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【潜入取材】なぜ?サントリーは人気企業の常連なのか? 社員の本音から見えたサントリーの世界観とは?

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
新卒・転職市場でも人気企業ランキングの常連とされるサントリーグループ。

ここ数年の就活市場の大きな変化と言えば、人気業界・企業の入れ替わりだ。AIの本格導入など背景は複数あるものの金融企業における雇用のあり方に懸念を抱いたネガティブトレンドから未来の可能性として人気急上昇のテクノロジー領域、さらにはAI時代だからこその「ヒト」に関するHR領域などが人気業界となってきた。

就活・転職市場でも人気のサントリー

そんな中、食品業界の人気は衰えを知らない。就活初期には、まず学生は生活圏内にあるものから興味を持つため食品領域は確かに人気が高い。中でも学生だけではなく転職希望者からも不動の人気を得ているのがサントリーだ。

キャリタス調べでは業種別ではサントリーがトップとなっていておなじみの印象。総合としても7位となっており学生からの人気企業の代名詞にもなっている。

直近では入社して後悔しない企業NO.1も獲得している。

入社後のリアリティショックは本当にないのか?

一般的には新卒入社の約8割が入社後に入社前の認識との違い、つまりリアリティショックを受けるというデータがあるが、人気企業として不動の立場を確立しているサントリーは、本当にリアリティショックがないのか?今回は人気企業の裏側を探るべく、新卒入社で営業企画、人事を経験して現在はダイバーシティ推進室でマネジメントをされている菅原さんに直接話を聞いてみた。

ダイバーシティ推進室菅原氏(写真提供:サントリー)
ダイバーシティ推進室菅原氏(写真提供:サントリー)

人気企業ランキングを見て正直どう感じる?

なかなか人気企業の社員に自分の会社が人気企業と言われることをどう感じているのかを聞く機会がないので、ズバッと聞いてみると、おもしろい回答が返ってきた。

「正直、人気企業というより、良い会社・ユニークな会社だという感覚のほうがマッチします。それは、創業以来脈々と受け継がれる“やってみなはれ”という精神のもと、お客様に最高品質の製品・サービスを提供するために、新しい価値をひたすら追い求め、常にチャレンジし続けているからだと思います。食品業界の我々は品質・安全に対しても徹底的に拘って企業活動をしておりますので、そういった点が世の中の皆様に受け入れられ、人気企業にもなっているということであれば大変うれしく思います。」

良い会社って?

サントリーの社員が感じている“良い会社”とはどんな定義なのか?

「サントリーでは人が命とよく言われるのですが、ひとりひとりが持てる力を最大限発揮し、活躍することが会社の成長につながるという考えのもと、人材育成や人事制度等の施策が整っています。また、我々の理念体系の中にある「やってみなはれ」「利益三分主義」という大切な価値観を社員が体現し、それを誇りに思える点が良い会社の定義かもしれません。」

人気企業へ入社するという感覚の新入社員はどう考えている?

では、サントリーが人気NO.1という認識をして就活をして入社に至る新入社員達はどのように感じて、変化するのか?入社後の生の声を聞かせて欲しいという質問にも躊躇なく応えてくれた。

「内定後には社員の価値観に触れる等、会社の理解を深めるので、入社前には人気企業よりも“良い会社”に変化しているケースが多いのではと思います。当然、イメージの中での“良い会社”ですが、入社して1年ほどの期間でさらに深く、社員の価値観や会社の理念をビジネスや企業活動の中でリアルに体感して落とし込まれるので、“誇れる会社”に移行するのではと思います」

会社の徹底した拘りで会社が自分事になる?

サントリーほどの巨大な組織に属する社員の実態として、会社との距離はどのように感じているのか?ここで頂いた回答が「会社の拘りについて」で今回の取材で最も驚いた。

「会社の理念や価値観を社員が体現することが大切だと思っています。その中でも会社の拘りが良く分かる事例が、「天然水の森」で実施される森林整備体験研修です。サントリーが提唱している「自然との共生」の価値観を社員ひとりひとりが自ら体感、理解することを目的に3年ほどの時間を使って全社員が森林整備体験を経験しました。当然、新卒・経験入社の社員にも必ず体験してもらっています。会社の理念や価値観を体感することではじめて社員が会社を自分事に出来るのかもしれません。」

サントリー天然水の森(写真提供:サントリー)
サントリー天然水の森(写真提供:サントリー)

社員へのリスペクト、個を活かす、ひとりひとりを大切に

就活でサントリーに興味を持って企業研究をすると社会貢献やダイバーシティの厚みに魅力を感じる学生は多い。実際の取り組みに加えてダイバーシティに関しての考え方まで聞いてみた。

「サントリーが今後成長していく為には、ダイバーシティ&インクルージョンは不可欠だと考えています。多様な仲間が集まり、それぞれの考えをぶつけあうことで、新しいものがうまれる。違いを面白いと思える会社でありたいと思っています。」

LGBT施策

就業規則における配偶者の定義に『同姓パートナー』を加える制度改定、性別に関係なく誰でも自由に使えるよう、多目的トイレマークの表示切りかえを実施するなど実際にアクションを継続しています。そして理解者を増やすための啓発活動にも踏み込んでいます。

障がい者採用

2015年から知的障がいのある方の採用をスタートしています。オフィスクリーンや社内メール配送のサポートといった社内にある業務を少しずつ切り出していく中で、彼ら彼女らへお願いしたいという依頼業務がどんどん増え、サントリーグループ全体の業務サポート、そしてダイバーシティ&インクルージョンに貢献しています。仕事の成果や価値発揮だけではなく、周囲の社員を前向きな空気に変えてくれるという素晴らしい効果も得られています。

女性の活躍推進

家庭と仕事の両立支援に関する制度・仕組みはとても手厚く、育児休職からの復職率は100%と、仕事復帰することが当たり前になっていると感じます。現在は、両立以外にも様々な活動を行っており、例えば女性リーダーの有志による活動では、キャリア自律を目的とした部署紹介フォーラム「BUSHOFO」を開催。グループにどんな部署が、どんな仕事があるのかを知るイベントとして、文化祭のような賑やかな雰囲気で開催しています。

テレワーク

時間と場所の制約を取り払い、よりフレキシブルな働き方を目指して、2010年には、フレックス勤務のコアタイム原則廃止・対象範囲拡大、テレワーク勤務の対象範囲拡大・10分単位での利用を可能としました。現在は社員の約8割がテレワークを活用しています。特に来年の東京オリンピック開催時期には効果的な施策だと期待しています。

グローバルダイバーシティ

海外グループ会社と協働しながら、世界で愛される商品を届けることにも挑戦しています。日本ならではの魅力を持った“ジン”をつくるというコンセプトから、サントリースピリッツ株式会社とビームサントリー社が互いの知見を活かし共同で商品開発を行った「ROKU(ロク)」は、様々な価値観や知見・考え方があったからこそ、世界のお客様に愛される商品になったのではと思います。

日本ならではの魅力を感じるジン=ROKU(ロク) 写真提供:サントリー
日本ならではの魅力を感じるジン=ROKU(ロク) 写真提供:サントリー

人気企業の実態は辞めてもサントリー

今回の取材では就職、転職市場で人気企業の常連とも言えるサントリーの内情・実態に迫った。

正直、入社前は世の中の評価と同じく人気企業というブランドを意識はしているものの、入社する前に社員の価値観を理解することで「良い会社」に変化をする。そして入社をして理念体系を実体験として理解をして、社会貢献などの企業活動を知ることで「誇れる会社」になっているようだ。

会社が社員と向き合うことに徹底的な姿勢を形として見せていることもあり、社員は会社に恩返しをしたいという想いが募っている。結果、社外にも波及効果として徹底したサービス展開に拘ることで、良い会社=人気企業になっている。

さらには定年退職した社員にサントリー製品の記念品が贈られたり、食事会が開催されるなど会社と社員の関係が深く退職した後でもサントリーの社員である誇りを保っているという。会社が自分事になり誇れる会社になるからこそ、その声が世間の人気企業となるのだと取材を通じて感じ取れた。

最後に..

これから就職活動をする学生は「人気企業」という情報だけで判断をするのではなく、なぜ?その企業が人気なのかを表面だけでなく立体的にリサーチすることをお勧めしたい。

中でもどんな企業にも存在する「理念」においては、理念の裏側にあるリアルまで突き詰めることで本当に世間の評価と合っているかが分かるはず。そして人気よりも、自分が誇れる会社かどうかの見極めが出来る。

インターンシップや様々な企業との接点で企業を立体的に把握することに努力して欲しい。

はたらくを楽しもう。

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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