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「今夜 雪が降るみたい」 KARAの名曲を手掛けた磯貝サイモンが語る制作秘話 "主人公の女性は…"

1月24日、東京に初雪の予報が出た。

今夜 雪が降るみたい――

まさにこのフレーズから始まる名曲がある。昨年活動を再開したKARAの日本での楽曲「ウインターマジック」だ。2011年10月19日にリリースされた。

他のK-POPグループが歌う楽曲とはちょっと違った魅力がある。個人的にずっとそんなことを感じてきた。理由がはっきりとある。12年前の当時「KARAを日本の市場でしっかり売っていくために」あえてJ-POPの感性の楽曲を発表するという意図もあったのだという。その流れのなかで生まれた楽曲だ。今は「韓国の楽曲がそのまま来る」ことが主流だ。

雪が降る日に好きな人を待つ女性の繊細な心情を綴る。この楽曲を制作したのは…じつのところ男性。女性アーティストへの楽曲提供に定評があるシンガーソングライター、磯貝サイモン。2011年4月6日発売の「今、贈りたいありがとう」に続きKARAの楽曲制作のオファーを受けた。

何を思ってこの名曲を作り上げたのか。「東京で雪が降る日」を念頭に置いてインタビューを仕込んでおいた(!)。

磯貝サイモン
磯貝サイモン

「かじかんだ手こすりながら…」情景描写は心理描写のために

Q:まずは「今夜雪が降るみたい」からグッときます。最初のフレーズから好きな男の人を待っている女性の心理描写にぐっと入っていけますね。

磯貝:「最初の2行でどんな曲なのかが見えるように歌詞を書く」。ここはいつも大切にしています。「今夜雪が降るみたい」「あたたかくしてきてね」という2行は、直接言葉では説明していなくとも、登場人物は2人、一方が相手を待っているという基本設定、2人の関係性がなんとなく分かる2行になっていますよね。その後「かじかんだ手こすりながら空を見上げてる」という1行でさらに想像が広がっていく。冒頭部分だけで曲の世界観がイメージできて、徐々に歌詞が染み込んでいくような作品作りを心がけています。

Q:歌詞を染み込ませる。

磯貝:読み込んでいくうちにだんだん理解が深まるタイプの歌詞でも面白いものはたくさんありますが、この曲に関してはやはり染み込む速度の即効性を追求してみました。まさにこの曲のような"雪のように染み込んでいくような"歌詞を目指しました。

Q:この後「かじかんだ手こすりながら空を見上げてる」「永遠誓ったのもちょうどこんな季節だったね」「ふたりの愛が今年も降り積もりますように」と続いていきます。このうち「かじかんだ手~」だけが情景描写で、あとはすべて心理描写になっていますね。ひとつだけ情景描写が入っている点が、すごく効いていると感じるんです。一歩引いた視線を記すことで、この女性の姿がより浮かび上がってくるというか。

磯貝:僕は情景描写をあまり入れないことが多いかもしれないですね。せっかく情景描写するならしっかり意味を持たせて入れます。例えば「かじかんだ手をこすりながら空を見上げてる」というのは情景描写ですが、主人公の心理描写とリンクしている。かじかんだ手をこすりながら、ただぼけっと空を見上げているだけではなく、相手を心から待ちわびているんです。

Q:そうですよね。

磯貝:その言葉のさらに奥を表現できるような情景描写が出来るように常に心がけています。情景描写なんだけれども、それは心理描写にもなっていっている。その後の「息を切らして駆け寄るきみ」というのも一見は情景描写ですけれども……。

Q:心理描写につながっている。

磯貝:はい。感情とストーリーがうまくリンクするように書きました。そして、音楽はあくまでもメロディーがあって、文字数や音節数みたいなものも考えて書かなくてはなりません。文字数だけが合っていればいいわけではなく、メロディーの響きと言葉の響きが、心地よいハーモニーを生み出していくこともとても大切だと思っています。言葉のイントネーションもすごく大事にします。

さらに文字数だけが合っていればいいわけじゃなくて、メロディーの響きと日本語の言葉の響きが、やっぱり合っていることがすごく重要だったりするものなんです。言葉のイントネーションもすごく大事にします。

Q:この次の「繋がった瞬間染み込む温度」というのが、本当に"瞬間"がじっくりと描かれています。ここは男女ともに共感できるパートですよね。女性はもちろん、おじさんファンも「そんな時代があったよな~」と!

磯貝:おじさんまでは意識してませんでした(笑)!ストーリー展開のスピード感も重要ですよね。例えば10秒間でメロディーの数はいくつあるのか、どのくらい文字数が入るのかは、曲によって違います。そういったなかで「このくらいのスピードでストーリーが展開していってほしい」という、自分の中でのちょうどいい体感速度があるんです。ドラマや映画、小説などでも一緒だと思うんですけれども、あまりに展開が早過ぎると理解しにくいし、あまりに遅くても、かったるくなるじゃないですか。ちょうどいいスピード感というのは音楽の歌詞にもあって、それはいつも気を付けています。

ドラマなどでも一緒だと思うんですけれども、あまりに展開が早過ぎると理解できなかったりするんです。逆にあまり遅くても、だるく、かったるくなるじゃないですか。飽きてきちゃうというか。ちょうどいいスピード感というのは、やっぱり音楽の歌詞にもあって、それを重要視しながら、歌詞を考えています。

実際に楽曲では「息を切らして駆け寄るきみ」として、相手の男性が現れるまでに1分12秒が使われる。二人の関係性を説明した後に、女性側の思いが綴られ、「相手登場」となるのだ。その後サビで「ずっと一緒にいて」という強い相手への強い想いが弾けていく。

UNIVERSAL MUSIC
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2番の歌詞で主人公がちょっと「めんどくさくなる」理由

Q:楽曲はその後、2番の歌詞へと続いていきます。「明日また会えるよね1人にしないでね」。主人公が冷静になっているようにも見えます。これもまたスピード感ですね。

磯貝:1番の内容があるからこその対比を描けますよね。2番では、一度突き放してみようかなと思ったんです。女性アーティストに楽曲提供させていただくことが多い僕ですが、出てくる主人公はやたらと寂しがる女性が多いんです…僕の勝手な女性像かもしれませんが(笑)。「明日また会えるよね」というフレーズや、その後の「どんな遠い星よりも遠く感じる夜」というフレーズにもその女性像が色濃く登場してきます。なかなかロマンチックなフレーズで今でも気に入っています。

Q:さらに2番のサビでは「どんな小さいことも全部知りたいよ」という歌詞があります。他の部分は相手を思いやる深い愛を歌っているのですが、ここらあたりで強い独占欲のようなものが見え隠れします。

磯貝:はい。男性視点的にはいわゆる「めんどくせー」となる心理です(笑)。2番の歌詞ではその他にも「だからもうちょっとだけ待つよ」とも。ちょっと押し付けがましい、というか。

Q:おおっ作った御本人がおっしゃるのならありがたい。男性心理からすると現実社会でこれを聞くとちょっとめんどくさいし、重いでしょう。

磯貝:もちろんKARAのキャラクターイメージや、KARAの音楽を聴く方々のことも意識した言葉選びをしています。ティーンズの女の子が”憧れ”を抱くような恋愛を描いたつもりです。あわよくば「まるで自分のことを歌っているみたい」なんて思ってもらえたりしたらいいなと。そうでなくても、この曲を聴くと「あの時の冬を思い出すなあ」なんてきっかけになれたらいいなと。リスナーがその楽曲を自分に投影して聴くというのが、音楽の1つの醍醐味(だいごみ)でもあるので、そういったことが叶えばいいなと思って歌詞を書いた側面もあります。

Q:いっぽうで「繋がった瞬間 染み込む温度」はグッとくるんですよね。ベクトルがこっちに向きすぎてない。このおじさん目線の方がよっぽどめんどくさいですよね。何が言いたいのかというと、女性からすると、自分の気持ちを代弁してくれているし、男性からすると「こう言われてみたいなぁ」という内容が含まれている。やっぱり双方が楽しめることを意識したんじゃ…しつこいですが、読みすぎですか?

磯貝:あはは。いま、話をしていて思い出すのは「繋がった瞬間 染み込む温度」の後に来るサビの歌詞の方が大変だった記憶です。

Q:大変だった?

磯貝:はい。英語と日本語が代わる代わるやってくるんですが、日本語の方を迷いましたね。どういう言葉を最終的に選ぶのがこの曲にとっての正解かというのは、結構いろんなバージョンを書いた記憶があります。

Q:その後、もう一度サビが来て、そして最後に大サビの「胸の奥に広がる愛が」へと続いていきます。

磯貝:冬から春に、一気につながる部分ですよね。ここは実は、後から書いた部分なんです。当初の予定では無かった。やっぱりこれがあって良かったと思っています。曲の広がりが出来たと思っています。一気に冬から春へ向かうスピード感が、音楽と言葉の融合で美しく表現出来たのではないかと。いっぽう、最後に「愛してる」という言葉を入れるかどうかは迷いました。でもやっぱり、言ってあげたいなと(笑)。

Q:言ってくれてありがとうございます! ここを言うために、逆算して制作したのかと思っていました。くっついたり離れたり、感情を爆発させたり、1人で星を眺めたりして、いろいろ展開しながら、最後に「愛してる」と。結論を先に決めていたのではないかと。

磯貝:逆にゴールは決まっていなかったですね。シンプルな言葉であればあるほど、書くかどうか迷うところはありますね。ここぞって時に使おう!と常に出し惜しみしているイメージです(笑)。歌詞のゴールは、書き進めていって徐々に見つけていくことがほとんどです。テーマだけ決めて無計画に書き始めることが多いですね。

Q:結局、冬の魔法=ウインターマジックとは何だったのか。そういうことも思います。聞くのも野暮ですが、発表後12年が経ったということでお聞きしたいです。

磯貝:そうですね…僕も登場人物の2人の本当の結末は分かりませんが(笑)、この曲を聞いた後、皆さんの当時の青春や思い出と共に残る余韻があるなら、それがウィンターマジックということで許してください(笑)。それは美しい思い出なのかもしれないし、悲しい傷跡なのかもしれない。いずれにせよ、その余韻を楽しんでほしいです。「おじさんにもこんな時代があったなあ」と感じてください(笑)。

UNIVERSAL MUSIC
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この曲の主人公はもしかして…

最後に個人的にすごく聞いてみたかった点を聞いた。当時28歳だった、男性たる磯貝サイモン氏がどうやってこんな繊細な女性心理を描いたのか。ターゲットの心情を読み解く。そしてかたちにする。これはあらゆるものづくりに繋がるものだと思うからだ。

Q:ご自身でもこの歌を歌われることは?

磯貝:僕のファンからも「ウィンターマジックを歌ってほしい」といった声をいただきますね。特に冬の季節には。新型コロナの時代がやってきて、この3年間はオンラインライブもたくさんやってきましたが、配信のチャット上でも「歌ってほしい」とリクエストが多い曲です。そこで改めて歌詞を読み返してみたら、めちゃくちゃ女の子らしい曲ですね。

Q:そこが今回、すごく聞きたかったところです。女性の気持ちを表現する感性を、日常からどう磨いていたのか。この楽曲を男性が書いたということが、本当に格好いいなと思うんです。

磯貝:僕もそのメカニズムは自分でも分かってはいないんですが(笑)、もともと自分が女性シンガーソングライターがすごい好きで、aikoさんや矢井田瞳さんなど子供の頃からよく聴いていて、そういうところから女性目線のインスピレーションを知らず知らずのうちに積み上げてきたものがあると思います。

女性アーティストへの楽曲提供だと自分と切り離して書けるというのも大きな理由でしょう。男性アーティストへの提供となると、なにかにつけて自分と結び付けてしまうというか。「いや自分だったらこんなこと思わないよな」とかつい考えてしまうんですよね。でも女性目線の歌詞の場合は、いっそ別人になってズバズバと書けてしまうんです。

Q:TWICEの「TT」を作詞作曲したのも韓国の「おじさん」作曲家です。彼を取材した際は「自分の会社の若者との会話からヒントを得る」と言っていました。小林亜星さんは「少女の曲を書く時は、自分が少女になり切って」いたんだとか。

磯貝:興味深いですね。ただ僕の場合は完全に想像ですかね?少女になることは今のところありません(笑)。逆に完全に切り離して書けるからこそ抵抗なく書けるというか。あるいは僕の中に、ある1人の固定の女性像みたいなものが存在するのかもしれないですね。これまで僕が提供してきた女性アーティストへの歌詞をすべて繋げてみると、どうやらその主人公はおおよそ1人っぽくって。もちろん様々なタイプの楽曲があるので、例外はあるとは思いますが

Q:じゃあ、磯貝サイモン楽曲をつないでいくと、その像が浮かび上がって…

磯貝:見えるかもしれないですね。

Q:それはもしかして「今、贈りたい『ありがとう』」と同じ人かもしれないという…。

磯貝:そうかもしれません(笑)。ぜひ皆さんにもこれまで僕が色々なアーティストに提供してきた他の楽曲も聴いていただきたいですね。そういった視点で。研究結果をまた教えて下さい(笑)。

(了)

磯貝サイモン

1983年9月20日生まれ。神奈川県相模原市出身(幼少時代を北海道釧路市で過ごす)。

シンガーソングライター。名前は本名。父親がサイモン&ガーファンクルの大ファンで名づけられた。2006年メジャーデビュー。アルペンCMソングとなったデビュー曲「君はゆける」は、全国のラジオ30局以上のパワープレイを獲得。

優しさと力強さがかわるがわる顔を見せるような二面性を持つ歌声は、特に弾き語りライブにおいて定評がある。ギターやピアノ以外にも、レコーディングではドラムやベースも演奏し、時々ライブでも披露される。

2016年、デビュー10周年を迎え、渋谷TSUTAYA O-EASTで10周年記念ライブを開催。ゲストには寺岡呼人、椎名慶治、K、山村隆太&阪井一生(flumpool)が登場、そしてシークレットゲストで岩沢厚治(ゆず)がお祝いに駆けつけた。

名古屋メ~テレ公式キャラクター”ウルフィ”テーマソングを2014年より歌う。

自身の音楽活動に加え、楽曲提供やプロデュースなども行っている。特に女性アーティストに提供する女性視線での歌詞は人気が高い。様々なバンド・アーティストのツアーサポートも務める。本人が語る夢は「死ぬまで歌い続けること」。

<おもな楽曲提供>

KARA「今、贈りたい『ありがとう』」「ウィンターマジック」「バイバイ ハッピーデイズ!」(作詞・作曲)

嵐「秘密」(作詞・作曲)

JUJU 「STAYIN' ALIVE」(作詞)

CHEMISTRY 「サイレント・ナイト」(共作詞・共作曲)

ナオト・インティライミ「ナイテタッテ」「LIFE」(共作詞)

Kylee「CRAZY FOR YOU」(作詞・作曲)

NHKみんなのうた「はんぶんおとな」(作曲・編曲)

<おもなツアーサポート・アレンジャー・プレイヤー参加>

ゆず、flumpool、大塚愛、Skoop On Somebody、レキシ、椎名慶治、My Little Lover、KANなど

「ウインターマジック」歌詞(Uta-Net)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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