考えても。

付言しておきますが、私でも小林さんでもありません。

内容も陳腐すぎます。

友達をうまく作れない学生がいるのは、桃山学院大学だけでなく、全国、どこの大学にもいます。

その改善策を取り上げて、「お節介」。

だから、就職状況が悪い(本当は悪くないのに)、とまとめるのは論理展開に無理がありすぎます。

学生のコメントで掲載している5校についても、大阪経済大学以外は、単なる印象論、感情論にすぎません。

神戸大学の就職状況が悪い、なんて話、初めて聞きました。

駒澤大学のインターンシップ単位認定制度も、他大学とほぼ同じでしょう。

関東学院大学については、学生が所属する理工学部の話すらしていません。

帝京大学の「相談に乗ってくれない」は他大学でも同じ。

高齢であってもそうでなくても大学教員は、研究と教育が主たる業務です。就活相談に乗ってくれる教員など少数でしかないのは当然でしょう。

「入ってはいけない大学」と銘打つからには、もっと論理構成と情報提供をしっかりしてほしかったところです。

たとえば、こんな感じ。

石渡創造大学は、かつては名門校だった

が、入学者が減少して、ここ5年は定員充足率が70%を割っている

優秀な学生が入らず、悪循環となっている

教職員とも相次ぐリストラで数が足りない

地元企業も相手にしないほど就職状況が落ち込んでいる

だから「入ってはいけない大学」である

※校名などは架空のもの

あるいは、コメントはきちんと実名にするとか。

匿名のコメント、それも6人中5人が学生、というのは、どうなんでしょうね。

高校の新聞部だって、もうちょっと気の利いた記事、書けるのではないでしょうか。

「使えない大学4位」の元ネタは?

印象論優先のコメントの中で、唯一、論拠と言えなくもないのが冒頭に出ている大阪経済大学についての、

「昨年春、TOKYOMXの番組で、大阪経済大学が『使えない大学』ランキングの全国4位にランクインしました」

です。

関西圏が放送エリアではないTOKYOMXの番組が大阪経済大学の学生にそこまで影響したのか、というツッコミはさておき。

この「使えない大学」の元ネタが何か、調べていくと、

週刊SPA!2016年3月15日号記事「使える大学 使えない大学 裏ランキング」であることが判明しました。

調査対象は従業員100人以上の企業勤務のサラリーマン500人。

複数のランキングが掲載されていますが、大阪経済大学は「使えない大学」(総合)で4位、こちらは対象人数は不明。

もう1本、「お荷物社員ランキング」で14位、こちらは7人。

わずか、7人が挙げて、おそらく他のランキングも10人か20人か、その程度でしょう。

総務省「労働力調査」によると、2013年の正規雇用者は男女合計で3294万人。

調査対象500人だと、0.0015%というきわめて限定された集団の中での調査、その中で10人、20人が挙げただけで「使えない大学」扱い。

これって、かなり無理あるデータではないでしょうか。

注意ポイント9点もツッコミどころ満載

大学入学時に気を付けたいポイントとして、週刊現代記事は9点挙げています。

・学生数に対して職員数が少ない

・自校出身の教員を多く採用している

・新設の学部や名前が変わった学部がある

・外国人留学生の比率が高すぎる

・地方の私立大学

・AO入試の割合が多い

・情報公開が少ない

・文系は今後数年でますます「弱く」なる

これらは、どれも微妙なところ。

「情報公開の少なさ」はその通りなのですが、大学通信にデータを提供できる大学は、まだましな方です。

「文系が弱い」というのも、理工系に比べて、という話でしかありません。文系学部でも、今は就職状況は好調ですし、今後も韓国のように就職できない状況に追い込まれることは考えにくいです。

地方私大でも元気なところはありますし、学生あたりの職員が少ないのは、大規模大学でも同じ。

「名前が変わった学部」もよくやり玉にあがります。

ま、これは私も散々、ネタにしたので人のことは言えませんが。

これも、実は難関大などでも事情は変わりません。

同じネタを週刊新潮1月26日号記事でも取り上げていました。

どこぞの外部ライターが

「Fランク大学に多いのが、聞いただけではわけがわからない学部や科目名で~」

と署名記事で書いています。

このライター氏、一橋大ご出身だそうですが、一橋大学シラバスによると「課題解決型イノベーションのための文理レゾナンス」という科目があります。

この一橋卒ライター氏の論法を借りれば、一橋大学はダメな大学ということになるのですが、正気ですかね?

難関大学でも、「わけのわからない学部、科目」はいくらでもあります。それを「Fランク大学に目立つ、だからダメ」との論調でまとめるのは、無理筋と、東洋大学卒(ついでに言えば2浪)の小生は思う次第です。

週刊現代記事に話すを戻すと、「入ってはいけない」ポイントは9点のうち大半が、論拠を示したうえで否定することが可能なものです。

大学通信は謝罪

この週刊現代記事、あまりにもひどい、ということで大学関係者の間では大不評です。

当然ながら、批判の矛先は大学通信にも向かいます。

大学通信は、自社サイトにて、

「週刊現代2/4号『就職できない!入ってはいけない大学』についての経緯と弊社の見解」

を発表。

これによると、

「本企画については当初、同誌編集部から弊社にデータ提供の依頼がありましたが、企画の趣旨に賛同できないことから、弊社はデータの提供を拒否いたしました。ところが同誌編集部は、昨年出版された書籍から無断で弊社の情報を取得し、同誌の記事の意図に沿う形で実就職率を並べ替えて掲載しました」

これは、週刊現代編集部、かなり、やらかした模様。

学生一人一人の将来を見据え、キャリア支援に日々注力している大学に対し、このような見せ方をすることには悪意を感じざるを得ません。

こうしたことから、弊社は発行元の講談社に対して厳重に抗議をしております。今後は同誌への情報提供は一切行わない所存です。

また記事中、弊社常務取締役の安田賢治がコメントをしております。

大学や就職についての一般論を述べたまでですが、趣旨に賛同できない記事にコメントを出してしまったことについては深く反省しております。

(中略)

このような事態を招き、各大学様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

一方、週刊現代は、今のところ、黙殺するようです。

週刊現代サイトを確認(2017年1月31日17時現在)すると、この記事を掲載。

会員登録者が閲覧できるようになっています。

「入ってはいけない大学」2017年最新版「有名だけで就職できない」大学一覧

高校新聞部の記事以下の内容、しかも、データは大学通信のものを勝手に使っていて、それをネットでも閲覧できるようにする、というのはどうなんでしょうか。

私はおとなしく、謝罪して非公開扱いにした方がいいのでは、と考えます。

「入ってはいけない大学」扱いの大学の広報対応は?

一方、「入ってはいけない大学」扱いされた大学は、どう対応すべきでしょうか。

個人的な意見になりますが、3点、挙げておきます。

その1:情報公開・データ提供はそのままで

まず、大学通信にデータの提供をやめる、あるいは、就職率などを非公開とするなどの軽挙妄動に出る大学はまずないでしょう。

怒り心頭の大学関係者であれば、そこまで考えるかもしれません。

が、情報を非開示としたところで、

「隠したい、ということは、やっぱり『入ってはいけない』大学なんだ」

と誤解されるだけです。

ま、この点はほとんどの大学は大丈夫でしょう。

その2:週刊現代への抗議文は掲載しない

週刊現代編集部への抗議を検討している大学も相当数あるもの、と推量します。

そこはまあ、どちらでもいいかな、と。

ただ、ここで指摘しておきますと、抗議はいいのですが、抗議文を大学サイトに掲載するのはやめておいて方がいいでしょう。

高校新聞部以下の記事への抗議をわざわざ大学サイトに掲載しなければならないのか、という点をまず挙げておきます。

掲載したところで、過剰防衛と誤解され、受験生などから敬遠される可能性が出てきます。

どうしても、就職状況の良さをアピールしたい、というのであれば、週刊現代など固有名詞は出さずに、就職状況の良さをより丁寧にアピールすれば十分です。

その3:マスコミ対応は従来通り(含む週刊現代)

3点目としては、週刊現代を含めたマスコミ対応は従来通りにした方がいい、というものです。

他の媒体はまだしも、「入ってはいけない」とネガティブな記事を出したはずの週刊現代にも対応する、というのはどういうことか。これには理由があります。

実に簡単でして、週刊現代の別の編集者・ライターが、

「入ってはいけない」

と批判された大学を、今度は、

「お勧めしたい大学」

という趣旨で記事を書く可能性があるからです。

別の編集者・ライターどころか、同じ編集者でも、違う趣旨の記事をまとめる、ということが、結構な頻度で起こりえます。

違う趣旨の記事を同じ編集者がまとめることなど、あり得ない、と考える大学関係者に、ある漫画をご紹介します。

週刊現代をモデルとした、と言われている『働きマン』は2004年から2008年に週刊モーニング(週刊現代と同じ講談社が版元)で掲載されていました(現在は休載中の扱い)。

『働きマン』2巻表紙。主人公が今回のデスクならどう対応していたことか…
『働きマン』2巻表紙。主人公が今回のデスクならどう対応していたことか…

2006年にフジテレビでアニメ化、2007年に菅野美穂主演で日本テレビにてドラマ化されました。

この漫画の2巻(2005年刊行)の14話「こだわりマン・前編」で、旅行代理店のタイアップ記事(屋久島)が登場します。

「なんかやなの!」

と、記事をまとめるのに苦心した主人公の女性編集者。

その理由は、中ほどで明らかになります。

主人公は、タイアップ記事の2年前、真逆の記事を担当していました。

主人公「2年前に『壊れてゆく世界遺産 屋久島の今』ってやったの、覚えてます?」

デスク「うーん、……忘れた」

主人公「その時、主要産業とはいえ、観光に走る企業と地方自治体を批判したのに、(今度のタイアップ記事では)『屋久島よいとこ一度はおいで』ということをやってしまった」

デスク「……お前、真面目だな~。そんなの考えてもしょーがないでしょ」

主人公「しかも答え出ないんですよ……やる前にも考えたけど」

デスク「うん……だって答え無いもん」

批判された大学の関係者からすれば、感情的になるのは、よくわかります。

が、こういう方向転換は、実はマスコミではよくある話なのです。

抗議文掲載で損した大学

私も間接的に、ではありますが、『働きマン』と同じ方向転換を経験したことがあります。

私が大学ジャーナリストとして活動を始めた2003年から2007年まで5年間、ある週刊誌編集部に外部ライターとして関わっていました。

そこで大学・就職・教育関連の記事を担当していたのです。

さて。私がこの週刊誌編集部に出入りする前、ある編集者が2001年に大学特集記事を担当していました。

その記事で就職率データが低い、とされた首都圏の某A大学が大激怒。特に法学部の学部長だったか、元学部長だったか、ベテランの教員が怒り心頭だったらしく。

抗議文が大学サイトと法学部サイト、両方に掲載されました。

大学サイトは2007年ごろまで、法学部サイトは2009年か2010年ごろまでずっと掲載し続けていたように覚えています。

2001年掲載の記事に対して、大学サイトは7年間、法学部サイトは9年か10年、ずっと掲載を続けたわけです。

さて、2001年に記事を担当した編集者Bはその後、異動で別部署へ。

2003年にこの週刊誌編集部に入ってきたときにはすでに異動された後でした。

そして、私は編集者Bの存在も、彼が担当した大学特集記事を知らないまま、別の大学特集を担当することになり、A大学広報に電話で取材を申し込みました。

読者諸氏はすでにオチが見えていると思いますが、それはそれは冷たい対応で。

結果、こちらが依頼しようとした内容はお受けしていただけませんでした。

依頼内容と言っても、大学の基礎情報を出してくれ、というそれほど難しいものではなかったのですが。

その後、編集者Bが手がけた大学特集記事をバックナンバーで読み、A大学の抗議文もサイトで閲覧しました。

編集者Bの大学特集記事への評価は、まあ、微妙なところ、くらいにしておきます。

長くなるので、この辺は省略。

一方で、A大学の抗議文を読んで、

「これはこれで微妙」

編集者Bの記事が低評価のものだったとしても、すでに編集部にはいません。

大学関連の記事を書くのは、編集者Bではなく、私です。

ネガティブな内容ではなくポジティブな内容であっても、取材に応じようとはしない。

しかも、3年経っても5年経っても、抗議文をずっと掲載したまま。

では、就職率など就職情報を丁寧に出すように変えたか、と言えばまったくそんなことはなく。

率直に言って、面倒な大学だなあ、と思うしかありませんでした。

そう考えたのは私だけでなく、結果として、このA大学は相当期間、マスコミ関係者から敬遠されることに。

当然ながら、出れば大学の名前を売るチャンスも多々あったのに、この大学は自ら逃していたわけです。

大学業界は「真に受けない」度量の広さを

大学広報は、近畿大学、金沢工業大学、豊田工業大学などいくつかの例外を除けば、企業広報に対してレベルが劣ります。

レベルが劣る、というのは、広報担当者個人だけでなく、大学全体を含めてのことです。

前記のA大学がその典型でしょう。

大学広報担当職員が広報の重要性を理解していても、学長なり学部長なり、大学の要職にある教職員、それぞれが理解していないと、A大学のように、抗議文を長々と掲載してしまうわけです。

それで、事情を知らない他のマスコミ関係者から、

「あの大学、面倒だし粘着。他の大学に取材を申し込もう」

となってしまうわけです。

今回、週刊現代記事でネガティブに書かれた6校について、私は頑張っている点、社会から評価されている点を複数挙げることができます。

たとえば、冒頭に「使えない大学4位」とされた大阪経済大学は、ゼミ発表を学外の社会人を入れて審査させるゼミ1グランプリを実施。

「マネーの虎」もかくやの厳しさで、半泣きになる学生が毎年、続出します。

が、厳しい審査に触れることで成長する学生が毎年のように増えており、今、関西では採用担当者から偏差値以上に高く評価される大学となっています。

他の5校やランキングもどきに掲載された大学も同様です。

高校新聞部以下の記事に、過剰に反応するのはどうなんでしょうか。

テロが起きた

どうも某宗教の過激派だった

→じゃあ、その宗教の信徒全員を入国禁止にすれば平和になる

そう、短絡的に考える某超大国大統領と同じ発想ではないでしょうか。

同じマスコミどころか、同じ編集部であっても、記事・番組の内容は変わります。

大学が、高等教育研究機関、と言うのであれば、その教育、その研究を明らかにするのは社会的義務、というものです。

その過程で一度や二度、あるいはもっと、批判されることがあるかもしれません。

が、その批判に過剰防衛をして門戸を閉ざし、壁の内側にこもるのか、それとも、門戸を開くことでさらに光り輝くようになるのか。

今回の週刊現代騒動は、単に大学バッシングだけにとどまらず、大学の度量が問われる一件である、私はかように考えます。

いや、案外、「高校の新聞部以下」と酷評された週刊現代編集部が、

「そこまで言うなら、『入ってもいい大学』特集を書いてください」

と、依頼してくるかもしれません。

そうなると、面白いですけどね。

週刊現代編集部の方、ご連絡お待ちしております。

大学関連記事について

大学関連記事については、このYahoo!個人の「大学ディープ紀行」シリーズなどで大学については色々と書いていく予定です。それが大学にとってポジティブかネガティブか、それはまた別問題ですが。

大学ディープ紀行・1回目:日本の天文学プロジェクトチームはハワイにたどり着けるのか~1億円が出せて旅費80万円が出せない謎(2016年5月16日)

大学ディープ紀行・2回目:近畿大「深夜アニメ20本視聴」講義の実況中継ルポ~想像の斜め上を行くガチ中のガチだった!(2016年5月23日)

大学ディープ紀行・3回目:一億総「鬱」社会を阻止するタンパク質G72の謎に挑む(2016年6月10日)

大学ディープ紀行・4回目:学生ツアコン奮戦記~文京学院大・中山道ウォークから「学生主体の教育プログラム」を考えてみた(2016年9月5日)

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ishiwatarireiji/20170113-00066541/大学ディープ紀行・5回目:「センター試験24泊25日」は「9泊10日」へ~一木重夫・小笠原村議インタビュー再び(2017年1月13日)

追記

記事公開後の2017年2月6日に、

「週刊現代の記事写真が掲載されているが、実名も入っているので非常に迷惑。誤解を招く原因になる。できれば削除してほしい」

とのご指摘を受けました。

すでに、週刊現代記事として出ており、かつ、当記事はその検証記事でもあります。

当初は、検証記事の写真として記事写真も必要との判断から掲載しました。

が、ご指摘を受け、検討した結果、大学名が映りこまない形での記事写真とキャプションに差し替えました。

ご指摘いただいたY様、ありがとうございました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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