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錦織一清、“今”を語る<前編>「ジャニーさんとつかこうへいさんは、僕の中では同じ存在」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/THECOO

公式FC『Uncle Cinnamon Club』開設

2020年末でジャニーズ事務所を退所した少年隊・錦織一清が、コミュニティ型ファンクラブ「Fanicon(ファニコン)」で、公式FC『Uncle Cinnamon Club(アンクルシナモンクラブ)』を4月29日に開設。少年隊時代の愛称「ニッキ」をもじったそのファンクラブ名にファンは歓喜。入会の申し込みが殺到し、一時サーバーがダウンしたほどだ。事務所在籍時から俳優・演出家としての活動を精力的に行い、退所後も「ワンクールくらいはゆっくりして、色々考えようかなと思っていた」という本人の言葉とは裏腹に、演出家として、日々忙しく活動している錦織にインタビュー。ファンクラブ開設に至った経緯、ジャニ―喜多川、つかこうへい(劇作家・演出家・小説家)という、大きな影響を受けた二人の恩人について、そして演出家としてモットーとしていること、さらに少年隊の音楽についてまで、話は多岐に渡った。前後編に分け、お届けする。

「ジャニーズ事務所にいる時から演出等の仕事をやらせてもらっていたので、違和感なく“次”に向かえました」

昨年いっぱいでジャニーズ事務所を退所。まさに心機一転、新たな心持ちで活動をスタートさせたのかと思いきや、そうではなかったようだ。

「新たな気分で、という感じになるのかなと思っていたら意外とそうでもなくて。ジャニーズ事務所に所属している時から、演出とか色々なことをやらせてもらっていたので、そんなに違和感なく次の仕事に向かうことができました。本当はワンクールくらいは、準備期間としてちょっと色々考えようかなと思っていましたが、昨年末に、今年3月に行った舞台『しゃばけ』(畠中恵『しゃばけ』シリーズpresents シャイニングモンスター ~ばくのふだ〔Shining編/Shadow編〕~)の演出の依頼を受けました」。

錦織は『少年隊PLAYZONE KING&JOKER』(1995年)で演出を務めたことを皮切りに、 役者と並行して、演出家としても精力的に活動していた。そして1999年に出演した舞台『蒲田行進曲』で演出家・つかこうへいと出会い、ますますその魅力にとりつかれていく。2018年からは、愛媛・坊ちゃん劇場でのミュージカルを3年連続で手がけるなど、その演出家としての手腕を高く評価されている。本人も『シャイニングモンスター』の制作会見で「若い人たちと一緒にやっていると今が人生の中で一番楽しいと思える」と語っているように、演出家という仕事を“天職”と受け止め、様々な舞台でとにかく人を楽しませるために“錦織流”を貫いている。ジャニー喜多川という稀代のプロデューサーと、つかこうへいという舞台界の巨人、二人から“鍛えられた”演出家は他にはいない。

「ジャニーさんが目指しているものと、つかさんのお芝居が目指しているのは両極に見えて、そこにあるスピリチュアル的な部分は同じ」

「芝居のカンパニーの中では、会社でいうと僕が上司になってしまいます。でも芝居をやっている以上は若い人たちとも友達の関係になれるじゃないですか。それが楽しい。ジャニーさんとつかさんの、二人からいただいたものはとても大きかったのですが、皆さんが思っていることとちょっと違うのが、ジャニーさんとつかさんって僕の中では同じ存在ということです。ジャニーさんが目指しているものと、つかさんのお芝居が目指しているものが両極にあったとしても、そこにあるスピリチュアル的な部分は同じなんです。つかさんは初日を迎えても千秋楽が終わるまで決して諦めない。ジャニーさんも同じで、毎日同じでは嫌で、演者は千秋楽に向けて成長していかなければいけなかったんです。『あそこのシーンは面白くないから、そろそろ変えなきゃまずいな』と言って、決して諦めない。つかさんが僕にいつも言っていたのが『芝居はでき上がった料理をレンジでチンして出すもんじゃない。その日その場で捌いた魚を、みんなに観てもらっている』ということでした」。

お客さんを一秒たりとも飽きさせないジャニーズの演出と、削ぎ落したものの中に存在する光をクローズアップするような、つかこうへいの舞台。その両方を経験している錦織の中では、二つのやり方がダブルスタンダードとして存在しているという。

「ジャニーさんが作る舞台は総天然色で、いわゆるウォルト・ディズニー的な、画面の隅々までキャンディーポップな色を散りばめているような感じを、目指していた人なのかもしれません。でもつかさんの場合は、例えばモノクロの写真の中にカラーで赤い薔薇が一輪存在して、その赤にこだわる、そんなイメージなんです。そこにターゲットをロックオンさせる芝居で、だから端っこには何も描いてなくていいだろうという感覚です」。

偉大なプロデューサーと演出家の仕事を間近で見て、感じ、さらに役者としてのキャリアも豊富な錦織。演出家として役者とはどう向き合っているのだろうか。

「人は自分をごまかす時に最高の芝居をしている」

「僕は歌と芝居と踊りをやってきましたが、一番好きなのは芝居です。芝居って無限性があって面白い。他の演出家の方と僕の違いというのは、役者によく言うのが『芝居って、なんで舞台の芝居にしようとすると、お客さんにわかってもらう芝居になるのか』ということです。例えば、普段の生活の中で、女の子とご飯に行って、その子がトイレに行って帰ってきても、トイレになんか行ってないよって顔をしてるでしょ?そういう雰囲気を出すじゃないですか、女の子って。それが僕は一番の芝居だと思っていて。みんな自分をごまかす時に最高の芝居をしています。例えば舞台上で足をぶつけた演技の時、なんで痛い!って表現するのかなって思います。ぶつけてもしれっとして演技を続けていると、お客さんは、あいつは痛いくせに我慢して芝居してる、というのが面白さにつながっていくんです。演出家の方はよく、お客さんにわからせる芝居を役者に要求するし、お客さんに今どういう気持ちかわからせろって言う人が多いと思います。でも僕はなんでわからせるの?って思う。この場面ではお客さんにも嘘をついて、後にそれが答えでわかる時がくるまでは、嘘をついていた方がいいよっていつも言っています。だって芝居って嘘ですから。つかさんがやっているのは芝居ではなく、その中で本音を役者にしゃべらせるんです。つかさんの“本当”のところは“本音”で、芝居ではないんです。だから本音をしゃべっている時に、芝居をするとものすごく怒られます。つかさんの芝居は、もちろん物語はフィクションだけど、つかさんが言っていることは本当なんです、というところが面白いんです。つかさんの芝居を観た女の子のアンケートに『いつもつかさんの芝居を観に来ていて感じるのが、私は舞台の上からつかさんに叱られているような気がします』って書いてあって。それで僕、つかさんに言ったんです、『つかさんに叱られてるみたいですって、すごくいいですよね。人間が叱るって愛情ですからね』って。そうしたら『やかましいなお前。俺の芝居の分析はいいんだよ』ってよく怒られていました(笑)。つかさんは人からのアイディアが大嫌いで(笑)、アドリブも禁止です。本当にセリフをかんだように見えるところまで、しっかり台本に書かれています」。

錦織のもう一人の“師匠”ともいえる存在、つかこうへいの話になると、その口調はますます熱を帯び、止まらなくなる。心からつかを尊敬し、心から芝居を愛していることが伝わってくる。

「つかさんの脚本は、言葉の選び方の芸術だと思います。例えば本当にくだらない下ネタを正しい日本語で丁寧に言う面白さ。でもそこばかりではなく、つかさんのお芝居ってセットがないんです。セットはないけど、セリフがいい言葉ばかりだから、そこにちゃんと情景が浮かんでくるんです。つかさんのお芝居に慣れ親しむというか、長年やっていると、最終的に稽古場では台本はなくて、自分の長台詞の部分だけが書かれたA4 の紙を渡されて、そこには文字がまるで紙を塗りつぶしたように埋まっていて。ただそれが、言葉を繋いでいくと、僕にはその長台詞が、ひとつの絵に見えていました」。

「芝居での“間”というのは、お客さんとの“間”であって、自分で作るものじゃない。お客さんが作ってくれるもの」

錦織はその役者の芝居をうまくさせるのはお客さんだという。それはライヴも同じだとも教えてくれた。

「僕の芝居は、リズムを大切にしていて、よく『芝居ってやっぱり“間”ですよね』って言う人もいます。じゃあ“間”ってどういうこと?って。人に言われて、何秒間か待つのか食い気味にいくのかとか、そういうこと言っているうちはダメだと思います。芝居はキャッチボールって言うけど、キャッチボールなんて誰もしていません。僕は芝居の“間”ってどうやって作るかというと、その日来てくれたお客さんとの“間”です。その日のお客さんとの呼吸。それをお客さんが感じていることが、芝居の“間”だと思っていて。役者同士の呼吸や間より、そっちの方が大事です。そこが抜きんでていたのが、松竹新喜劇の藤山寛美さんだと思います。芝居では、お客さんでそんなに遊んだりはしなくて、下品なことはやらないけど、自分がポンって言ったことでドカーンとウケた後に、寛美さんがなかなかセリフを言わない時に、吃音のフリをするんです。だからこれはお客さんが“間”を作っているんです。寛美さんは吃音の芝居をしようと思っているのではなく、吃音の感じの短い“間”だと思う。だけどちょっと吃音のフリをすると、それがおかしくてまた客席が笑うと、もっと待つんです。だから若い人たちには、芝居をうまくさせてくれるのはお客さんだってよく言います。お客さんの前でやらなかったら絶対にうまくならない。コースに行かないで練習場ばかり行っているゴルファーと同じで、うまくならないです。音楽のライヴはお客さんが“作る”というよりも、“仕上げてくれる”感覚です。7割くらいはお客さんが仕上げてくれる。だからこちらは本当は2割か3割くらいしか作ってはいけないんです。少年隊がやっていたのはライヴではなく“ショー”です。いわゆる昔のオールドスタイルのショーで、ジャニーさんはフォーリーブスの時代からジャズ喫茶で5回まわしとかやっていたくらいだから、時間をきちんと考えた完璧なショーを作り上げていました。でもそういうショーをやっていたのは僕らくらいまでだと思います。お客さんがキャーと言おうが、シーンとしようが何をしようが、とにかくそこで決まったことをやり続けなければいけない。僕たちは本場のニューヨークでもそういうショーをやってきました」。<後編>に続く

【錦織一清 生誕配信開催決定】

『Uncle Cinnamon Club』内で、5月21日(金)23時30分〜5月22日(土)0時30分 配信予定。※アーカイブあり

【期間限定入会特典】

5月31日(月)までにご入会の方全員に、「Uncle Cinnamon Clubオリジナルノート」をプレゼント

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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