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プランBの構築に着手した森保監督の3バックに潜む懸念材料【トリニダード・トバゴ戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:田村翔/アフロスポーツ)

前半の日本が後方に重心がかかってしまった原因とは?

 3月26日のボリビア戦から2ヵ月以上の月日が経過した中、日本代表がトリニダード・トバゴ代表とのAマッチを戦った。

 結果は0-0。確かにボール支配率60.7%、シュート25本を記録しながらゴールレスに終わったことを大きな課題とする声もあるとは思うが、こういった試合はサッカーではよくあること。

 とりわけ今回はメンバー招集の段階から目的が曖昧にならざるを得なかったというバックグラウンドがあり、しかもシーズンを終えたばかりのヨーロッパ組のフィジカルおよびメンタルコンディションのことを加味すれば、得点できなかったことだけを取り立てて問題視する必要はないだろう。

 選手の集中力が高く、研ぎ澄まされた状態であれば、ひとつひとつのプレー精度はもっと上がるはず。多くのヨーロッパ組が久しぶりの長期休暇を目前にしたこの時期に、それを求めるのは難しい現実がある。

 それよりも、このトリニダード・トバゴ戦で着目すべきポイントは、森保ジャパンのチーム作りが新たなフェーズに突入したことにある。森保監督のトレードマークとも言える3バック、つまり3-4-2-1を、スタートフォーメーションとしてお披露目したからだ。

「これまでも何回か試そうという思いを持って活動してきたが、まずは4バックでスタートのかたちを安定させて選手に戦術を理解してもらい、いずれ次のオプションを試す時が来ると思っていて、今回がそのタイミングだった。9月からのW杯予選まで活動がない中、ここで選手が感覚的に覚えてくれれば、オプションとして使えると思っている」(森保監督)

 3月の2試合で早くも劣化の兆しが見え始めていた森保ジャパンにとって、また9月から始まるW杯予選までにAマッチがない中では、今回がオプション構築に着手するギリギリのタイミングだったと言える。

 果たして、一方的に攻め立てたこの試合の中で明確に見てとれたのは、オプションとしての可能性よりも、むしろ森保監督の3-4-2-1の根本的問題の方だった。

 まず、「メンバー表を見た時に日本が3バックでくると思った」(ローレンス監督)というトリニダード・トバゴの布陣は、4-5-1(4-3-3)。4バックの前に5人の選手がブロックを作るため、森保ジャパンのバロメーターである縦パスのコースが消されていたことがひとつ。

 そこで一度ボールを下げてビルドアップをやり直そうとすると、相手の両ワイドが前に出て3トップのかたちをとって前進するため、ウイングバックの酒井と長友は高い位置を維持できずに下がらざるを得なくなる。

 その場合、日本の布陣は5-4(2-2)-1。前半はこの繰り返しで、お尻が重たい状態でサッカーをすることを強いられた最大の要因だった。

 また、中盤の人数も相手の5人に対して、日本は4人と劣勢の状態。一方、日本の最終ライン3人に対して相手は1トップのみ。つまり、後方(ディフェンスライン)で圧倒的な数的優位を作ったことも、日本の最終ラインが下がってしまった要因のひとつと言える。

 ようやく後半から縦パスが入るようにはなったものの、「現在は自国のリーグがシーズンオフの時期で、日本までの長距離移動の疲労もあった」とローレンス監督が振り返ったように、何人もの選手が脚を痙攣させてしまった相手に対して攻撃の圧力を強められたとしても、3バック時の攻撃が機能したとは言い難い。

 さらに懸念されるのは、相手のレベルが上がった時に、日本の両ウイングバックが高い位置を維持できるかどうか、という根本的な問題だ。これは、準備期間が2日しかなかったという今回のエクスキューズとはまったく別の話だ。

 広島時代は相手ボール時(守備時)とマイボール時(攻撃時)で選手のポジショニングを大きく2つに分けて対応していた森保監督だが、攻守の切り替えが激しく縦へのスピードアップが著しい現代サッカーにおいて、果たしてそのやり方がそのまま通用するのかどうか。

 相手の布陣にもよるが、サイドの人数で劣勢になった時、日本のウイングバックのポジションが下がってしまえば、5バックになる時間帯は自然と長くなる。

 現在ポーランドで行われているU-20W杯のラウンド16の日本対韓国戦。3バックの韓国が、5-4-1の状態で一方的に日本に押し込まれた前半の戦いぶりが、その典型的な例と言える(そこで韓国は後半から4バックに変えて試合の流れを変えた)。

 いずれにしても、W杯ベスト8を目指す今後の戦いの中でプランBは必要なわけで、まずはそのオプションの構築に乗り出したことは、少なくとも停滞するチームを前進させるためのブーストにはなるはず。

 おそらく3-4-2-1を採用するU-22代表で臨むコパ・アメリカも、森保監督はその布陣で臨むはずだ。自分流のやり方が、南米の強豪相手に通用するのかどうか。そういう意味では、森保監督が構築する3-4-2-1のメリットとデメリットがいかなるものなのかは、次のエルサルバドル戦も含めて継続的にチェックできそうだ。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】シュミット・ダニエル=6.0点

キック精度をアピールするような場面はなかったが、シュートストップでクリーンシートに貢献。3月の2試合からの継続性という点で、現在正GKに最も近い存在に昇格か。

【右DF】冨安健洋=6.0点

相手の問題もあるが、自身のサイドからピンチを招く場面はなく、安定した守備を披露。前半は縦パスを入れられなかったが、時間の経過とともにビルドアップの起点となった。

【中央DF】昌子源=6.0点

慣れない3バックのセンターでプレー。後半55分のピンチでは相手と併走しながらシュートコースを狭めて対処。86分のヘディングシュートは惜しくもGKの好セーブで阻まれた。

【左DF】畠中槙之輔=5.5点

背後に空けたスペースをカウンターで狙われる場面もあったが、全体的には及第点のパフォーマンス。ただ、自らドリブルで持ち上がって局面を変えるプレーが不足した印象も。

【右ウイングバック】酒井宏樹(62分途中交代)=6.0点

前半から積極的に攻撃に絡み、前半24分に精度の高いクロスで大迫のシュートをお膳立て。高い位置をとる意識はうかがえたが、堂安とのコンビネーションプレーの回数を増やしたい。

【左ウイングバック】長友佑都(79分途中交代)=5.5点

全体的には及第点の出来。酒井とのバランスで攻撃参加はいつもより控えめの印象。システムの関係で中島のポジションが内に入ったこともあり、インナーラップは影を潜めた。

【右ボランチ】守田英正(61分途中交代)=5.5点

相変わらず献身的なプレーを見せて守備面で貢献したが、ゲーム展開がゲーム展開だっただけに、攻撃面での絡みに物足りなさも感じさせた。全体的に存在感が薄かった。

【左ボランチ】柴崎岳=5.5点

攻撃の起点となるはずだったが、前半は縦パスも少なく慎重なプレー選択が多かった。後半から積極性が生まれてチャンスに絡んだが、放ったシュートの精度は低かった。

【右シャドー】堂安律(71分途中交代)=5.5点

5点に限りなく近い5.5点。周囲との絡みにスムースさが欠け、持ち味を出せずに終わった。アジアカップから代表でのパフォーマンスが低下しており、スタメンの座も危ういか。

【左シャドー】中島翔哉(71分途中交代)=6.0点

前半から積極的にミドルシュートを狙って、ピッチを去るまでにシュート7本を記録。存在感は随一だったが、ミドル以外に相手の脅威となるようなアイデアは不足していた。

【1トップ】大迫勇也=5.5点

何度か持ち味を出したポストプレーを見せたが、標準以下のパフォーマンスに終わった印象。とりわけ90分間でシュート2本では、エースの役割を果たしたとは言えない。

【MF】小林祐希(61分途中出場)=5.5点

後半途中から守田に代わってボランチでプレー。味方のパス精度の問題もあったが、後半70分にロストしたところからピンチを招いた。攻撃のテンポを変えるには至らなかった。

【DF】室屋成(62分途中出場)=5.5点

酒井に代わって右ウイングバックでプレー。攻守両面で及第点のパフォーマンスだったが、押せ押せムードの中での登場だっただけに、攻撃面で明確な爪痕を残したかった。

【FW】伊東純也(71分途中出場)=5.5点

堂安に代わって3-4-2-1の右シャドーでプレー。本来はタッチライン際で特長を出すタイプだけに、中間ポジションをベースにした中では苦労しているように見えた。

【FW】南野拓実(71分途中出場)=5.5点

中島に代わって左シャドーでプレー。短い時間の中でシュート3本を記録した点は評価に値するが、ネットを揺らすことはできなかった。気合いが空回りしていた印象も。

【MF】原口元気(79分途中出場)=採点なし

プレー時間が短く採点不能。試合終盤のスクランブル状態の中、長友に代わって左ウイングバックでプレーした。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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