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徴用工問題「韓国政府が代わりに支払い」案 韓国内での反応 左派媒体「むしろ尹政権が解決を邪魔」

韓国の尹錫悦大統領。写真は今年9月のカナダ訪問時のもの(写真:ロイター/アフロ)

「韓国政府」

このワードが日本では26日にツイッターのトレンド入りした。

この話題からだ。

朝日新聞「韓国政府、日本企業に『賠償額と同額の寄付』要請」(中央日報)

25日に日韓両国の外務省の次官級会議が東京で行われた。いわゆる「徴用工問題」の解決方法として、韓国政府から提案が出た。同政府傘下の財団を通じて賠償金を肩代わり。日本企業にその金額と同等の寄付を求めるという方案だ。

これについての韓国の反応はどうだったのか。

反応は薄く…むしろ日本関連報道は「旅行ブーム」

さぞや韓国でも喧々諤々の議論が…と思いきや、これが「さっぱり」だ。

国内最大のポータルサイト「NAVER」では多くは報じられないし、26日と27日の韓国内主要紙社説にも掲載なし。もちろん1面トップということもない。それどころか同ポータルサイトが記事を掲載する全81媒体の「媒体別デイリーアクセスランキング」のベスト5に入った記事は1本だけだった。

賠償ではなく寄付? 朝日新聞「韓国、日本企業に強制徴用賠償額寄付を打診」 KBS光州放送 

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他の記事も韓国での報道内容は「日本メディアの引用」だった。

会議は次官級のものだったから、韓国からの同行取材記者もいない。そういった状況があるとはいえ「韓国人はどう思っているんだ?」という点を窺い知ることは簡単ではなかった。なにせほとんどの記事は「日本側でこう報じている」という点を伝えるものだったからだ。

むしろ25日から26日の両日での日本関連の報道は、コロナの水際対策が緩和された「日本旅行が流行り」という点のほうが目立った。「毎日経済」は「韓国からの海外旅行客の50%が日本に行っている」という点を報じ、また「28日から両国間を往来する船便も復活」「日本の地方都市との航空便も復活」といった話題も目立った。

「あきれる方案」と強い反発も

唯一「強い反応」を見せたのは、左派系メディア「オーマイニュース」のみ。

24日にこういったニュースを掲載した。

「あきれる日本メディア報道 尹錫悦政権、これはナシでしょう?」

「共同通信」の下記の記事を引用したものだ。

韓国財団、肩代わり案が軸 日韓、徴用工解決を本格協議

25日に行われた会談に先立っての報道だった。記事はこう論じている(要点を抜粋)。

「共同通信は『賠償金』という表現を使用した。謝罪と賠償を受けようとする被害者たちを慰める目的でこういった名目で支給する方案が両政府の間で考慮されているとも言える。しかし加害者である三菱や日本製鐵などが不法行為の責任を認めてはいない。こういった状況で法的な第3者である韓国の財団が賠償金名目で金銭を支給するといっても、加害者が不法行為の責任を認めたり、履行すると見ることは出来ない」

朝日新聞は翌25日に支払いの名目を「寄付」というニュアンス報じた。少なくとも韓国側にはこう伝わっているのだが、共同通信の報は「賠償金」と伝わっている。

そのカネの名目が何になるのか。この点が争点になるのは明らかだ。

いっぽう、誰がこれを払うのか。この点について「オーマイニュース」は過去の日韓合意との比較を行っている。

「この方案があきれるものだという点は、拙速合意だったという評価を受ける2015年の韓日慰安婦合意と比較しても感じることができる。慰安婦合意の時は慰労金が日本政府から出たものだった。ところが『共同通信』が(今回)報道した方法どおりであれば、韓国側が支払わなければならない。たとえ支払い名目を賠償金と定めたとしても、日本政府や日本企業から出た金銭でなければ2015年の慰安婦合意よりもよくない評価が下されるよりほかない」

さらにこれは日本側にとっても不利益なものだ、と示唆する。

「尹錫悦政権が経済徴用と関連しておかしな合意をするとなると、この先、日本側は延々とこの点を議論しなければならなくなる。被害者たちの声が大きくなる度に尹錫悦政権との合意を(再び)議論することは明らかだ。そういう意味でも韓国の財団が代わりに支払う方法には合意してはならない」

支持率の低下に苦しむ尹錫悦政権。韓国では左派による退陣要求デモが始まっている
支持率の低下に苦しむ尹錫悦政権。韓国では左派による退陣要求デモが始まっている写真:Lee Jae-Won/アフロ

では、韓国側はどうすべきなのか。記事ではこう綴られている。

「今、韓国政府がすべきは日本側が韓国人被害者と公平に対することできるようにすることだ。戦犯企業を後ろに置いて、韓国の財団が前に立つかたちで代わりに支払おうとすることは、韓国政府が先頭に立って問題解決を邪魔することになる」

今後、この案での両国間議論が進んでいくことになるだろうか。まだまだ国内世論全体は静かだが、少なくとも同記事はこの先の韓国での反対派の意見を予見していると言える。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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