教育委員会に聞いた文科省調査には学校現場の実情が反映されていない
文科省は12月23日、「令和4年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」を発表した。注意しなければならないのは、「教育委員会における」ものであって、教職員の声によるものではない、ということだ。
| 教職員の働き方は改善されたのか
調査結果をみると、「時間外勤務の経年比較」のページでは働き方が改善されているような結果が強調されている。「4月から7月までを平均した『時間外勤務月45時間以下』の割合」において、小学校では「2019年度と比較して11.7%増加」となっている。
月45時間以下の割合が増えたということは、「時間外勤務時間が適当」になっている教職員の割合が増えていることを示すことになっている。月45時間は、文科省指針として定められた時間外勤務時間の上限である。上限を超えていないので「適当」ということになるのかもしれないが、それが適当かどうかは議論のあるところだ。ともかく、時間外勤務時間が月45時間内に収められている割合が増えているのだから、「改善されている」というわけだ。
ちなみに、時間外勤務時間が「45時間超から80時間以下」の割合は、2019年度の37.9%から2022年度は32.5%と減っている。指針の上限を超える時間外勤務の割合が減っているということで、「改善されている」ということになる。
中学校においても、上限以内の割合は小学校と同じで増えている。ただし「45時間超から80時間以下」の割合については、2019年度の38.6%から2022年度は40.0%と増えている。「改善されている」とは言えない結果になっているわけだ。ただ「80時間超から100時間以下」は14.9%から8.9%になっている。時間外勤務時間が80時間以上だった人が80時間以下になったと考えれば、改善といえなくもない。
| 教職員と管理職の認識のズレが広がっている
この文科省の調査結果をみるとき注意しなくてはならないのは、比較が2019年度と2022年度となっていることだ。
新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)による全国一斉休校が実施されたのは、2020年3月のことだった。この調査の対象は「4月から7月まで」なので、調査の2019年度は「新型コロナ前」である。
新型コロナによって学校の行事などは中止・短縮され、それによって教職員の業務量も少なからず減った。時間外労働時間につながった面もある。まだ2022年度は新型コロナの影響による行事などの縮小が一部で続いており、完全に「新型コロナ前」に戻っているとはいえない。にもかかわらず、「新型コロナ前」と単純に比較することには疑問がある。新型コロナ前より改善されているといっても、ただ新型コロナの影響の延長でしかない可能性もあるからだ。
もっとも注意しなければならないのが、この文科省調査が「教育委員会における」ものでしかないということだ。つまり、「教育委員会の認識」でしかない。はたして、教育委員会は教職員の働き方の実態を正確に把握できているのだろうか。
12月22日に日本教職員組合(日教組)が発表した、「2022年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」がある。こちらは、「教職員」を対象にしたアンケート調査結果である。
そのなかに、「実際の勤務時間と管理職の勤務時間記録」という項目がある。この回答者は、「管理職が把握した勤務時間記録を確認できる」と回答した者だけで、「確認できない」と答えた教職員も3割近くいる。これはこれで問題である。
ともかく、実際の勤務時間と管理職が把握している勤務時間が「一致している」という回答は、2020年の70.4%から、2022年度は64.8%になっている。教職員自身は「きょうは10時間働いた」といっているのに管理職は「8時間しか働いていない」という例が増えているということになる。
教職員の働き方改革が社会の注目を集めているなかで、教職員の時間外勤務時間を減らすことは管理職の責務となっている。そのため時間外勤務時間の多すぎる教職員を個別に呼びだして管理職が注意するという話はよく聞く。呼びだされるのが苦痛で、情けないことだが、時間外労働時間を過少申告するという話も珍しいことでもないようだ。管理職が把握している勤務時間は、こうした「調整」後のものでしかない可能性が高い。
今回の文科省調査の対象となっている教育委員会の把握している数字は、管理職の把握している数字が反映されている。そうなると、これが実態を表しているかどうか疑問なのだ。
それでも、やや改善されてはいるものの、大幅には改善されてはいない。「調整」しても、隠しきれない現実があるということだ。教職員の働き方改革は遅々としてすすんでいない。