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ごく普通のドイツ女子が サッカー日本代表にどっぷりハマったワケ

デュッセルドルフ在住の学生フィービー・キーンズさん/筆者撮影

9月11日、ドイツ出張中だった筆者はケルン中央駅で彼女の姿を見かけた。前々日にヴォルフスブルグで日本-ドイツの親善試合が行われ、4-1で日本が勝っていた。

吸い寄せられるようにその姿を追いかけた。筆者自身の見た目のキモさは十二分に自覚しているが、それでも話しかけた。

その姿を見て本当に驚いた。

何せ、駅構内のスーパーマーケットにJAPANと書いたシャツを着た、若い、ドイツ人と思しき女性がいるのだ。

個人的な話になるが、18年前にドイツで暮らしたことがある。06年の同国でのW杯前のことだ。当時、困ったことが一つあった。日本メディアからの依頼内容だ。「現地で日本代表はどう見られてますか?」。慣れないドイツ語でのサッカー記事を読み込んでも、ほとんど言及がなかった。現地10部リーグのチームでプレーしたりもしたが、周囲の反応は「日本ってW杯に出るの?」だった。はっきり言って無関心だった。

彼女の姿を見るに、時の流れを感じざるを得なかった。

「昨日のドイツー日本戦、見ましたか?」と英語で話しかけた。「もしよければWhatsAppでゆっくり話を聞かせてもらえませんか?」と言うと、「LINEもあります」という。

フィービー・キーンズさんはデュッセルドルフで言語学を学ぶ21歳。「地元の日本人街のラーメン屋でバイトをしています」と言う。彼女に日本代表選手たちへの思いを聞いた。

筆者撮影
筆者撮影

チーズケーキがきっかけ

それは2年前のことでした。ドイツの地元にあるカフェにたまたま板倉滉選手がいたんです。

彼と少しおしゃべりすると、とても面白くて。私が『チーズケーキが好き』と話すと、彼はとても嬉しそうに彼自身のお気に入りのチーズケーキ店について話してくれたんです。楽しい時間だと感じました。

私自身、それまではサッカーどころか、スポーツにもまったく関心がありませんでした。でも彼と話した後、時々シャルケ(当時の彼の所属クラブ)の試合を見るようになって… それが私にとってサッカーを知っていくきっかけにもなったのです。

シャルケ時代の板倉滉。2021-22シーズンにプレー
シャルケ時代の板倉滉。2021-22シーズンにプレー写真:ロイター/アフロ

そこから、もともといた日本の友達に日本のチームについてもっとたくさんのことを教わりました。さらにその後(カタールW杯の前にあった)アメリカ戦(2022年9月23日@デュッセルドルフ)、エクアドル戦(27日同)を観に行ったら…あっという間に心と魂が奪われてしまいました。

明らかに選手たちの体つきがカッコよかった。顔もカッコいいです。そして素人目に見てもサッカーがとても上手だと感じましたし。

昨年9月22日の日本-アメリカ戦は彼女の地元デュッセルドルフで行われた
昨年9月22日の日本-アメリカ戦は彼女の地元デュッセルドルフで行われた写真:ロイター/アフロ

何より日本の選手たちはおだやかで優しいんですよ。日本の教育が影響しているのかもしれませんね。ピッチではサッカーの実力があって、カッコよくて、魅力的な男性なんてそう多くはないと思います。

デュッセルドルフでの出来事

日本の選手たちとの特別な瞬間はたくさんあります。時折、それをとても温かい感情とともに思い出すんです。

板倉選手とは多く顔を合わせるわけではありませんが、最近、彼の練習を見にメンヒェングラートバッハに行ったとき、彼はすぐに私のことを分かってくれて少し話してくれました。とても驚きました。

板倉は22-23シーズンよりメンヒェングラートバッハに移籍
板倉は22-23シーズンよりメンヒェングラートバッハに移籍写真:ロイター/アフロ

また、昨年のアメリカ戦(@デュッセルドルフ)後に駅で遠藤(航)選手と伊藤(洋輝)選手に会いました。彼らは、私がふたりを認識したことに驚いて、喜んで写真を撮ってくれ、彼らの電車が来るまで私に質問してくれました。日本の選手たちは私のような人たちをファンとしてではなく、友達として扱ってくれているようにも感じます。

田中選手は私の街のクラブ(デュッセルドルフ)でプレイしているので、日常的な活動で時々彼を見かけます。

もちろん、彼のプライベートを邪魔したくはありません。ただ、忘れられない瞬間もありました。デュッセルドルフ市内で、彼と彼の母親が車で私と友達の前を通り過ぎたんです。私たちが彼に気づいたと分かったとき、嬉しそうにしてくれました。その時の表情がとてもキュートで…忘れられません。

なぜ好きなの? カッコいいうえに…

去年のカタールW杯と9日のヴォルフスブルクでの対戦。2つのドイツ-日本戦がありました。私はどちらとも日本を応援していました。ドイツが私の故郷であるのは確かですが、小学校の頃に近所のチームを応援したこと以外は、サッカーのチームに何か心が動いたことがありません。ドイツ代表についてはチームとしてうまく働いていないように見えるので、彼らと一体感を感じるのはすごく難しいです。

確かに私がこうやって日本代表を応援する姿に、ドイツにいる周囲の友達は最初は驚いていました。でも今ではすごく楽しそうに私と一緒にサムライブルーを応援しています。このニックネームも惹きつけているのかもしれませんね! 

9月12日のトルコ戦が行われたベルギー・ゲンクにて
9月12日のトルコ戦が行われたベルギー・ゲンクにて

もちろん、全てのドイツの人たちがそうなわけではありません。それでも日本代表チームは今まで一番国際的なサポーターを獲得し、大いに尊敬を受けているのではないでしょうか。

何より、私がサムライブルーを応援するのは、日本に対する熱い気持ちだけでなく、現在最も強いチームであると個人的に考えているからです。

日本は森保監督とともにすぐに頂点に立つでしょう。攻撃にすごくいい選手がたくさんいて、簡単にゴールを決める姿にいつも驚かされます。新しいメンバーが加わることで、さらに強くなると確信しています。

来年のアジアカップで優勝してほしいです。そして、近いうちにワールドカップでまずはベスト4に入るよう、着実に成績を上げていってほしいですね。

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彼女が暮らすデュッセルドルフは、ヨーロッパ最大の日本人街のある場所でもある。そこで日本人選手にたまたま出くわし、そして応援を始めた。

さらに最近は定着しつつある日本開催の欧州での親善試合で一気に興味が拡がった。加えて彼女は日常にあるブンデスリーガでも日本人選手を目にすることができる。そんな「いい循環」が出来ているのだ。日本にいる我々が想像もしないようなかたちで。2023年のいま、とても大きな、良き転換期を見た思いだった。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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