【韓国サッカー】W杯予選での”平壌遠征”を控え早くも盛り上がり。現地での”殺せエピソード”も

W杯予選で10月15日に対戦する韓国と北朝鮮。写真は2017年E-1選手権時。(写真:つのだよしお/アフロ)

来月の15日、サッカー韓国代表が平壌遠征に出向く。

2022年カタールワールドカップアジア2次予選グループH第3節、北朝鮮―韓国@平壌、15時30分キックオフ。

これがもうすでに、韓国では9月末の時点で盛り上がっているのだ。KBSニュースは9月28日の時点で関連ニュースを報じ、”大きな話題”と言及した。

男子サッカーフル代表の平壌遠征は、1990年10月11日に現地で行われた南北統一サッカー以来。これは親善試合だったため、フル代表が公式戦を当地で戦うのは史上初だ。

29年ぶりの遠征は、8月2日のAFC(アジアサッカー連盟)のドローにより決定した。2次予選H組でレバノン、トルクメニスタン、スリランカとともに南北が居合わせたのだ。

近年では、2010年南アW杯予選で2度に渡り同組となったが、当時は北朝鮮で試合は開催されなかった。FIFAの慣例である両国国旗の掲揚、国歌斉唱を北側が受け入れなかった。韓国側もこれを承認せず、AFCの仲裁により第三国(上海)での開催となった。

2013年ウェイトリフティングアジアカップ時のニュース。

その後、2013年のウェイトリフティングのアジアカップが平壌で開催された際に、史上初の「北朝鮮での太極旗(韓国国旗)掲揚」があった。それまで北側は、仕方なく国際大会の中継などで韓国国旗が映る際にはモザイク処理をしてきたという。聯合ニュース系の「YTN」は当時の変化について「権力継承から時間が経ち、金正恩が国内の体制に自信をもった証では。海外に対しオープンな姿勢を見せるなか、韓国に対しても同様にあろうとしている」「ここから国際大会を誘致する意思の現れでは」と報じた。

さらに2017年4月7日には、女子代表が2018年女子アジアカップ兼2019年女子ワールドカップ予選のために平壌(集中開催)に遠征。選手23人、スタッフ50人、メディアも10人が同行した。この時は5万観衆の圧倒的応援のなか、相手のPK失敗もあり、”事実上の決勝戦”を1-1のドローで終えた。

2017年当時の試合の様子。今回の南北戦も同じスタジアムで行われる。

平壌での南北戦がどういったものになっていくのか。現地報道から探っていく。

韓国代表パウロ・ベント監督「できる限り直前の現地入りを」

8月2日にグループ分けが決定後、韓国国内で公式的な遠征に関する進捗状況が報じられるまでじつに1ヶ月がかかった。9月2日、韓国政府の統一部イ・サンミンスポークスマンが状況を発表した。

「韓国側の準備状況と意見を北側に伝え、答えを待っている状況」

やりとりは、AFC(アジアサッカー連盟)が仲介役となって進められてきた。韓国政府と大韓サッカー協会が韓国国内の状況をとりまとめ、AFCに通告。その後AFCが北と交渉する、というものだ。

この時期の平壌は、訪問するには”ハイシーズン”だが。昨年9月中旬の市内/筆者撮影
この時期の平壌は、訪問するには”ハイシーズン”だが。昨年9月中旬の市内/筆者撮影

イ・サンミンスポークスマンはこう続けた。

「選手団の試合までの動き、中継など試合に関することは大韓サッカー協会とAFCが北側と協議中と承知している」

12日には、韓国代表のパウロ・ベント監督(ポルトガル)が平壌遠征について言及した。

「できる限り直前に現地入りすることが原則だと考えている」

勝ち点3を獲るためには、サッと現地に行って、サッと引き揚げることがプラスになる、と。

北側の連絡の遅さに、韓国側が「先手」

試合に関する続報が出たのが、9月17日だった。

大韓サッカー協会側が「まだ北側からの答えはないが、正常な形で(平壌で行われるもの)として準備中」と明らかにした。さらに「追加でレターを送り、北側の意思を確認中」とも。

試合まで1ヶ月を切っても決定がなされない。北側の返答の遅さにしびれを切らしているところを伺わせた。

また、韓国側の要請事項の一つは、北に入るルートに関するものも含まれる点が明らかになった。ベントの言葉から推測するに、中国を経由せず、ソウルから直行で行きたいのでは。そう受け取られた。

23日、ついに平壌開催決定。しかし課題もまだまだ多く……

その後、24日に平壌開催の決定がAFCから発表となった。23日にマレーシアでAFCと北朝鮮サッカー協会副会長が試合に関する協議を開催。翌日に発表されたのだ。この席で、北側が「韓国を他チームと同等に待遇する」と約束したことが明らかになっている。

26日にはメディア団の平壌遠征同行取材のくじ引きが行われた。「当せん」の人数(メディア)は10人。2017年の女子代表訪北時と同じ数字になった。

とはいえ、今月末時点でまだまだ未知数、あるいは新たに噴出する問題も多い。

29日時点では、選手の北朝鮮側への入国ルートが確定せず。直接南北の国境を越えるのではなく、中国経由となった場合、韓国選手団一行は中国のビザが必要となる。このため、大韓サッカー協会側は急な招集がありそうな選手を含め、中国のビザの申請準備を終えている。大韓サッカー協会はまた、「直航便、あるいは陸路での現地入りが第一希望だが、現実的には中国経由になると考え準備してきた」とも明らかにした。

また29日には「聯合ニュース」などが代表サポーターグループ「レッドデビル」の現地応援の可能性を報じたが、この点もまた「北側の回答待ち」(韓国政府統一部)。FIFAの規定ではアウェーサポーターを受け入れる義務については規定がない。ちなみに韓国在住の韓国国籍所有者が北朝鮮を訪問する際の法律は「国家保安法」によって定められている。合法的な訪問時には必ず韓国政府統一部が発行する「訪問証明書」の発給を受けなければならない。今回のW杯予選の場合、「韓国側は発給の準備はある。後は北側の受け入れ意思のみ」という状態になっている。

サポーターの北朝鮮訪問の可能性を報じる「YTN」

いっぽう、試合の中継関連では「北側の無理なリクエスト」が報じられた。これまで試合の生中継の前例がなく、また9月5日に行われたW杯予選レバノン戦も録画中継だったことを理由に、同様の中継を要請。また放映権料に関してもレバノン戦の7倍水準、通常の4~5倍の水準を求めてきているという。

こういった状況にインターネットメディア「デイリーアン」が一撃を加えた。

「北朝鮮に困らされる大韓サッカー協会、韓国政府の目ばかり気にしている?」

北側の諸般の返事が遅い態度について「生ぬるい」とし、そこに意見できない協会を批判した。「南北親善を推進する韓国政府に気を遣うあまり、抗議ができずにいる」と。

試合の歴史的意義もさることながら、監督以下チームは目の前の勝ち点3を狙いに行く。その過程はかなり厳しいものになるのではないか。苦労は準備過程にだけあるのではない。試合会場の金日成競技場のピッチは人工芝。圧倒的な相手の応援。

地上波KBSは、2017年に女子代表として同会場でのアジア杯予選兼W杯予選に臨んだチ・ソヨン(元INAC神戸/現チェルシー)らのこんなコメントも紹介している。

「はじめて5万人が入るスタジアムで試合をしました。試合前、通路のところで私は”大韓民国、勝とう!”と大きな声で言ったんです。すると相手の背番号8が”殺していこう!”と返してきた。なんだか気合勝負で負けている気がして、”こっちも殺していこう!”と返したんです。そうしたら、韓国のチームメイトから”何よ、殺すまではないじゃない?”とツッコミが入って。そこで逆に緊張が解けたというのはありますね」

「相手は試合中、全般的に”何よあんたたち、ここがどこだか分かってるの?”という態度で出てきているのを感じました」

 同コメントが報じられたKBSニュース。組分けが決定した瞬間のパウロ・ベント監督の様子も

今年に入り、南北友好の雰囲気も出てきたかに見えたが、簡単ではないことも多い。9月3日、韓国メディア側から韓国政府統一部スポークスマンに対して「今回の試合が、停滞している南北関係のテコ入れになると思うか」という質問が飛んだ。答えはこうだった。

「南北関係自体を見守らないといけない。これをモーメンタム(推進力)にしよう、などと言及する段階ではない」。

―了―