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尹錫悦政権の対日関係への「本気度」か 「放流水は危険ではない」の韓国内広告に1億円

写真はリトアニア訪問前のポーランドでの首脳会談時のもの(写真:ロイター/アフロ)

尹錫悦大統領が「大胆な動き」に出ている。

12日にリトアニアで行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の席で日本の岸田文雄首相と会談。東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出に関し議論を交わす傍らで……。

韓国内で「福島の原発処理水の海洋放出が韓国にとって危険ではない」という内容をYouTube上で広告展開。これに税金から10億ウォン(約1億1000万円)を使うことが分かった。12日に「ハンギョレ新聞」がスクープとして報じている。

ちなみに韓国政府はすでに展開されているYouTube上の広告ではこういったメッセージを発信している。

「三重水素(放射性物質トリチウム)は土壌や野菜はもちろん空気にも存在する放射性物質で、摂取しても基準以下であれば人体にはほとんど影響がない」

「コーヒー1杯を飲んでも、ミルク1杯を飲んでも、卵1個を食べても、それら全てには放射性物質が含まれているため(人体は)被ばくする。(汚染水が放出されれば)健康に問題が出てくるという心配は全くしなくていい」

すでに7月に韓国政府公式チャンネルで展開した内容を、8月に向けて大幅強化。YouTube、Facebook、Instagramなどで広告を推進すると記されている。広告の形式はビデオ、カードニュース、YouTubeチャンネルの協賛となるという。

原発処理水の安全検査の結果についてはここでは論じないが、13日には欧州連合(EU)が「それまでの日本とEU加盟国が行ってきた食品検査の結果が良好だった」として輸入規制を撤廃すると発表した流れがある。

韓国政府の広告の内容。YouTubeチャンネルよりキャプチャ
韓国政府の広告の内容。YouTubeチャンネルよりキャプチャ

韓国は日本の下請け国か?

そういった状況下での尹政権のこの動き、韓国内ではネット上でこんな意見が出ているという。

「韓国政府は福島の汚染水の放出が危険ではないと広告しているが、それは我が政府のやることなのか?」

さらに国内で激しく対立する左派野党陣営とすれば、格好の「かみつきどころ」だ。

ハンギョレ新聞が「広告予算10億ウォン」のスクープを報じた翌日(13日)、最大野党「共に民主党」の党首であり、先の大統領選で尹大統領に敗れた李在明氏が強い批判を行った。

「韓国政府が日本の核汚染水の安全性PRに10億ウォンの予算を注ぎ込むという。韓国がまるで日本の下請け国になったよう」

日本の味方をするのか、という趣旨だ。李氏は12日に行われた日韓首脳会談にも言及した。

「福島の核汚染水の不法投棄について、尹政権は共犯になるつもりのようだ。韓日首脳会談で国際原子力機関(IAEA)の発表を尊重すると言いつつ、事実上汚染水の不法投棄を許容した」

共に民主党は、9日にIAEAのグロシ事務局長と会い、先のIAEA報告書が多核種除去設備(ALPS)の性能確認を行っていない点を指摘し、報告書の結果に対して深い遺憾を示している。併せて代替案の検討と放流スケジュールの延期を求めた。

「親日フレーム」ふたたび…

これらは、文在寅政権時代から多用してきた「親日フレーム」を担ぎ出して相手を批判できる。

「現在の国内右派の祖先は親日派。日本統治下の時代に日本側と結託し、当時の朝鮮人に対して暴力や搾取を行った」

「日本からの解放後も既得権益を握り、甘い汁を吸ってきた」

「軍国主義日本の味方をした勢力は社会から排除すべきだ」

そして

「右派陣営は日本の味方をするのか?」

こういったロジックから、同じく左派政権だった盧武鉉政権時代の2005年1月27日には「日帝強占下反民族行為真相糾明に関する特別法」が施行された。また文政権時代には「積弊(社会に積もったちり)清算」というキャンペーンが展開された。「ちり=日本の味方をしてきた」層を排除してこそ、正しい韓国社会がスタートするのだと。

尹政権の覚悟の証か

批判の影響もあり、この7月の韓国内での尹政権の支持率は少し下がっている。「韓国ギャラップ」が14日に発表した7月第2週の調査結果(7月11~13日)は「支持率32%」。同第1週の調査時よりも6ポイントダウンとなっている。「支持しない(否定的評価)」の理由のうち1位は「福島汚染水放流問題」で14%がこれを挙げた。

この状況にあって、尹政権はむしろ「アクセルを踏んだ」。SNS広告に対する批判についてはこう答えている。

「汚染水の放出は我々の政府の政策ではない。しかし、福島の汚染水放出が実施されるとの前提において、科学的事実に基づいた客観的な解説をするための広告だ」

「安全基準を満たしていれば汚染水の放出が我々の国に対して危険をもたらすことはないとする内容だけではなく、水産物の安全管理という我々の政府の政策についても解説している。これは、韓国の水産物が安全であるという事実を科学に基づいて正確に伝えるためのものだ」

あくまで韓国にとっての問題、と返した。尹錫悦政権での日本に関する政策は、つねに「親日フレーム」に晒されるリスクを伴う。これを甘受して進行している、という点は日本にももっと伝わってよいニュースだ。以下の写真のように「親日売国奴退陣」というステッカーを地下鉄駅に貼られたりする。鼻下の髭は、韓国では「いかにも日本軍国主義のお偉方」というイメージなのだという。

筆者撮影
筆者撮影

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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