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「ケチャップ出た」韓国男子サッカー ルーマニアに大勝 その裏にはOA選手の「カシマへの思い」も

(写真:ロイター/アフロ)

「ケチャップがドバドバと出るかどうか」

かの本田圭佑が2012年9月11日のW杯予選イラク戦後に口にした”名言”だ。攻撃陣はやりたいことをやれていないわけではない。ただゴールが決まらない。きっかけが一つできれば、得点力爆発――。

そういう状態にあった韓国男子サッカー代表が、25日に予選グループ第2節、ルーマニア戦に4-0で大勝した。「ケチャップ」をどう出すのかという点で興味深い試合だった。

なにせ韓国は初戦のニュージーランド戦(23日)で枠内シュート12本を放ちながら、同2本の相手のカウンターに沈み、敗れた。機動力を活かし、サイドを使って攻めるという戦い方ができていたが、結果につながらなかったのだ。

「ケチャップが出なかった」がため、韓国は25日ルーマニア戦で仮に敗れれば、早々と敗退が決まる可能性があった。そうなると”徴兵免除”も、準々決勝で日本と対戦し勝つというストーリーもすべてパー。予選グループBを戦う韓国は、グループAを戦う日本と”順位がクロスすれば(双方1位、2位にならなければ)”、決勝トーナメント1回戦で対戦するのだ。

そんな危機で韓国が見せた「ケチャップの出し方」がいかにも、らしかった。

”力づく”

その結果の4ゴール。そういう意味で見どころのあるゲームだった。GOAL,comの韓国語版は、動画ニュースで試合をこう絶賛した。

「前線と2列めのプレスが完璧。これぞ韓国という試合だった。キム・ハクボム監督のプランBも大成功」

結果、予選リーグB組の1位に浮上。28日の最終節、ホンジュラス戦(@横浜)に引き分けても決勝トーナメント進出が得られる立場となった。

ぶっ倒れたOA選手、「カシマ」への強い思いがあった

なにせこの試合に向けた韓国の気合はすごかった。

勝利以外の結果だと、猛批判を浴びることが必至のキム・ハクボム監督は、先発メンバー5人を入れ替え。さらにシステムを4-2-3-1(メンバー表記上は4-3-3)から4-4-2に変更した。

その監督の策により、この試合から先発に入ったオーバーエイジのCBパク・ジス(27歳)は、前半に相手ゴール前での攻防で頭を蹴られ、ピッチに倒れ込む気迫を見せた。

軍隊チーム尚武所属で、兵役中の身。本来主軸と期待されたキム・ミンジェ(北京国安)が所属クラブの選出拒否に遭い、かわりにメンバー入りした。その際には「軍人精神でやりきる」と口にしていたが、この試合に賭ける別の思いもあった。試合会場のカシマスタジアムへのものだ。

韓国メディア「フットボーリズム」がエピソードを紹介している。

「2013年にKリーグ仁川ユナイテッドから放出されたパク・ジスは1年間所属クラブがなく、その後プロに復帰。そこからA代表にまで登りつめたキャリアで知られる」

鹿島への”帰還”を果たしたパク・ジス
鹿島への”帰還”を果たしたパク・ジス写真:ロイター/アフロ

2014年シーズンを前にKリーグ各クラブの入団テストを受けていったが、結果は芳しくなかった。Jリーグにも活躍の場を求め、トライを続けたが思う結果は得られず。ただその中で、鹿島アントラーズのホームゲームを観戦する機会があった。パクはこの時「名門クラブのホームゲームの特別な雰囲気に感銘を受け」、こう誓ったのだという。

「必ず、ここで再びプレーする」

パクはこの時入手した、鹿島アントラーズのユニフォームをずっと大切に保管していたのだという。それを今年、軍隊に行く際にいちばん大事な友人に渡した。それほどに大切なものだったのだ。

力の抜けた「4点目」が最重要

かくして気合満々で臨んだルーマニア戦、4ゴールの内容はしっかりと見極める必要がある。

1点目 27分 右サイドクロスから相手のオウンゴール。

2点目 59分 右からのクロスがオム・ウォンサンに当たり、方向が変わってゴール。

3点目 84分 PKによりイ・ガンインがゴール。

1点目と2点目はまさに力づく。ゴリゴリと攻めていって、最後は放り込む。日本のような「精密さ」ではなく、「強さ」が生み出したもの。これぞ韓国メディアのいう「免除ロイド(徴兵免除とドーピング剤のステロイドの合成語)」といった感だった。さらにいうと3点目はPKだから、意地悪くいうと「きっちりと流れから決まったゴールはない」。

だからこそ、韓国にとっては90分の4ゴール目が貴重だったのではないか。しっかりと左サイドを崩す流れから決まったゴール。それもイ・ガンイン(バレンシア)が

スッと力を抜いて、ゴール左サイドに流し込んだもの。これこそが「ケチャップ効果」だった。言い換えるなら「硬さが取れた」。これがなければ、むしろ攻撃陣に少し不安を残す試合結果となっていたはずだ。

イ・ガンインの「15分で2発」がもたらすまた別の意味

イ・ガンインはこの試合から先発を外れ、78分に投入されていた。

この交代は韓国にとって大きな意味があった。オーバーエイジのファン・ウィジョを外して、イ・ガンインが投入されたのだ。

ファン・ウィジョはキム・ハクボム監督にとっての「愛弟子」だ。Kリーグ時代の所属クラブでの指導歴のほか、2018年のアジア大会にも参加し、9ゴール。得点王となり優勝に貢献した。

ボルドーでプレーするファン・ウィジョ
ボルドーでプレーするファン・ウィジョ写真:ロイター/アフロ

ファンの加入にはキム監督の「覚悟」が改めて示されている。入れ替わるように選考外になったのは、2019年のU-20W杯準優勝に貢献したオ・セフン。193センチの大型FWはベスト16で対戦した日本戦でも決勝ゴールを決めた。

しかしこの大会の最終エントリーには選ばれなかった。軍隊チームのサンムにあって、今季やや不調だった、という面もあるが「キム監督の運動量、機動力を重要視するスタイルに合わなかった」というのが韓国での一般的な見方だ。

替わりにメンバー入りしたファンに、キム監督は「オールイン」という状態。何せ、ファンに負傷などが起きた際の代役も入れていないのだ。

しかし、ファンはここまでノーゴールと不発。そこでキム監督は「聖域」にメスを入れ、本来MFのイ・ガンインを前線に投入したのだ。かくして、イは15分で2ゴールという結果を出した。

何が何でも”ケチャップが出る前”に、大会を終えるのは防がねばならない。追い込まれたキム監督の素早い起用判断がもたらした結果でもあった。

残る課題はそのファン・ウィジョのゴール欠乏症、そしてまたしてもこの試合、バックパスをキャッチという「ポカ」をやったGKソン・ボムグン(全北現代)の不安定さにある。

果たして、29日の最終節を経て、準々決勝での日本戦は実現するだろうか。

(了)

サッカーU-24韓国代表|東京五輪メンバー(初戦終了時より内容をアップグレードしました)

GK

1. ソン・ボムグン(全北現代) **2017年 U-20W杯

18. アン・ジュンス(釜山アイパーク) **2017年 U-20W杯

22. アン・チャンギ(水原三星)

DF

2.イ・ユヒョン(全北現代)

3. キム・ジェウ(大邱FC)

4. パク・ジス(金泉尚武FC)*オーバーエイジ ***A代表経験者

5. チョン・テウク(大邱FC) **2017年 U-20W杯

12. ソル・ヨンウ(蔚山現代)

13. キム・ジニャ(FCソウル)

MF

6. チョン・スンウォン(大邱FC)

8. イ・ガンイン(バレンシア/スペイン)**2019年 U-20W杯 ***A代表経験者

10. イ・ドンギョン(蔚山現代)***A代表経験者

14. キム・ドンヒョン(江原FC)

15. ウォン・ドゥジェ(蔚山現代)***A代表経験者

19. カン・ユンソン(済州ユナイテッド)

20. イ・サンミン(ソウルイーランド)

21. キム・ジンギュ(釜山アイパーク)

FW

7. クォン・チャンフン(水原三星)*オーバーエイジ ***A代表経験者 

9. ソン・ミンギュ(浦項スティーラーズ)***A代表経験者 

11. イ・ドンジュン(蔚山現代) ***A代表経験者 

16. ファン・ウィジョ(ボルドー/フランス)*オーバーエイジ ***A代表経験者 

17. オム・ウォンサン(光州FC)**2019年 U-20W杯 ***A代表経験者 

※所属クラブ・招集メンバーは2021年7月2日時点のもの

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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