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サッカー「日本vs日本」に期待すべきこと ガチだった昨秋の「韓国vs韓国」では何が起きた?

今年3月の日韓戦での韓国代表(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 3日に札幌で行われることになった「A代表対U-24代表」。

 試合に先立ち、田嶋幸三JFA会長の「タブー視されている」発言から「禁断の試合」とも報じられているが、韓国では昨年10月にこれが開催されている。9日と12日に国内組主体のA代表と五輪代表が対戦したのだ。

 しかも日本よりも積極的かつ計画的に試合を開催した。日本を含めた世界各国がこの月から国際Aマッチデーでの試合を再開するなか、韓国は国内のコロナ対策慎重論もあり、遠征や海外チーム受け入れを見送り。これに対し韓国での実績を以てヨーロッパのメインストリーム復帰の野心を持つA代表パウロ・ベント監督(ポルトガル)が試合開催に積極的に動いた。

 試合前の会見ではこう口にしたのだった。

 「1年間チームが招集すらされていない」

 試合の機会が切実だった。いっぽうでパウロ・ベント監督からは、試合に向けた「余裕」ともとれる発言もあった。

 「これまでやってきたことの復習の機会にする」

 かくして行われた2試合(無観客)の結果は「2-2」と「3-0(A代表の勝利)」だった。

 2試合を通じての一番の盛り上がりは、第1戦の後半5分にあった。0-1とリードを許したU-23代表が、同点ゴールを決めたのだ。それもA代表のペナルティエリア内でのドリブルでぶっちぎってのものだった。

 ゴールを決めたアタッカーの発掘が、”兄弟対決”での最大の成果でもあった。

 ソン・ミンギュ。ポハン・スティーラース所属の21歳。181センチ72キロのウインガーだ(ソン・フンミンは「孫=SON」で、ソン・ミンギュは「宋=SONG」)。

 2019年1月の東京五輪予選では候補にすら入っていなかった存在。そもそもユース世代でも一度も代表に選ばれたことがなかった。2020年シーズンから所属チームで活躍を見せ、評価が急上昇。2020年10月のこの「兄弟対決」が”人生初の代表戦”となり、この機会を見事にモノにした。

 その後Kリーグでも好調を維持。27試合で10ゴール6アシストを記録し今季の新人王を獲得。メディアも「圧倒的存在感」と報じるほどだった。この6月には、フル代表からお呼びがかかりメディアでは「SONとSONGの共演あるか?」とも注目されている。

 もちろん、今回の日本と2020年10月の韓国では事情が違う。

 兼任監督体制の日本は、両チームのボスが同一人物(森保一)だ。そうではない韓国との辺りの意識の違いはどう出るだろうか。

 2020年10月の韓国では、U-23代表キム・ハクボム監督から試合前の会見で緊迫感を煽る発言があった。

 「兄貴だけがいい、ということはない。弟分もやれるということを見せつける」

 また会見では、キム監督に対し「フル代表の方に入って残念だと思う選手は?」という質問が飛んだ。キム監督は「どの選手も一緒にやりたいもの。フル代表に入っていく競争に勝ち抜いてほしい」と答えた。パウロ・ベント監督も同席した会見、こういう場合は”それとない発言”ではぐらかしそうなものだが…

「イ・ドンジュン、ウォン・ドゥジェ、イ・ドンギョン」

 はっきりと個人名を口にしたのだ。3人ともに3月25日のA代表日韓戦@横浜でプレー。ウォン・ドゥジェはかつてアビスパ福岡に所属した選手としても知られる。ある意味、敗れた場合の評価の変化に対し、伏線を張ってまでこの試合に臨んだのだ。試合の”ガチ感”は韓国のほうが強かった。

 いっぽうで、昨年秋の韓国よりも今回の日本が”幸い”という点もある。あちらは国内組主体の対戦だったが、今回の日本は欧州組もフル動員しての対戦。今回ジャマイカに起きた事態は本当に残念なことだが、代替試合は韓国との比較でいうと「大いにやる意義あり」だ。

 何より、若い選手にとっては、その機会が本人にとってどんな化学反応を起こすか分からない。その場があるということが重要。

 ちなみに70年代から80年代前半にかけてブンデスリーガで大活躍したチャ・ボングン氏が「ドイツに行く」と決心したのは、じつは日本での”経験”からだったという。若き日にジャパンカップ(キリンカップの全身)で韓国代表の一員として日本に遠征。ブンデスリーガのチームと対戦して、ふと「俺、やれるんじゃないか?」と思ったのだという。

 成長過程にある若い選手たちが何かを感じ取る機会に。これこそが3日の試合の最高の成果となる。野心あるプレーぶりに期待しよう。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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