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英フィナンシャル・タイムズが短文ニュースサービス「fastFT」を開始 -要約がさらにトレンドに?

小林恭子ジャーナリスト
英フィナンシャル・タイムズのfastFTの画面(ウェブサイトより)

15歳の英国人少年が開発した、ニュースを要約して見せてくれるアプリ「Summly(サムリー)」を、ヤフーが買収したニュースを記憶していらっしゃる方は多いと思う。また、堀江貴文ライブドア元社長がハフィントンポスト日本版松浦茂樹編集長との対談で、「ニュース長すぎ。たとえば新聞も長すぎ。新聞の記事って内容がない割にはけっこうだらだら書いてあって。ネット時代は長くて400文字」と発言したことも、まだ記憶に新しい。

そんな中、英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が、29日から、刻々と発生するニュースを、24時間、短文で出してゆくサービス「fastFT」を開始した。

PCを使っている場合、通常のようにFTのウェブサイトをあけると右コラムに「fastFT」が出る。これをクリックすると、fastFTの画面になる(29日はサービス開始初日だが、今後、若干、ナビゲーションは変わるかもしれない)。アイパッドやアイフォーンでも画面のサイズに合わせた形で出るようになっている。

fastFTの画面では、カテゴリー(経済、マーケットなど)の次に1行の見出しが出る。いつ出た記事か(何分前かなど)の表記があり、その下には、1つの文章あるいは1つか2つの段落が出る。

その1つ1つの記事だが、見出しだけでは全体は分かりにくい。しかし、その下につく1つ(あるいは2つの)文章で、大体話が分かるようになっている。

もしそのトピックに興味があれば、「オープン」というタブがあるので、これをクリックすると、短い「記事」が読める。これ自体が「伝えたいこと全体の要約」ともいえる。開いてみると、とにかく短く、フィナンシャル・タイムズの通常の記事であれば、3分の1もいかないかもしれないほど。

この「記事」の中には、FT紙の通常の記事、つまり、長い記事へのリンクが参考として入っているときもあれば、入っていないときもある。つまり、このfastFTは、通常の記事を読んでもらうことを目的としているのではなくて(そうしようと思えばできるのだけれども)、ここでほぼ完結することを狙っている。

fastFTの面白いところは、

―ロイターなど通信社と競争しているわけではないが、「速報をすばやく知りたいときに、ほかのサイトに行くのではなく、FTに来てもらえる」

―忙しい人にとって、見出しだけ見るだけでも十分だ

―しかし、本当に1行の見出しだけで足りるかといったら、実際、そうではないので、「見出しと1-2行の要約」だけを読むと、長い記事を読まなくても良い

―さらに、ほんのもう少しだけ読みたい人には、短い記事が提供されているので、ここまで読んで、後は長い記事(ウェブサイトの通常の記事)を読まなくても良い

ー通常の長い記事を読ませることを狙っていない

という部分だろう。

FTサイトはメーター制の課金制度をとっているので、月に8本までは無料で閲読できるが、それ以降は購読者にならないと読めない。

―要約で足りること

かつて、数多くの媒体から情報を拾ってくるグーグルリーダーやRSSが大変な人気だったけれど、今となっては、読み手が一番読みたい媒体が短文式で速報を伝えてくれれば、時間的にも非常に助かるわけである。

「サムリー」のときもそう思ったのだけれど、この「要約のみで足りる」方式はこれからもどんどん増えるのだろう。読み手としてはオリジナルの情報源のサイトに飛ばなくても良い、情報発信側としては無理にオリジナルサイトに読者を引っ張らないというのが、新鮮に思える。

これは、読み手にとっても、書き手にとっても、メディア企業にとっても大きな動きだ。例えば書き手の場合で言えば、自分で考えて書いて、編集者が構成や事実確認や表現などを見て、「1つのコンテンツ」=商品として、サイトに記事を出すとしよう。ところが、これからの読み手はこのコンテンツを読みにはこない。「要約」で足りてしまうからだ。ビジネスモデル、広告モデル、ニュース情報消費モデルがどんどん、変わっている。

改めて、FTのサービスの話に戻れば、fastFTを担当するのは8人のベテラン記者。世界の各地域に記者を置き、24時間、情報が途切れないようにする。世界のどこかでマーケットはあいているのだ。この8人は、FTの通常の記事に読者を引っ張るために要約を作るのではなく、ここだけで完結する記事を作っている。

携帯端末の利用者を想定して、ビジネスの要約ニュースを発信するという試みは、米アトランティックもQuartzというサイトでやっている。こちらは閲読無料だ。

アイフォーンのアプリとして使えるCirca Newsも要約ニュースが楽しめる(動く画面を見るには、アイチューンズでアプリをダウンロード)。サマリーによく似ている感じだ。ニュース源は第3者から提供され、編集スタッフが要約・編集して出している。ニュース源を知りたい場合、「i」マークをクリックすると、元記事が読める。

特定のニュースのアップデートが欲しい場合、「購読する」を選択すると、新しい情報が入り次第、教えてくれる。先日の米ボストンマラソンのテロ事件では、多くの読者がアップデート情報を希望したという。

ニュースは要約した形で読む、元の長い記事にいく必要はない、要約だけでもずいぶんと面白いし、役に立つー。この傾向は前から発生していたけれども、フィナンシャル・タイムズまでもが新たな形で導入し、ますます広がっている感じがする。

参考記事

Financial Times launches fastFT

FT launches breaking news tool “when 140 characters doesn’t cut it”

Circa hires Anthony De Rosa away from Thomson Reuters to expand its editorial ambitions

The Atlantic’s Quartz is here at last but will it pay?

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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