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韓国も過去最大の感染者数 長引くコロナ禍での現地トレンドは? 意外にスゴいのは「ダルゴナ」

(写真:ロイター/アフロ)

日本と同じく、韓国でも新型コロナウィルスの感染が拡大している。2月2日の政府発表では前日1日に過去最多の2万270人の感染者が出た。

むしろ日本よりも「感染者が多い状態が長引いている」という印象だ。日本では「第5波から第6波の間」があった。東京では11月24日一日の感染者数が5人にまで減った時期があったのだが、韓国はそこまで減った時期がない。

最近では1月9日に最も少ない感染者を記録したが、それでも2999人。韓国政府は11月1日から行動規制を一部解除し「ウィズコロナ」を目指したが、12月18日にこれを諦め「再強化」に入った。例えば外食時に集まれる人数制限は「4人」。違反時には客のみならず、店側にも過料が科される。

1月のソウル
1月のソウル写真:ロイター/アフロ

家での時間が続く。

そういったなかでのトレンドは何なのか。これを知るにうってつけの書籍がある。

「トレンドコリア2022」。

毎年10月にその年を振り返りつつ、翌年の韓国社会のトレンドを予測する単行本。ソウル大学生活科学部のキム・ナンド教授らのグループが記す。2021年12月10日には韓国メディアで「9週連続売上1位、今年の最長記録更新」と報じられるほどの人気だ。

筆者撮影
筆者撮影

書籍では冒頭にその年の振り返りが記される。2021年の特徴として「コロナからのリベンジ消費」「トレーニングが当たり前の日々」などが挙げられたが、最もコロナ生活と密接したものは「レイヤードホーム」だった。

コロナ禍により家で過ごす時間が増える。これにより、家の機能がまるで「Photoshop」のレイヤー機能のように重なっていくという意味だ。

  • 第1のレイヤーは「住居」。既存の機能。シンプルにインテリアや家具の消費が伸びる、という予想。

  • 第2のレイヤーは「応用」。家がコンサート会場になったり、Netflixなどでドラマを鑑賞するシアターになったり、AIで仲間と集まったりする空間になる。

  • 第3のレイヤーは「拡張」。家の近所がデリバリー業の発展により、家の”圏内”となっていく。食べ物や生活必需品がすぐに配達されることがより日常化していくということだ。

これらにより、「人との関わりの多い外の社会」ではなく、プライベート空間たる家が新たな産業・トレンドの生まれる起点になっていく、という予想だ。

ダルゴナ、2021年からのトレンドを説明するモノとして

ただこれ、ちょっと観念的な話でもある。これを具体的に説明する「モノ」はなんだ。あれこれと考えていたところ…ある流行に関するデータを発見した。

「ダルゴナ」

かの世界的大ヒットドラマ「イカゲーム」で登場した。「砂糖と重曹を混ぜたものを熱し、飴を作り、型を取ってかわいらしく仕上げる」ものだ。これを正しく割れるか、という点がドラマのなかで生死をかけるゲームになった。

当地では1900年代前半から人気のお菓子だったという。「ダルゴナ」の語源は諸説あるが「ダル」は「甘い」を意味するため、これが変化したという点は想像に難くない。またソウル首都圏やその周辺では「ポッキ(型抜きの”抜き”)」とも呼ばれてきたため、イカゲーム原語版では「ダルゴナポッキ」として登場した。日本語では「カルメ焼き」という。

で、この何がすごいのかというと、韓国発の関連YouTubeの再生回数。これが、ハンパない。「家でやってみました」という動画が「ミリオン超級連発」なのだ。

217万

606万

960万

1906万

その他、90万回レベルが2本、60万回レベル、40万レベルがそれぞれ1本存在する。

ダルゴナで読む2021年、22年

さすが、世界的ドラマの影響というべきか。

いっぽうでこれ、先に記した「トレンドコリア2022」の内容のうち、3つの傾向に当てはまるものだ。

ひとつめは前述の「レイヤードホーム」。韓国では「OTT(Over The Top=雲の上という航空用語が由来)」と呼ばれるサブスクのドラマから始まった「ダルゴナブーム」だ。「劇場」で観た作品に登場したキットを取り寄せ、家族みんなで遊ぶ。家遊びからブームが生まれ、韓国では「ダルゴナキット」の売上がじつに717%増(「時事ニュース」2021年10月11日)になった。

ソウルの住宅街
ソウルの住宅街写真:ロイター/アフロ

ふたつめに、ダルゴナブームは2021年のトレンド傾向の振り返りのうち「Kフードの復興」にも当てはまる。

「キムチ、ビビンパが韓国フード1.0なら、2.0はラーメン、冷凍餃子、果汁入り焼酎、ローズトッポッキ(クリームソースなどを入れて味をマイルドにしたトッポッキ)などの台頭を意味する。言い換えるならば、辛さに頼るばかりではないもの。かつ気軽に作ったり、手に入れられるもの。これは韓国のみならず、世界でも人気を得ている」

ダルゴナはここにぴったりとハマってくるものだ。

2月3日のソウル駅前の様子 Kim Tae Seok撮影
2月3日のソウル駅前の様子 Kim Tae Seok撮影

最後に2022年のトレンド予測にも当てはまる部分がある。同書では今年を「TIGER or CAT(寅になるか、猫になるか)」という一年と予測する。変化をしなければならないが、変化にはピッタリのタイミングでもあるとも。

その上で、消費者の嗜好がより細かく個人ごとに分かれていく「ナノ社会」、価格の高いものよりレアものを買える能力が高く評価される「独テム(=独自のアイテム)力」、SNS上のいいね!がより消費に影響を与える「ライクコマース」などの特徴を挙げた。

このうち、ダルゴナブームはこの点と符合する。

「X(エックス)世代の回帰」

X世代とは「1965年から79年生まれ」であり、主に40代を指す。韓国や米国、日本などでは1990年代半ば〜2000年代生まれを「Z世代」と呼ぶから、その前の時代を「X」とするのだ。

  • X世代は文化的・経済的に豊かな10代を過ごし、現在は10代の自分の子どもたちとの感性を共有している。「若い40代」という意味でもある。

  • 近年、韓国では流行を作るのはその下の「MZ世代=90年代から2010年までに生まれたデジタルネイティブ世代」と言われてきた。

しかし同書籍では2022年をこの「X世代」に注目、と記している。なぜか。

「MZ世代の少し上にあり、『下の世代が流行ったものを定着させる役割』がある」

つまり、「ダルゴナキット」の事例でいうと、40代のお父さん・お母さんが10代前後の子どもたちと一緒に遊ぶ。そしてSNSに出来上がった写真をアップする。そうしたからこそ、流行が定着していった、というものだ。

写真:ロイター/アフロ

人気の背景には「SNS映え」「スリル」も

あれこれと長く記したが、そもそもは「ダルゴナ」自体の魅力があってこそのブームだ。

韓国スポーツ紙ライフ担当記者は「YouTubeのアクセス数は外国からのものもあるのでは」と言いつつ、韓国でのブームをこう説明する。

「ふんわり、こんがりと焼けたきつね色が、かわいい形に切り抜かれているダルゴナは、なにせ完成した際の写真写りがいい。お母さんも子どももSNSにアップできる楽しさも人気の要因です。型抜きどおりに割る時、上手くいくか分からないちょっとしたスリルも楽しいんですよね。ドラマと同じで。もし失敗しても、またすぐ作れる点も魅力。さらには子どもに対して、砂糖を熱したら、かたちが変わるんだよと『化学』の知識を伝えられるのも人気の秘訣ですね」

思った以上に長引く、コロナ時代。日本でも家でこのダルゴナを楽しめる。

このキットをはじめとして、10年来韓国関連の製品も多く扱ってきたECサイト「しあわせ家族生活」の担当者大和あかりさんは言う。

「ダルゴナって、『2度美味しい』と思うんです。このキットで遊んでいただけますし、キット以外でも砂糖を煮た素材(カルメ)を使って2020年に流行ったダルゴナコーヒーを作ることだってできますしね」

確かに2020年春頃、インスタントコーヒー入りのカルメを数百回練って、ミルクと合わせる「ダルゴナコーヒー」が流行した。一つの単語が、コロナ禍の2年間で2度、別のアプローチで流行ったのだ。ものすごいパワーワードでもある。

スゴくて、深くて、じっくりと家族で遊べる「ダルゴナ」。日本のこの冬にもぜひ。糖分の取り過ぎに気をつけつつ、「韓国など海外に行けないなか、遠くでもコロナに耐えてるんだな」などと時代を感じ取りながら。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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