日本の制度と似た点もある韓国の大学入試制度

15日、16日に行われる大学入学共通テスト。

韓国でも似た形式の受験がある。毎年11月に行われる「大学修学能力試験」だ。韓国では「修能(スヌン)」と呼ばれる。当日、母親が会場外で祈り、遅刻しそうな学生はパトカーで送り届ける、あれだ。

2020年の韓国の受験会場の様子
2020年の韓国の受験会場の様子写真:ロイター/アフロ

94年に始まったこの入試制度。かつては韓国の受験生の98%以上がこの入試の一発勝負により進路が決まっていた。さすがに熾烈な競争が問題となり、現在では日本の「推薦入試」に近い「随時募集」で75%が進学する。

それでもなお、韓国では25%が「修能(スヌン)」の一発勝負に挑む。日本とは違い、国公立・私大問わず多くの大学がこれに参加する。2次試験はなくこの結果を以ての出願結果で合否が決まるのだ。

受験生は一人あたり、現役・推薦を問わず「随時募集(推薦入試)」を5回、「定時募集」とも言われる「修能(スヌン)」を3回受験できる。

2022年度の唯一の満点はソウル大へ

この「修能」で今年、唯一の「満点」獲得者が出た。

キム・ヘソンさん(19歳)。

以下のテスト内容で一問も間違わず、全問正解を達成したのだ。

国語(言語とメディア)45問/149点 

数学(確率と統計)30問/144点

英語 45問/絶対評価のため点数は公開されず

韓国史 20問/絶対評価のため点数は公開されず

経済(探求領域の選択科目として) 20問/66点

社会文化(同上)20問/68点

中国語(第2外国語) 20問/絶対評価のため点数は公開されず

初めて実施された94年以降、27年間で230人以上満点達成者がいる。相対評価、絶対評価など形式が変わるなか、2001年には最大の66人の満点獲得者が出た。

しかし今回(2021年11月19日に行われた2022年の選抜)からは、出題方針が「文系理系統合型」となった。文系の学生も理系と同じ数学の問題を解かなくてはならない。逆も然りで、理系の学生は国語や社会の難易度の高い問題を解く。つまり難しくなった。

これにより今回は「修能(修学能力試験)」どころか「不修能(修学できない)」というスラングが生まれるほどの難易度となった。キム・ソヌさん曰く「自分は文系ながら、特に国語が難しかった」のだという。

満点を獲得後、メディアからインタビューを受けた。本人は「ソウル大学経営学部に行きたい」としている。満点獲得の時点でこう公表しているのだから、もう合格したも当然。なぜなら全体の1位だからだ。

むしろ「医学部には行かないの?」と質問が飛び、「うーん性格上、途中で辞めちゃいそうなので」と答えている。将来は、人のために働きたいとして「政府関係の部署に勤めたい」と希望を口にた。

いったいどうやって満点を獲得したのか。韓国メディアに向けた記者会見の内容からこれを探る。

4月、”大学1年生”で受験を決意 

彼女、実は「仮面浪人」の立場で満点を勝ちとった。

韓国の早大に比せられる高麗大学行政公共行政学科に進んだが… 現役時代の「修能」での失敗がずっと引っかかったままだったという。

韓国の大学は3月入学だが、そこから1ヶ月経った4月から悶々とし始めた。6月には心を決め、ソウル大への再トライを決意。「通学時間が惜しいから」と全寮制の予備校への進学を決めた。

両親はただ「やりたいことをサポートする」立場に徹してくれたという。あれをするな、これをするなとは言わなかったという。

再び受験生となった彼女の1日は、毎朝6時半に始まった。

ルーティーンを崩さない生活をしていました。朝6時半に起き、夜は12時半に寝る。これを繰り返していました」

予備校だから、日中は授業がある。彼女が自分で工夫したのは、それ以外の時間の過ごし方だった。

「自習の時間は、高校生の頃と同じように50分勉強して10分休むというサイクルを繰り返しました」

そして週末の過ごし方にも確固たる考えをもって、行動に移した。

本番と同じタイムスケジュールで、『一人模試』をやっていました」

2021年の韓国「修能」の会場の雰囲気
2021年の韓国「修能」の会場の雰囲気写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ぶち当たった壁、焦りと「解決法」

ただし、その歩みはずっと順調だったわけではない。7月、最初の困難が訪れた。模擬試験の結果がかなり思わしくなかったのだ。本人はこう振り返る。

「数学に至っては、現役時代より悪い70点でした。かなり落ち込みましたね。まだ休学していなかった高麗大学の事も考えるようになりました。大学の上半期の試験を受けていなかったから、卒業は半年延びることが決まったんです。不安でした。だからといって戻るのは気まずいし…特に大学の夏休みの期間にはメンタルも中途半端になって『時間を無駄にした』という思いがありました。」

そんなとき、予備校の担任の言葉が救いになったという。

「まだ焦らなくていいよ。とにかく過去問に当たっていこう」

この一言で吹っ切れた。「後悔がないようにやりきろう」と。大学の下半期は休学し、いっそう受験勉強に集中した。

ポイントはやはり徹底した「過去問分析」にあった。韓国では今年から試験システムが変わる(文系・理系の統合問題が出題される)ことが分かっていたが、それでも彼女は揺るがなかった。

国語(韓国語)の2021年の問題。出典:韓国教育課程評価院
国語(韓国語)の2021年の問題。出典:韓国教育課程評価院

「過去問を徹底的にやったことが本当によかったと思います。それをやったのちに新しいことへの対応があると考えていました。ただ解くのではなく、過去問の出題方法を分析する。どういう表現で問いを出しているのか。かなり昔に出た問題でも、『今だったら、どういう形式・表現で設問されるのか』を考えていましたね」

予備校の寮が実施してくれたもうひとつの「ルーティーン」も自分を助けたように思う。

「昼ごはんだけは同じものを食べるんですよ。ごはんにイカの入ったスープ、そしてウィンナーでした。これが一日のリズムを生んだように思います」

9月の模試では、「全体で2問だけ間違う」という状態にまで成績がアップした。とにかく直前まで「過去問を解くこと」に集中した。

「正解できなかった過去問を集めて、もう一度解いたりもしました」

  • キム・ソヌさん。「聯合ニュース」にも取り上げられた

試験当日の「震え」を気にせずやり過ごした

迎えた11月18日の本番。

韓国版大学入試共通テストは高校(自身が通わない)が会場になることが多い。久々に見た高校を「かなり大きいな」と思ったが、それ以上は何も考えないようにした。1年前の経験上、あれこれ考えすぎると解ける問題も解けなくなると知っていたからだ。

それでも会場に入ると震えがきた。

しかし多く考えることはしなかった。当日、ひとつだけ気をつけたことがあったからだ。

服装だ。少し薄着で行った。特に午後、眠気に襲われないようにするためだ。だから会場で震えても「寒さなのかもな」と気にせずやり過ごした。

2021年の韓国の「修能」の様子。コロナ対策により一部屋に入る人数を少なくして行われた
2021年の韓国の「修能」の様子。コロナ対策により一部屋に入る人数を少なくして行われた写真:代表撮影/ロイター/アフロ

正直なところ、6教科全210問のうち、1問だけ勘で解いたものがある。選択科目の「経済」で「税金と補助金から取引量を割り出す」という選択問題があったが、確固たる自信もなく記したものがたまたま正解になった。

試験が終わり、その日の自身の答案を予備校に送った。自分でも仮採点してみたが、「もしかしたら満点かな」と思っていたところ…実際にそうだった。予備校側からの連絡を自分は取れず、母親が先にそれを知った。「ああそうなの」と答えたら、母から「満点なんだからもっと喜びなさい」と諭された。昔から冷静で、あまり感情を見せないほうだったのだ。

11月19日の試験の後、12月9日には韓国教育課程評価院が「満点は一人だけだった」点を公表した。

  • 評価院の満点者発表のニュース

「巻き返し型」と「当日主義」

彼女のこの1年の受験生活は、スタートが遅れたぶん「巻き返し型」となった。他の現役生や浪人生が毎年3月(韓国の学校の新年度は3月スタート)に区切りを迎えるなか、6月からの本格スタート。3ヶ月遅れてのものだった。

それを徹底した「当日主義」で覆したのだった。「解けなかった問題集」を作るまでの徹底した徹底した過去問研究。週末に行った当日の日程に合わせた「一人模試」。服の分量まで考えた対策。

満点獲得後、多くの祝福と取材を受けた。本人は「あまりに同時に来て、困惑している」という。自身のコメントがYouTubeなどメディアにアップされるや、こんなコメントが入った。

「AI人間みたいですね」

  • 通った予備校からもインタビューを受けた

そうかな、と自分では思う。受験勉強中も休憩の時間にYouTubeで音楽を聴いたりした。そして入試が終わった後、しばらくダラダラと過ごしている。

「今は眠たくなったら寝て、目が開いたら起きる毎日です。受験中は『Netflixでどんなドラマを見よう、どんな漫画を読もう』ということを考えていたんですが、終わると全部忘れてしまうものですね」

大学に入って何をしたいか。取材ではそう聞かれた。経営の勉強? と聞かれると「うーん」と悩み、上手く答えられなかった。

そして出た答えが、いまの時代の大学生らしい。

「対面授業が夢。講義室で教授や他の学生たちと場を同じくして、意思疎通をしてみたい」

仮面浪人女子は大学1年生をもう一度やり直す。大学で一度味わった「Zoom授業」の寂しさ。それを埋められる2022年になればよいのだが。