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SEVENTEEN 日本新作をMAX堪能! 収録曲「HOME;RUN」日本語版を大研究

渋谷にて 筆者撮影

21日にパッケージ版が発売となったSEVENTEENの3rd日本シングル「ひとりじゃない」。

3曲収録されているこのシングルには、もう一つの大きな注目ポイントがある。2020年10月に韓国で発表されたヒット曲「HOME;RUN」の日本語版も収録されているのだ。これがどういったものか、ちょっとした“研究”を。

なにせ今春に日本でリリースされるK-POP楽曲のなかでもかなりの「大物」なのだ。

日韓で五本の指に You Tube再生回数からも分かる「最新人気曲」

まずはSEVENTEENの日本での人気ぶりをデータから。

Twitter Koreaの調査によると、日本での“人気ベスト5”に入るグループだ。2019年6月から2020年7月までの間「日本のツイッター内で会話量が多かったK-POPグループ」のランキングは以下の通り。

1位 BTS

2位 東方神起

3位 SEVENTEEN

4位 EXO

5位 TWICE

ちなみに同統計での韓国での順位は下記の通りだ。

1位 BTS

2位 EXO

3位 TXT

4位 BLACK PINK

5位 SEVENTEEN

この統計によると、“日韓両国で五本の指に入る人気グループ”でもあるのだ。

いっぽうでこのグループにとっての「HOME;RUN」は最新のヒット曲という位置づけだ。Youtube上の公式動画のアクセス数は今年4月1日に5000万ビューを突破。グループとしては9曲目の達成となった。

◆1億超え

Don't Wanna Cry

◆8000万超え

Very NICE

拍手

Left & Right

◆5000万超え

Oh My!

'HOME;RUN'

Home

HIT

THANKS

(アクセス数順)

韓国の音楽番組では2020年に4度の1位を獲得した。

10/28 SHOWCHAMPION

10/29 M COUNTDOWN

10/30 MUSIC BANK

11/1 人気歌謡

韓国ファンの間では「ライブでの応援コールが難しい」「メンバー13人全員の名前を呼ぶ時間が短い」「でも難しければ難しいほど合わせようって気持ちになる」といった声も聞かれる曲だ。

原曲は「追い込まれても堂々とホームランを狙え」という応援ソング

では、21日に日本でリリースされたこの楽曲の何を研究するのかというと、日本語訳についてだ。日本でのK-POPシーン全般で、日本語版にリメイクすると原曲のよさがバッサリと削られてしまっている事例も存在してきたからだ。とはいえ、多くのファンにとってはやっぱり日本語で歌ってくれるのは嬉しいことなわけで、ここのところはしっかりと見ていくていくべきものなのだ。

まずはこの楽曲が原語で何を伝えようとしているのか。ここから作業に取り掛かる。コアなファンにとっては釈迦に説法だろうが、韓国の事務所側による楽曲説明にはこう記されている。

"HOME;RUN"はスウィングのジャンルを基盤としたサウンドが目立つ曲。軽快で打撃感があふれるサウンドで'HOME RUN'という表現が持つピリッとした感じを表現し、無限の成長がある青春に力強い応援と慰めの声を届ける。

応援ソングだということ。ホームランを打つような爽快感でこれを表現しようというもの。歌詞の世界観は「9回裏2アウトのような追い込まれた状況でもチャンスはある。落ち着いてやろう。ホームランをかっ飛ばせ」というもの。

さて、これが日本語でしっかり表現されているだろうかーー。

“タラダラダ”の謎

まず楽曲の冒頭部分から注目ポイントがある。

9回の裏 2アウトでも バットを握ろう

原語版作詞:WOOZI (SEVENTEEN) , BUMZU , Vernon (SEVENTEEN) , スングァン(SEVENTEEN)

日本語歌詞:Haru.Robinson

作曲:WOOZI (SEVENTEEN) , BUMZU , Nmore(PRISMFILTER)

「握ろう」と呼びかけている。

自分に語り掛けているのか、相手に語り掛けているのか、いずれにせよ呼びかけによってより分かりやすいメッセージ性が表現されている。じつはここのパート、原語版では「握っとけ」というような、ちょっと突き放したような緩やかな命令形となっているのだ。

いっぽう歌詞で一番盛り上がる、サビ部分では日本語版の制作者の工夫が大いに見えて、興味深い。

ホームラン またホームラン

あの壁を越えよう

今 ホームラン またホームラン

みんな タラダラダって 飛び出しな Babe

I can’t stop the feeling (Oh my)

I can’t stop the feeling feeling

太陽を隠せ 宙を舞うボール ホームラン

同上

「あの壁を越えよう」は原語版では「あの遠くの壁を越えよう」となっている。これは後述する日本語と韓国語の違いによるもの。韓国語の方が短い音で多くの意味を言い表せるので、日本語ではカットもやむなしといったところか。

そして何よりエスクプスが歌うパートの「タラダラダ」これは原語版の音がそのまま日本語版にも残った。韓国ファンの間でも「この音が面白い」という声が聞かれる部分だ。

はっきり言って、筆者にもこの言葉の意味が分からなかった。「タラ」というのは韓国語で「ついていく」という意味もある。走る、という文脈からそういった意味かと思いきや…ネイティブスピーカーの意見はこうだった。

「辞書にも載っていない言葉ですよ。なんとなく「駆け出していく感じ」を表す擬声語・擬態語ですね。普通は韓国語でも日本語と同じく『ダッタッダッ』とも言うのですが、ここでは曲に合わせてちょっと違う表現をしているのでしょう」(韓国スポーツ紙の芸能担当記者)

日本語版でも一番面白いところは残したのだ。決して「だらだら」ではないので要注意を。

そして続く「太陽を隠せ 宙を舞うボール ホームラン」のパート。ここは原語では「高く飛んだボール あの太陽を隠せ ホームラン」だが、ここは順序を替えつつ、「宙」という言葉を入れてとてもカッコよく訳されている。

また韓国語版のミュージックビデオでは、ダイヤモンドが2度ほどチラッと登場する。これはまずは「カラット(SEVENTEENのファン)」という意味、「大切なものを掴めよ」という暗示、そして野球のダイアモンド(本塁、1塁、2塁、3塁の形がこう見える)を引っ掛けているように見える。日本語版でもダイヤ、という歌詞がチラッと登場し、これが表現されている。

付録的に…ちょっとマニアックな「日本語版歌詞研究」

HOME;RUNについては、紹介すべき点は紹介した。ここからは筆者自身のちょっと踏み込んだ分析を。

これまでも韓国でのヒット曲の日本語版を多く見てきたが、大きく分けると2つのパターンがあるのだ。

原曲の世界観を変えているもの・世界観は同じだが構成を作り変えているもの

原曲に大きく手を入れるパターンだ。

これは2010年夏に日本で韓国ガールズグループのブームが起きた際に、比較的多く見られた事例だ。KARAの「ミスター」が代表的事例で、韓国では「あんたの名前何?」と挑発するような楽曲が、日本では「相手との距離を縮めたい片思いの歌」となっていた。またKARAと同事務所のRAINBOWの名曲「A」も、韓国では「別れた彼氏に、もう会いたくもないからせめてお幸せにと伝える」という曲が、日本ではこれもまた「片思いの曲」に変更されている。日本のマーケットが「可愛いコンセプトが売れる」と見越したものと思われる。

少女時代の「GENIE」は、世界観は同じだが構成を大きく変えた。あなたの願いを叶えるランプの精に私がなる。だから願いを言ってみてというものだ。もっともこれは元々ウズベキスタンの楽曲であり、韓国語の歌詞自体がオリジナルではないのだが。

原作にできる限り忠実に、そのまま表そうというもの

原曲に手を加えないパターン。

こちらが圧倒的に多い(今回の「HOME;RUN」もこちらに分類される)。

ただし韓国語と日本語の言語特性上、「そっくり同じ」とはいかないのが悩ましいところ。ふたつの言葉は、文法的には非常に近い。要は「語順が同じ」だ(この点は専門用語で話し出すととても長くなるので割愛します)。

しかし音の構成が違う。ほとんどの音が「子音+母音」で終わる日本語に対し、韓国語には「子音+母音+子音」で終わる音が多く存在する。

たとえば日本語では韓国に多い姓の「キム」をカタカナ2文字で表す。「KIMU」。これは日本語が母音で終わる習性があるためだ。いっぽう原語(韓国語)では「KIM」。子音で終わる音があるからより短い表記で終わる。さらに言うなら、ハングル文字では「キム」は一文字で言い表せるのだ。

これが日本語にした際に「そっくりそのまま」とはいかない現象を生む。

日本語は韓国語に比べ、一文字で表せる情報が少ない。

そして

子音で全て終わるため、音として少しベッタリと終わる部分がある。スピード感が削がれるような印象も。

何が言いたいのかというと、コロナ禍でのGWにはじっくりこの人気グループの最新ヒット曲の日本語版を堪能するのもよいのではということ! 一つのコンテンツを巡ってああだこうだ考えること、想像しまくること。これぞ日本のK-POPファンの特権。そうではないか。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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