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ビジネスに効く、笑わせるための9つの技術【西条みつとし×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲスト、西条みつとしさんの近著は、『笑わせる技術〜世界は9つの笑いでできている〜(光文社新書)』です。「笑い」を取るための手法を論理的に分析し、9つのジャンルに分けてわかりやすく説明しています。このテクニックを使って、相手をクスッと笑わせることができれば、お互いの距離感がグッと縮まって、ビジネスが円滑に進むかもしれません。

<ポイント>

・お笑い芸人引退後の収入源は?

・嫌いだった演劇にのめりこんでいった理由

・最も使いやすいのは「共感」の笑い

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■引退後にひらけた、放送作家への道

倉重:芸人をやめる代わり、お笑いの世界で仕事をして、お金を稼ごうと思ったのですね。

西条:「何でもいいから働いて生活しよう」と思いました。ただ、18歳からお笑いをしているので、それ以外の稼ぎ方や仕事の仕方が全然分かりません。「今のスキルや能力でお金になることは何だろう」と考え、とりあえず後輩芸人のネタを書いてバイト代をもらうことにしました。もともと「書いてほしい」という芸人は周りにたくさんいましたが、僕が芸人だった時は、ライバルになるかもしれない芸人にネタを提供することに少し抵抗があったのです。

倉重:ネタを売るのは、業界では普通にあることですか。

西条:売るというか、ネタを書いて謝礼をもらう事は普通にあります。

倉重:ネタは1本いくらぐらいで売れますか?

西条:人によって全然違います。当時は言われる額で作っていました。

倉重:ネタを売って、最低限暮らしていけるぐらいはなりましたか?

西条:それだけでは食べていけないので、バラエティーの放送作家もしていました。芸人をしていた時にお世話になっていたテレビの局の方に、「お仕事下さい」とお願いたらタイミングよくいただけたのです

倉重:放送作家や構成作家もされて、だんだん今の仕事に近づいてきた感じですね。現在は演劇の主宰もされています。これはどのようにつながっていったのですか。

西条:「ネタも書きます」「バラエティーの作家もします」「生活するためなら何でもします」というときに、ある人から、「20分の舞台を書いてみませんか」というお話をいただきました。僕自身は演劇や舞台が大嫌いでしたが、「生活のために仕事はありがたく受けたほうがいい」と思って、引き受けたのです。その舞台を観た舞台関係者が、僕の作品を「面白い」と言ってくれ、次の仕事が入りました。どんどん連鎖し、舞台の仕事が増えていったのです。

倉重:舞台や演劇のどういうところが嫌いでしたか?

西条:お客様を楽しませたり喜ばせたりするための作品ではなく、脚本家や演出家、団体、プロデューサーの自己満足のために、お客様がお金を払って付き合わされているイメージが強かったのです。

たまたまかもしれませんが、僕がその時まで観てきた小劇団の演劇はそのような作品ばかりだったので、苦手意識がありました。その点、お笑いは目の前のお客様を笑わせるために作品を作ります。仮にウケなくても、「滑ってもいい」「お客様に理解してもらえなくてもいい」とは思っていません。舞台は「これでいいんだ」と言い切るところが嫌いでした。

倉重:「分からないやつが悪い」というような。

西条:そうです。それがすごくひきょうなエンターテインメントだと思っていて、大嫌いでした。

倉重:実際に大嫌いな仕事をすることになったときは、どのように心を整理しましたか?

西条:お金のために書く事は書く。でも、演劇の嫌いな部分を全部紙に書き出して、それに当てはまらない作品を書く事にしたのです。演劇でしたいことはありませんでしたが、「したくないこと」はたくさんありましたので、それを回避しながら作品を作りました。

倉重:嫌いなところの逆を行ったら、「またお願いします」と頼まれるようになったのですね。そのうちに劇団を主宰したり、映画まで作ったりされています。

西条:そうです。大好きなお笑いをすることで、「自分は演劇が嫌いだ」ということを知りました。その嫌いな部分をあぶり出して、そうではない作品を作ろうとしたら評価されました。演劇の中でお客様を笑わせた結果、どんどん良い評価をいただき、うれしくなって、演劇も好きになっていったという流れです。

倉重:今はもう演劇がお好きなのですよね。

西条:今は大好きです。

倉重:どのようなところがいいですか?

西条:お笑いもそうですが、ライブだからこそ、演者の呼吸や言葉や空気をダイレクトに感じられる所が、心が揺さぶられて大好きです。映画やドラマでも感動を与えられますけれども、演者がお客様の感情を最高に動かせるのは、ライブだと思います。

倉重:そもそも嫌いだったところで成功するとは、人間の人生は分からないものですね。

西条:舞台でも映画でもドラマでも、僕がオリジナル作品を書かせていただくときは、主人公の未来に必ず希望が入るようにしています。僕は夢を追う事や幸せを求める事を諦め、「これからは、生きていくためにお金を稼ぐ人生になるのだ」と悲しくなりながらも、死ぬよりはいいと思って覚悟を決めました。そうしたら、新しい夢ができ、未来に希望が見え、人生が楽しくなったのです。自分が今考えていることが幸せの全てではありません。そんな経験から、「どんな人生にも希望はある」というメッセージを作品にこめているのです。

倉重:私も西条さんの舞台をいくつか見せていただきましたが、お笑いの要素を必ず入れて、最後はハッピーエンド的が多いという印象でした。きちんとそういう意図があったのですね。

■ビジネスパーソンに笑いは必要か?

倉重:いよいよ本題の「笑わせる技術」について伺っていきたいと思います。新刊の『笑わせる技術〜世界は9つの笑いでできている〜』では、ご自身の経験も踏まえて、笑いを分析されていますね。まず「なぜ笑いが必要なのか」というところから聞いていきたいと思います。例えばビジネスシーンでも、アイスブレークを挟まなければいけませんし、社内でコミュニケーションをする必要があります。ビジネスパーソンにとって、笑いは大切なものだと思いますけれども、いかがですか。

西条:本の冒頭に書かせていただきましたけれども、仕事をするときは、「人対人」です。「人対機械」だったら笑いは必要ありませんが、人対人で仕事をする場合、うまくコミュニケーションできるほうがスムーズにいくと思います。そのためにも笑いが必要なのです。

倉重:人と人が接する以上、必ずコミュニケーションは発生するし、そこに笑いがあったほうが、仕事が円滑に進みます。そのためのスパイスとして、「笑い」があるといいですね。特にテレワークをしていると、会話が連絡事項中心で、事務的になりがちです。意識して笑いが取れると、ビジネスパーソンとしては強みになるので、そのコツを教えていただければと思います。

本の中で、「笑いには9つある」とお書きになっていました。その9個を挙げますと、第1が共感の笑い、第2が自虐の笑い、第3が裏切りの笑い、第4が安心の笑い、第5が期待に応える笑い、第6がむちゃの笑い、第7が発想の笑い、第8がリアクションの笑い、第9がキャラクターの笑いとされています。お笑いはすべて、このどれかの型に当てはまるということですか。

西条:笑いの取り方の手法がこの9種類に全部当てはまります。

倉重:笑わせる側の視点ですね。笑わせ方をきちんと考えたことはありません。まず、「共感の笑い」とはどういうものでしょうか。

西条:自分が言ったことに共感した瞬間、相手は笑います。共感すると、どうして笑いが生まれるかというと、相手が敵か味方か分からない初対面のときに、「それ分かる」「だよね」「いいね、いいね」と思わせると一気に距離感が縮まるのです。安心感や仲間意識などを抱き、自然と笑顔になります。

倉重:仲間意識を使った笑いは、比較的使いやすい笑いということですね。

西条:そうです。9個で考えた場合、一番使いやすい技術だと思います。

倉重:共感の笑いを使う上で、もっと笑わせるためにはどうすればいいですか。

西条:共感させる内容選びが重要です。誰もが共感する内容だと相手との距離感は縮まりません。

倉重:広過ぎてはダメということですね。

西条:そうです。誰もが共感する内容より、笑わせたい相手のみ共感する内容の方が、仲間意識が生まれやすいのです。例えば「人を殺してはいけない」と言ったとしたら、そのことに対して共感はするけど、「この人は私と同じ考えだ」「俺とは気が合いそうだ」とはなりません。当たり前のことだから、「どこにでもいる人だ」という印象になるでしょう。

倉重:例えば、営業で初対面の人に対しては、どう使ったらいいですか。

西条:初対面の人だからこそ、共感させて仲間意識を持たせることで仕事がうまくいくのです。ただ、初対面なので、相手が何に共感してくれるか情報がありません。話しているうちに共通項を見つけることが重要です。

倉重:初めは天気の話などから入りますけれども、当然それでは笑いは取れないという話ですね。

西条:そうです。天気の話だと常識になってしまいます。「雨が1週間も続いて早く晴れて欲しいですね」と言われたら、共感はするけど、仲間意識が生まれるわけではありません。常識ではない共感する内容を探るのが、共感で笑わせるコツです。

(つづく)

対談協力:西条みつとし(さいじょう みつとし)

1978年4月12日 千葉県出身 映画監督・ドラマ監督・演出家・脚本家・放送作家

TAIYO MAGIC FILM 主宰

2010年3月14年間の芸人活動を辞め、同年4月より、テレビ番組の放送作家として活動。

2012年5月、劇団太陽マジック(現TAIYO MAGIC FILM)旗揚げ。

映画(監督・脚本)

「HERO」監督・脚本(2020年6月)、「blank13」脚本(2018年2月)、「ゆらり」原作・脚本 (2017年11月)、「関西シジャニーズJr.のお笑いスター誕生!」脚本 (2017年9月)

短編映画(監督・脚本)

「JURI」 監督・脚本

映画・受賞歴

「blank13」シドニー・インディ映画祭 最優秀脚本 受賞、「blank13」ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017 大賞(作品賞) 受賞、「JURI」ええじゃないか とよはし映画祭2019 とよはし未来賞(審査員賞)受賞

ドラマ(監督)

「劇団スフィア」(TOKYO MX・サンテレビ・AT-X)第5話・第6話 監督(2019年10月〜)

「面白南極料理人」(BSテレビ東京・テレビ大阪)第4話・第5話 監督(2019年1月〜)

ドラマ(脚本)

「もやモ屋」(NHK・Eテレ)第2回【おもしろい子はいい子?悪い子?】脚本(2019年10月・11月)

「劇団スフィア」(TOKYO MX・サンテレビ・AT-X)第5話・第6話 脚本(2019年10月〜)

「面白南極料理人」(BSテレヒビ東京・テレヒビ大阪)第1〜5話・第9〜12話 脚本(2019年1月〜)

「ブスだって I LOVO YOU」(テレビ朝日)企画・脚本(2018年12月)

「○○な人の末路」(日本テレビ)全10話 脚本 (2018年4月〜)

「オー・マイ・ジャンプ!」(テレヒビ東京)第3話・第6話 脚本 (2018年1月〜)

「下北沢ダイハード」(テレヒビ東京)第1話 脚本 (2017年7月〜)

ドラマ・受賞歴

「面白南極料理人」 ギャラクシー賞 奨励賞 受賞

著書

「笑わせる技術〜世界は9つの笑いでできている〜」(2020年5月)光文社新書

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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