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泳いで帰った? 北発表の「コロナ感染の韓国からの違法帰国者」は実在か。韓国で大きな話題に。

該当脱北者は国境付近の厳しい警備を潜り抜けたか(写真:ロイター/アフロ)

関連ニュースが韓国を席巻している。

「26日に北朝鮮がコロナ感染者発生と報道」「韓国から不法に帰国した脱北者が開城市で感染」

27日朝の国内最大のポータルサイト「NAVER」リアルタイム検索で「政治部門ニュースベスト10」のうち、5つが関連の話題。ベスト5だと4つを占めた。

これに関して「該当する人物がいる」という点が報じられたのだ。北朝鮮側が26日に発表した「3年ぶりに帰郷した越南逃亡者」とかなり強く推測される人物がクローズアップされている。

各メディアが報じるのは、20代男性の「キム氏」。2017月に北朝鮮から脱北し、ソウル郊外の金浦市の賃貸マンションに暮らしていた。韓国ではコンビニでのアルバイトなどをしていたという。

「中央日報」が掲載したキム氏の顔写真。

一方、親しくしていた女性に対する性的暴行の疑いで取り調べを受けており、拘束令状が出されていた。この点も帰国に大きな影響があったと見られている。

キム氏は韓国でユーチューバーとしても活動しており、6月23日にこれまでの人生を振り返る言葉を残していた。

「開城に住んでいたが、(2016年10月の)開城工業団地の封鎖以来、生活が苦しくなった」

「親族も閉鎖以降苦しくなり、地方に引っ越した」

「元々両耳が聞こえないこともあり、生活に絶望した」

「ペクマ山(開城市の山)に登り、3日間自暴自棄の心情で過ごした。最後に(韓国側の)金浦市側を展望してみたが、まあ初めてでもなかったのだが、夜の早い時間帯から光がキラキラとしていたのがすごく気になった」

「死ぬ前に一度は行ってみようということで脱北を決心した」

また韓国で耳の治療が出来た点に感謝しているとも。「中央日報」が報じた当事者のコメントは27日の「NAVER」リアルタイム検索政治部門で1位となった。

さらに現地メディアが注目している点が2つある。

まずはその帰国方法。「世界日報」が「脱北者、泳いで’越北’した模様。3年前も同じ経路で移動」と見出しを打った。ソウルを流れる漢江の下流に北側との距離が2.5キロ、もしくは1.3キロの地点があり、2017年にそこを泳いで脱北した。今回も入念な準備の末、同じ地点を移動したと見られるという。ちなみにキム氏は2017年の脱北時にはスタイロフォームという建築用の断熱・断水発泡スチロールや流木などの浮遊物を使い移動した点が確認されている。

「中央日報」が報じた帰国推定ルート。

2つ目は警察や軍の対応。18日の時点ですでに他の脱北者Youtuberが「キム氏が帰国の準備をしており、警察に通報した」「しかし『担当部署ではない』と取り合ってくれなかった」と明らかにしていた。帰国に家の荷物をまとめ、向けて車を売るなどして現金を準備していた点も確認されているが、これに対して動きを見せなかった。「ソウル経済新聞」は「警察は黙殺し、軍は情報を知らなかった」と報じた。キム氏は17日の16時55分頃、国境近くの高速道路を通過した(ETC利用)した点が確認されているが、これも共有されていなかったという。

韓国側で知人が「キム氏に大変なことが起きた」とYouTube上で発表したのが18日の深夜2時。これが帰国前の最後の連絡だったか。北朝鮮側の発表した「不法帰国者」の帰国日時は19日。一致するか、しないか。

韓国軍側は26日の北朝鮮側の発表後、8時間過ぎた時点で「北に戻った脱北者」の存在を認めた。いっぽう、これがキム氏かどうかまでは公表していない。政府・警察を含めどういった立場を取っていくのか。新型コロナ感染の事実は韓国側で確認されていたのか。そして北の対応は? この先の注目ポイントだ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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