Yahoo!ニュース

【カタールW杯】日韓ともにベスト16 韓国では"喜び一色" 何がどう違う?

(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

カタールW杯で日韓両国は同じく「ベスト16」という結果を残した。

しかし両国の雰囲気は少し違う。

日本では「目標のベスト8が果たせず残念」という雰囲気もかなりあるが、韓国では"喜び一色"の雰囲気なのだ。

"1000人のファンが仁川空港に出迎え"

"代表チーム一行が尹錫悦大統領によるディナーに招待される"

"ポルトガル戦で決勝ゴールを挙げたファン・ヒチャンがGUCCIの韓国国内広告に起用される"

ネット掲示板では「ベンボジ」なる言葉も流行している。W杯で監督を務めたパウロ・「ベント」と父を意味する「アボジ」を足した言葉だ。ラウンド16で対戦したブラジルとの実力差は明らかで、1-4の完敗はむしろスッキリした、という見方もある。

「H組を勝ち上がるなら2位通過の可能性が高い、と見ていたなかでG組1位はブラジルになるという見方はあった。今大会、勝ち上がってもここまでだろうという予感を多くが持っていましたね」(韓国サッカー専門誌記者)

ラウンド16ブラジル戦時のソン・フンミン
ラウンド16ブラジル戦時のソン・フンミン写真:ロイター/アフロ

そして今大会の日本を「認める」という雰囲気。

「はっきり言って日本とは大きな差がついた」(15日、CBキム・ミンジェが所属のナポリのトルコキャンプ出国時に)

"日本が上に行ったのに、韓国も行かないとかなりマズい"という相手を意識する視点はかなりのものだった。しかし日本戦の内容までに細かい関心があるかというと、そうでもないといったところ。

いっぽうの日本は冒頭で記した通り、「残念」という空気もあるのではないか。日本サッカー協会の反町康治技術委員長も帰国会見で「満足ではない」と言っていたように。

本当のところの違いとは何なのか。少ししつこい「日韓比較」の分析を。

「なんだかんだで似た成績」の歴史は同じだが…

じつのところ今回の結果、「歴史は繰り返された」という面も強い。

「両国、なんだかんだでW杯本大会での結果は似る」

日韓両国が同時出場を始めた98年以降、ベスト16入りを果たす大会とグループステージ敗退で終わる大会がほぼ一致するのだ。唯一の例外が2018年ということになった。

筆者作成
筆者作成

いっぽうで厳密に見ていくと「日本が上回った」。

なぜならラウンド16でPK戦まで行き、韓国は90分負けだったからだ。公式記録ではPK戦は「ドローの試合について次のラウンドへの進出を決めるもの」という解釈だ。この前提で話を進めていこう。

日本にとっての「いい状態」とは何なのか?

そういった中で、日本の森保一監督の何が良かったのか。

日韓比較の枠で見るとそれは「変化」だ。大会期間中にチームに変化を与え、鮮度を保ち続けたということ。

初戦のドイツ戦前半で「手も足も出ない」という状況になり、テストした時間が短かかった3バックを採用。これが奏功し、後の快進撃に繋がった。

さらに言うと変化せざるを得ないそれまでの「危機」も決して悪いものでもなかった。2019年11月のベネズエラ戦の0-4の敗北から世論が悪化した。その後、アジア最終予選で2敗。さらに2022年6月のチュニジア戦での枠内シュートゼロでの0-3の敗北、また直前の親善試合でもカナダ相手に1-2で敗れた。追い込まれていたからこその変化だったのではないか。ホントに本当に絵に描いたような結果論だが。

なぜ変化が重要なのか。

この「変化」の差によって、日本はW杯本大会で韓国の後塵を拝してきたからだ。詳細は後述するが、韓国はパウロ・ベント監督以前は一度も「代表監督が4年間を勤めきった」という歴史がなかった。2014年W杯前など、じつに3人の監督が指揮を執るという事態に陥った。ほとんどの大会で「監督が本大会1年前に就任」。監督と協会が揉め、メディアが騒ぎ立てる。そんな"ひどい状態からまくしあげる"という形で日本の成績を上回ってきた。

結局はそういった「変化」こそが、東アジアの2国にはよい結果をもたらしてきた。ジンクスではない。

言い換えるなら、日本は「アジアカップなどで早めにピークを作って、守りに入った結果、失敗してきた」ということ。ジーコの時も、ザッケローニの時もそうだった。別表のとおりだ。さらに直前の劇的な戦術変更(10年)や監督解任(18年)などが結果が良い。2018年に至っては「韓国よりも監督解任時期がより本大会に近かった」という事情の下、初めて韓国の成績を明確に上回っている。

まあ、本当に慌てているのか、余裕を残しての判断だったのかは別としてだ。カタールでの各試合後の森保監督の「ひきつりながら笑う」といった表情を見ると「本当に追い込まれていた」と見るほうが正しそうだが。

ただ、ここ20年の日韓サッカー史で「本気で慌てそうな状況でも落ち着いていた」のは02年のフース・ヒディンクだけだが。01年夏にフランス、チェコに2度0-5の大敗、02年1月にはキューバと引き分ける失態を経ながらも、本大会6ヶ月前から綿密なフィジカルトレーニングを組んだ。大会直前に全員と個別面談を行い「おまえの数値は欧州選手と変わらない」と吹きかけ、選手はそこで初めて自信を持ったという。余談が過ぎた。余裕をもって変化を加えられる監督が出てきたら、それこそが日韓両国にとっての名将だ。

韓国は「いい」=「いい」

一方で韓国のパウロ・ベントが良かった点は「安定」。日本と正反対だ。

韓国は今大会の結果により、ベスト16に入った大会(02年W杯以外)はすべてこういった流れになった。

「安定がよりよい結果を生む」。

今大会で2度めの自国開催以外でのベスト16を達成し、この傾向が"完成"しようとしている。下記表ピンク色の部分だ。前述した「火事場の馬鹿力」とは別の傾向がよい。そういった点が明らかになったのだ。

筆者作成
筆者作成

パウロ・ベント監督が順調だった点は上記で記した通り。のみならず、2010年にホ・ジョンム監督の下でベスト16入りを果たした際にもアジア予選を無敗で突破した。しかもこの際には本大会で「アルゼンチンに敗れても、ナイジェリアとギリシャ相手に1勝1敗で2位突破」という星勘定までピッタリと当たっての結果だった。今思えばとんでもなく安定していた。

と、いうのもそれまでの韓国は、変化(監督交代など。時にネネガティブにも作用する事象)がよいパワーを生み出し、いわゆる「火事場の馬鹿力」で日本を上回る結果を残してきたのだ。たとえグループリーグ敗退で終わっても。06年にディック・アドフォカート監督が大会1年前に就任、14年は4年間でじつに3人が指揮を執るという大混乱があった。それでも前者では勝ち点で日本を上回り、後者では総得点数で上回った。

ブラジルW杯ではハリルホジッチ監督率いるアルジェリアに2-4の惨敗。それでも日本の結果を上回った
ブラジルW杯ではハリルホジッチ監督率いるアルジェリアに2-4の惨敗。それでも日本の結果を上回った写真:Action Images/アフロ

韓国の視点で見ると、"ヒドくとも日本を上回っていた"。それほどに自力があったとも言えるし、あるいは本番での強さを発揮していたとも言える。

しかし今回は"いい状態"だったはずなのに、それでも日本を上回れなかった。歴史の解釈が書き換えられようとしている。2010年代以降「変化をパワーとして日本を上回ってきた」のだが、それは「ズルズルとやっているうちに日本が追いついてきた」ということになってきているのだ。韓国側の危機感はごもっともで、間違いなく日本が実力的に優位に立ち始めている。

ただし「安定していた=良い状態だった」今回の韓国とて「大会直前もしくは大会中の変化」は必須だった。

第2戦、ガーナ戦でのFWチョ・キュソンとMFイ・ガンインの台頭。それぞれ大会前はそれほど期待値の高い選手ではなかったが、彼らがそれまでレギュラーだったクォン・チャンフン、イ・ジェソン、ファン・ウィジョらを脅かすほどの活躍を見せたことでチームが勢いづいた。これがなければ早晩に「終わっていた」だろう。

この「変化」こそがここで一番言いたい話だ。

短い日程のなかで4試合、5試合あるいはそれ以上を戦うには大会直前、あるいは大会中の「変化」が必須条件なのだ。

日韓ともにW杯本大会で「何試合戦うのか」という展望の経験値が、欧州・南米の強豪より明らかに劣る。ちなみにブラジルは「どんな大会でも最初から決勝戦を想像して戦う」そうだ。

24年間で東アジアの2カ国が得た重要な教訓。出場して、夢見て、それだけでアップアップという時代は終わった。今大会はそういった位置づけになるだろう。

今後は「アジアからの出場枠拡大」どうすべき? 

では、今後はどうあるべきなのか。次回の2026年大会から、ワールドカップ本大会は48か国出場体制となり、アジアからの出場枠も最大8にまで広がる。

今後、こと日本に関していえば「アジア予選ではビリだろうがなんだろうが出場権獲得」。それを逃さない範囲で「いろんなことを試しまくる」というくらいがちょうど良いのではないか。

その間の批判大いにあり、ということだ。日本の場合、ぶっ叩かれまくって、焦るくらいがちょうどよい結果が出るのだ(ただし批判と誹謗中傷の違いにご注意を)。言い換えるならば、「変化を恐れずぶっ壊せるか」という点が試されているとも言える。これは韓国社会から見た日本社会全体の弱点でもある。

2019年12月、酷寒のなかで行われたE-1日韓戦@釜山。この頃はまだ森保監督は「ラージグループ」という言葉を繰り返し使っていた。
2019年12月、酷寒のなかで行われたE-1日韓戦@釜山。この頃はまだ森保監督は「ラージグループ」という言葉を繰り返し使っていた。写真:ロイター/アフロ

結局はカタール大会での森保ジャパンもそういうことだったのだが…。課題は「何をやってるのか分かりにくかった」ということだ。筆者自身も本当にイライラした。この間監督が言ってきた「ラージグループ(五輪代表も含め広い枠で選手を見ていく)」、2018年の就任時に口にした「遅攻と速攻の両方ができるチーム」という話はだいぶ分かりにくかった。「何がしたいのか分からない」という声を非常に多く聞いた。

いっぽう、日本から韓国を観るときの視点は「順調に行ってる方がヤバそうだな」という風に変わっていく。「韓国、本大会では帳尻合わせてくるだろうな」という見方は当たり前ではなくなっていくのだ。韓国では日韓のサッカーについてよく「安定性の日本、突発性の韓国」という表現がされるが、それぞれが逆のことをやったほうが良い、という点が興味深くもある。

日本にとっての目標はW杯でいい結果を残すことであって、韓国に勝つことでもなんでもない。それでも韓国を上回ることはとても楽しい。実際に上回り始めているし。こうやって見ることで、日本を別の視点から照らし出せるのではないか。そうも思うのだ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

吉崎エイジーニョの最近の記事