サンウルブズは明日のキングズ戦に向けて「大敗」を糧にできるのか?
一時は100点ゲームを覚悟した!
正直に言おう。
2月25日に行なわれたスーパーラグビー開幕戦、サンウルブズ対ハリケーンズの試合を見ながら、私は100点ゲームを覚悟した。
それも後半立ち上がりの10分間で、だ。
何しろ失点のパターンが悪かった。
前半で5―45と引き離されて始まった後半開始1分にハリケーンズNO8ブレイド・トムソンにトライを奪われると、5分にもトライを奪われ、ようやく反撃に出た8分には、堀江翔太が放ったパスをハリケーンズFLブラッド・シールズにインターセプトされて独走トライを許す……SOオテレ・ブラックのコンバージョンが1つ外れたので失点は19点にとどまったが、これがわずか10分間の出来事だった。
1万7千553人が詰めかけた秩父宮ラグビー場は静まりかえり、トライを告げる場内アナウンスの声だけが空しく響き渡った。
ハリケーンズの攻勢はやまず、18分にも山中亮平のパスがインターセプトされ、そこからボールをつながれてトライを追加されて、失点は83まで伸びた。
残り20分でハリケーンズが3トライ+コンバージョンでスコアを3桁に載せるのは、確率論的に言えばまず間違いのないところだ。
しかし、そこからサンウルブズが頑張った。
ラスト20分間だけに限れば、サンウルブズが2トライ1コンバージョンで12点を挙げたのに対し、ハリケーンズは無得点に終わっている。こんなデータが何の役にも立たないのは百も承知で言えば、秩父宮の観客がトゲトゲした雰囲気にならずに帰宅の途につけたのは、この“最後の抵抗”があったからだった。
なぜ前年度優勝チームとの開幕戦にベストメンバーを組めなかったのか?
フィロ・ティアティア ヘッドコーチ(HC)は、「最後まで諦めずに戦う姿勢を見せられた」と話し、終盤に2つのトライのラストパスを放った茂野海人も、ベンチに座りながら点差が開く一方のゲーム展開に「諦めない姿勢を見ている人たちに与えるのが大事」だと心に決めてピッチに入ったと振り返る。
共同キャプテンの1人でバックスの大黒柱・立川理道をはじめ、15年のラグビー・ワールドカップで大活躍したメンバーが軒並みコンディション不良で、登録メンバー23名中12名がスーパーラグビー初登場という事情もあって、「まあ、仕方がない」という受け止め方をしたファンが多かったのは事実だった。
ティアティアHCも、「12人がスーパーラグビーにデビューしたのはポジティブなことなのに、なぜ記者はそれについて質問をしないのだ」と、少々逆ギレ気味に記者会見で発言していたが、確かに19年に日本で行なわれるワールドカップを考えれば、世界最高峰リーグを経験した選手が増えるのは素晴らしいことだ。その点については異論はない。
しかし、この試合は、ホームの秩父宮に前年度優勝チームを迎えて行なうスーパーラグビーの開幕戦なのである。
相手のハリケーンズは、細かいところまで戦い方を意思統一し、ベストメンバーで乗り込んできた。それに対して、参戦2シーズン目の前年度最下位チームは18日間の準備しかできず、かつベストメンバーを組めるだけの調整をできなかった。
南半球のニュージーランドとはラグビーシーズンが逆と言ってしまえばそれまでだが、前年度優勝チームを“聖地”秩父宮に迎え撃つにあたって、日本という国は、サンウルブズというチームに、ラグビー界の総力を挙げてベストメンバーを組めるよう取りはからえなかった。トップリーグがあって日本選手権があって、あれもこれもと多忙な国内スケジュールを大胆にカットするなり、選手のコンディションを整えるために休ませるといった手を打つこともなく、あくまでも粛々と国内シーズンを優先し、前年度最下位チームは為す術もなく蹂躙されたのである。
これはサンウルブズのマネジメントの問題ではなく、日本ラグビー協会が何を最優先して何を切り捨てるかという決断を怠った証だと受け取られても仕方がない。少なくとも、世界という視点で考えれば、サンウルブズの今回のパフォーマンスは、そう見られても反論できないものだった。
ベストメンバーを組んでも勝つのが難しい(個人的には20点差ぐらいつくのではないかと考えている)相手に、これでは勝ち目がない。
聡明なラグビーファンは、私のような憎まれ口を叩かずにこの事態を冷静に受け止め、その経験値の少ないメンバーが最後に「意地を見せた」ことに安堵して、比較的穏やかに秩父宮を後にしたのだった。
でも、収穫はあった!
それでも、収穫はいくつかあった。
まず、“職人”長谷川慎コーチに鍛えられたスクラムは、前年度王者に対しても明らかに優位に立っていた。これは今後に向けて大きなプラス材料だ。
トライをお膳立てした茂野や、後半29分にトライを挙げた金正奎のような、昨年のサンウルブズでスーパーラグビーを経験したメンバーは、大差がついた状況でもシャープな動きを見せて、スピード感に溢れたプレーをすればどんな相手にも日本的なラグビーが通用することを、体を張って示してくれた。
途中からFBに入った江見翔太は、身長182センチ体重95キロという体格を生かしてスケールの大きなプレーを見せ、今後に可能性を感じさせた。
不在だったワールドカップ代表組の存在感が大きく見えた一方で、新しい芽も出始めているのだ。
そして、この日のメンバーからハーフ団を田中史朗―ヘイデン・クリップスに差し替えて、サンウルブズは明日、第2のホームとされているシンガポールで南アフリカのチーム、キングズと対戦する。ベテランの田中が加わるだけでも大幅な戦力アップと、個人的には考えているが、キングズは前年度の順位がサンウルブズより1つ上の17位。昨季も、南アのポートエリザベスで対戦し、28―33と競った試合をしている。しかも、シンガポールは高温多湿で、昨季もサンウルブズはここで南アに本拠を置くチームに接戦を挑み、7点差以内負けのボーナスポイントを積み上げた。
前年度優勝チームと戦った体感が生々しいうちに、気象条件に恵まれた――あくまでもトップリーグで暑熱の試合を経験している分、高温多湿という条件に相手より慣れているという意味で――シンガポールでさほど力の差がない相手と戦って、今季初勝利を狙うという筋書きが見えてくるのだ。
「試合は最良の練習」とは、海外からトップリーグに加わった選手やコーチが常に口にする言葉だが、その伝でいけば、惨敗を総括した上で気持ちを切り替え、次の試合で勝利を手にしてこそ、選手個々の力も上がる。
また、明日のキングズ戦から続くアウェーでの4連戦が、ある意味強化合宿のような役割を果たしてチームの地力を引き上げることも事実なのだ。
田邉淳コーチはこう話す。
「去年もそうでしたけど、遠征はぐっとチームがまとまるんです。メンバー20数名が、常に同じ屋根の下で生活するわけですし、すぐにミーティングもできる。ウェイトをやろうと思えばジムが近くにあるし、グラウンドにも近い。この遠征でチームを練り上げることができるでしょうね」
昨季も、シンガポールから南アに渡った長期遠征のあとで、サンウルブズは時差ボケを気合いで克服し、アルゼンチン代表が母体のジャガーズから初勝利を挙げているのだ。
今季も、遠征明けの4月8日には、秩父宮でブルズとの試合が予定されている。
開幕戦で惨敗という結果しか見せることができなかったホームグラウンドで、遠征で鍛えられた精悍な勇姿を見せること。そこにフォーカスすれば、過酷なツアーも乗り切れるだろう。
そのためにも、明日のキングズ戦は重要だ。
大敗のなかにようやく見つけたポジティブな要素を、シンガポールの気候を利用して最大化できるかどうか――明日はその点に注目して、テレビの前で声をからして欲しい。
キックオフは、日本時間の19時55分だ。