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【現地ルポ】コロナ禍の韓国のいま。在宅勤務勧告下のソウル、それでもいる場所にはひとはいる。

コロナ禍にあるソウルにて。カンナム地区を歩いてみた。筆者撮影

ソウル滞在も数日が過ぎると、ここの状況がより見えてきた。

韓国政府が25日に勧告を出した「在宅勤務」が社会の雰囲気に大きな影響を及ぼしている。

日本でも同日に政府が「推奨」を発表した。タイミングは同じだ。「推奨」と「勧告」。少し表現が違うが。

韓国の実態の例を一つ挙げると、国内最大のポータルサイト「NAVER」はこれを受け2月25日から28日を在宅勤務とし、その後さらに3月6日まで延長している。

そうなると、友人や取材対象にアポを取ろうとしても、なかなか出てきてくれないのだ。多少の外出はするものの、人に会うことは遠慮されてしまう。

交通の要所、ソウル駅構内はガラガラ。4日昼に。本稿写真すべて筆者撮影
交通の要所、ソウル駅構内はガラガラ。4日昼に。本稿写真すべて筆者撮影

滞在初日の26日には確かに「残していた仕事があり、やむなく自主出勤」という友人に午後にゆっくりと会えた。勧告後の初日だったからだ。しかしその後は雰囲気が変わった。家族の反対もあり、外に出られないという人も多い。

「学校の休みの問題」は取材が進まず……

すると頭が痛いのが前回に約束した「休校中の家庭がどう時間を過ごしているのか」という点の取材が進まないことだ。

メディアの記事では「共稼ぎ家庭では子供の世話をどうみるのかが問題」「家にいても実際のところスマホをずっと見ているだけ」という話が出ている。

いっぽうで、日本と状況が大いに違う部分がある。

2学期制の韓国では、本来なら2月上旬に冬休みが終わっているが、ちょうどこの頃から新型肺炎のニュースが報じられるようになった。すると保護者の方から「休みを延期してほしい」という声が上がった。休みを望んでいた、という面があるのだ。

韓国では政府に対して公式サイトを通じ請願を提出することができるが、ここに累計で10万に及ぶ同意が集まっている。現在韓国で大きな争点となっている「中国からの入国禁止処置」の要請は累計76万だから、これには及ばないが、相当な数ではある。

ホンデ近くの住宅街では、朝8時前に父子で散歩する姿も見かけた。4日、筆者撮影。
ホンデ近くの住宅街では、朝8時前に父子で散歩する姿も見かけた。4日、筆者撮影。

いっぽうで休みの長期化による学力低下の問題、民間の放課後児童クラブ(学童保育)側のスタッフの負担が大きくなっている問題も生じている。ここは追ってレポートしたい。

「発熱検査後に入場」。韓国で多く目にする場面

そんなこんなで、街をプラプラする時間も多い。

それでも人がいるところには、いる。そこにも気づき始めた。

ホンデ、ミョンドンと言った若者向けの中心地は大きく人が減っているが、「真の中心」「ニュータウン」のカンナム駅周辺には少しばかりの活気があった。確かに普段は列をなす有名焼肉(サムギョプサル)店にはすぐ入れたりもしたが、街なかには人の往来がある。若者も集い、ビジネスの中心地も兼ねる。複数の要素があるからだろう。

特に、大型書店にはかなり人がいた。レジ前に列ができるほどだった。そこにいた30代の男性に少し話を聞いてみると「家にいる時間も長いんで、せっかくなら本を読んでみようと。ネットばかり見てるのも時間がもったいないので」という。

カンナムエリアの大型書店にて
カンナムエリアの大型書店にて

このカンナムの地ではプラプラ歩いた後、ある目的地に向かった。税務署だ。韓国でやっている動画の仕事について、手続きが必要だった。付き添ってくれた友人は「あ、開いてるね。今、公的機関も休む場所が多いのに」という反応だった。

ここで、ここまでも韓国で幾度か出会ってきたシーンを再び経験した。

発熱検査をした後に、入場する。

自らも検査を受ける立場ゆえ、なかなかその瞬間を写真に収められないが、係員から瞬時に体温を測る小型の測定器を当てられ、「発熱なし」と認められると入場を許可される。額に当てられたり、手首に当てられたりする。

これは別の場所にあるサウナでも見たし、食堂で実施している場面にも出くわした。先週の日本では目にしなかったシーンだ。

市内のサウナにて。ここでもカウンターで発熱検査があった。また入り口には「こういった機械で消毒をしています」と記す写真も(右下)。筆者撮影
市内のサウナにて。ここでもカウンターで発熱検査があった。また入り口には「こういった機械で消毒をしています」と記す写真も(右下)。筆者撮影

前回も書いたとおり、確かに韓国の雰囲気は「厳格」だ。検査を受けたり、街なかを消毒する場面をみるとハッとする。いっぽうで「危険」と悟りながら、それを認め、その状況でなんとか経済を動かそうとする姿勢にも見える。筆者自身、発熱検査を受けることにも少し慣れてきたところでもある。

前回の原稿で反響があった場面の別カット。ソウル市内の裏路地で消毒液をぶんぶん撒きながら原付を走らせるおじさん。行政の公務。これを「いかにも緊急事態みたいで怖い」と感じるか。「安心」と感じるか。
前回の原稿で反響があった場面の別カット。ソウル市内の裏路地で消毒液をぶんぶん撒きながら原付を走らせるおじさん。行政の公務。これを「いかにも緊急事態みたいで怖い」と感じるか。「安心」と感じるか。

コンビニ「マスクは2日に一度、少量入荷」

最後にここで”ドジってしまった”話をひとつ。

2月27日の夕方に大きな失態を犯した。

夕食を食べた食堂に、マスクを置いて帰ってしまった。食事中はさすがに外すでしょう。急いで店を出てしまい、置いてきてしまった。

これはかなり慌てた。なにせ視線が厳しいし、自分自身も気をつけたい気持ちが強い。コートのフードを被り、できるかぎり口元まで当たるようにしてホテルまでの道を急ぐことにした。しかし地下鉄を二駅ほど乗ると、プレッシャーに屈し降りてしまった。

駅のコンビニで「マスク、ありますか?」と聞いた。店員のおばさんの返事。

「ないわよ。2日にいっぺん、少し入荷するだけ」

韓国でもマスク不足の問題は大きく報じられている。慌てて薬局に飛び込むと、なんとか使い捨てではない布製のマスクが4500ウォン(約450円)で売っていた。「防寒用」と大きくパッケージに書いてあるから売れ残っているのだろう。間にティッシュをはさんで着用し、対処した。

息もできない。なにせ呼吸する自由も制限されている。同じように、日本でもこの状況は苦しいでしょう。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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