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「緊急事態宣言」 ”イエローカード”として使う手はなかったか? 韓国との比較から思う

(写真:ロイター/アフロ)

「そうなってはじめて慌てる日本、そうならないように情報告知がしっかりされている韓国」

ここで大きな違いが出た。

日本の一都三県での緊急事態宣言発令を受けてまず思ったことだ。

日々、韓国の記事や現地ニュース番組をオンライン上でチェックする立場(コロナ禍でこういう生活になった)からの見方だ。筆者自身、疫学の専門家ではないからその筋の話はしない。ただ「両国の政府側の情報がどう伝わってきたか」という点についての意見を。

韓国の「社会的距離確保の段階」 日本の「ステージ」

韓国のコロナ対策(彼らのいう、世界にノウハウ伝授すべき「K防疫」)を褒め称えようということではない。韓国は、サッカーに例えるなら「積極的にプレスをかけていく」かのごとき、積極的PCR検査実施(そのための法整備)を行ってきた。

しかし、今年4月末から5月のよかった時期(この頃の連休では、日本は「非常事態宣言中」で韓国は「国内旅行の許可」がなされていた)も今は昔。結果的には韓国も日本と同じく、日々1000人水準の新規感染者が出るという危機的状況。大差はなくなった。

ただ、この状況下で韓国にあって、日本にないものが存在する。

それはズバリ

「はっきりと認知されている基準」だ。

新型コロナウィルス感染拡大状況によって、行動制限がどう実施されていくのか。

筆者による12月25日の記事でも紹介したグラフィックを今一度掲載したい。

筆者作成
筆者作成

韓国では「社会的距離確保の段階」と呼ばれるものだ。韓国語では「サフェチョク コリトゥギ ダンゲ」と読む。社会的距離確保とは、日本で言う「ソーシャルディスタンス」と同義だ。現在、韓国ではソウル首都圏を含む多くの地域が「2.5段階」だ。

日本にも、コロナの感染状況に関する「ステージ」というものがあるが、この緊急事態宣言という段階になってニュースに出てきた、というものではないか。東京に暮らす筆者の周囲で話を聞いてもほとんど認知されなかった。

いっぽう、韓国では「基準」が大きく認知されている。例えば今年10月13日(まだ韓国の感染状況が抑えられていた頃)には、国内大手の世論調査会社「リアルメーター」がこんな世論調査を行った。

「社会的距離確保の段階 緩和に賛成か、反対か」(国内メディアYTNの依頼による)

上記グラフィックのうち、「2段階」から「1段階」に緩和されたのだ。結果は賛成「62.5%」:反対「35.2%」(「分からない」2.2%)だった。それはさておき、日本では政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が定めている「ステージ」を巡って世論調査が実施できるというのは考えにくいのではないか。当然のごとく認知度が高くあってこその世論調査だろう。

「3段階(サムダンゲ)」がはっきりと伝わっている韓国 

なぜ韓国にあって、日本にはないのか。そこを探り始めると、社会構造の根本的な違いの話になる。

韓国の「社会的距離確保の段階」を発表したのは、政府の疾病管理庁だ。昨年9月に疾病管理本部から庁へと格上げになった。より強い権限を与えられた同庁では連日記者会見が行われ、細かい感染状況が報告され、さらにこの「段階」を巡る状況についても繰り返し伝えられる。これが毎日のように記事になるから、しっかりと伝わっていくのだ。ここには日韓両国の中央集権と地方自治の歴史の違い、ウイルス対策の歴史の違い(2015年にMERSを流行させてしまった教訓)がある。

「基準」が存在する韓国では「3段階」(韓国語では「サムダンゲ))に進むまい、という明確な目標の下で感染対策に臨むという雰囲気が出来ている。前回の記事でもソウル在住の30代男性が「段階に関係なく、とにかく外出しないこと」「3段階になると飲食店の経営が心配」といったコメントを紹介したとおりだ。

【危機感】韓国、コロナ感染拡大で「5人以上の集まり禁止」のクリスマス。”最終ステップ”への正念場へ

またその前回記事では韓国政府側が「3段階に行かないために苦慮している点」を記した。「きっちりと基準を定めすぎたゆえの苦悩」があると。いざ日本がこういった事態になると、筆者自身その見方も変わった。

本来なら12月中旬からの状況は「3段階」に移行すべきものだ。「全国的な新規感染者数増が一日平均で1000人基準増」そしてそれが「1週間続く」というものにとっくに到達している。韓国での「3段階」は「学校の休校」や「リモートワークの徹底」なども含まれており、日本の「緊急事態宣言」にもやや近いものとなっている。

そこで韓国政府側は本来「3段階」の行動規制が「10人以上の集まりの禁止」であるなか、クリスマス直前に例外的なルールを設けた。全体を「2.5段階」に留めたまま、より厳しい「5人以上の集まりの禁止」のルールを設け、違反者には過料を科すこととしたのだ。

要は「3段階」に行かないように踏ん張りましょうよ。政府としては警告を続けていますよ――というメッセージを発し続けているのだ。ここははっきりと、日本の「突然に緊急事態宣言」といった印象とは大きく違う。日本には認知される「基準」がなかったによ、だ。

日本でも「そうならないために踏ん張る」状況は作れなかったか

せめてもうちょっと早くに「イエローカード」的に、「本気で緊急事態宣言を検討しますよ」というポーズを示し、言葉通り「警告」を与えることはできなかったか。そんなことを思う。「そうならないように踏ん張る」ために。日本に暮らすのなら4月から5月の苦しい状況は鮮明に記憶しているのではないか。だとしたら「あの時に戻りたくない」と強く意識したのではないか。疫学の専門家ではない筆者が少なくとも言えることは「情報の伝え方は上手くなかったのではないか」ということだ。

情報の伝達という話でいうと、余談にはなるが「緊急事態宣言」という言葉を用いるだけで、世界に伝わる深刻度が違う。“coronavirus emergency”という検索ワードの頭にJAPANとKOREAをつけて検索し、出てくる結果の数を比較してみた。JAPANが約3億5000万、KOREAが約2億7000万だった。しかもJAPANの結果のみ、検索結果上位には「statement」「declare」といういずれも「宣言」に関わる強い言葉がともに出てくる。加藤勝信官房長官は6日に「緊急事態宣言は東京五輪に影響しない」とおっしゃっていたが、影響するかどうかは相手が決めることではないだろうか。

7日の緊急事態宣言の会見では、解除のためには「ステージ3・1日の感染者数500人に戻る」という明確な基準が示された。最前線の医療関係者の皆様に感謝しつつ、自粛の時を過ごそう。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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