【現地レポート】近頃テレビでよく見る韓国のデモは、「反日ではない」!? 背景を紐解く 

「NOアベ」8月10日、ソウルの日本大使館前でデモを繰り広げる韓国市民団体。

最初に断っておくと、筆者が取材に出向いた8月7日から11日までの韓国の様子は「今まで通り」だった。

現地ではむしろ、政治ネタのジョークは反応がよく、韓国人の主婦たちとのランチタイムの会話では「俺たち、お互いもうホワイト国じゃありませんね」という話がよくウケた。

光化門にて。すぐ横で保守・右派市民団体が集会をするなか、子どもたちは水遊び/本稿写真すべて筆者撮影
光化門にて。すぐ横で保守・右派市民団体が集会をするなか、子どもたちは水遊び/本稿写真すべて筆者撮影

また「夏休みの日本のゴルフ旅行を取りやめにした」という会社経営者に50代男性に会ったが、「自分は行きたかったけど、周囲の目があるからね……」とぼやいていた。

筆者が「8月10日のデモを取材に行く」と伝えると多くは「あれ、一部の人がやっているものでしょ?」という反応だった。

ここから書くそのデモの話は、主催者発表で1万5000人規模が参加した「反安倍」「JAPAN BOYCOTT」の集まりでの話だ。韓国の人口約5100万人のうち0.03パーセントの話。革新・左派系の市民団体連合がこれを推進している。

近年、左派のデモで参加人数が最大規模まで及んだテーマが08年の「BSE(狂牛病)問題」だった。保守・右派系李明博政権の管理体制を糾弾するもので、最高潮に達した08 年6月10は主催者発表で70万人が集まった。ここまで来ると広く一般層まで強いインパクトとして残るが、その水準には至っていない。8月15日の今日、事前に大規模のものをやると告知していたからもう少し人が集まるかもしれないが。

さらに言うならば、ソウルの中心街光化門周辺でデモをしているのは、革新・左派系の市民団体が主導する「反安倍デモ」だけではない。保守・右派系の「反文在寅大統領デモ」も行われている。

朝鮮日報本社前で、警察隊を挟んで左右の市民団体がデモ・集会を行う。これもまた現在の韓国を象徴する場面だ
朝鮮日報本社前で、警察隊を挟んで左右の市民団体がデモ・集会を行う。これもまた現在の韓国を象徴する場面だ

もうひとつ言うと、そのデモが行われている真横で、子どもたちが水遊びをしていた。殺伐としているわけでもない。

もちろん近くに行き「日本に行きません、買いません」「我々民衆の力で朴槿恵政権を倒しました。次は安倍も倒します」といった主張を聞けば、気持ちは穏やかではないが。自分たちの国のことを悪く言われているのだから。なんで海外の政権をここで倒す、という話になるのかと。

日本からの解放記念日である「光復節」の8月15日には左右の大規模のデモが行われるという。過激にやる人がいれば、それは両国メディアに切り取られるだろう。人口の数%が加わったのみだとしても。「なんにもなかった」という話はニュースにはならないからだ。

デモの行進に入って話を聞く。「まずはありがとう」

前置きが長くなった。

8月10日の「反安倍」「BOYCOTT JAPAN」を取材してきた。ソウル市安国洞の日本大使館で1時間半ほど集会が行われた後、朝鮮日報本社前までの行進へと続いていった。

「NO アベ」と書かれた横断幕。デモ行進前の集会会場にて
「NO アベ」と書かれた横断幕。デモ行進前の集会会場にて

今回の核心部分は日本の一部でも報じられている通り、これが「反日デモ」とは示されていないという話だ。

デモは中後列になると、人の密度も緩やかになり、中に入って話が聞ける。「日本から来たんですけど」と切り出し、幾人かに話を聞いた。50代と思しき男性はまずこう切り出した。

「まずは日本から来てくれて、ありがとう。感謝します」

そう言い、「徴用工問題」などでの主張を続けた。

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もちろん、ピリッとする場面もあった。50代女性とはこんなやりとりがあった。

――ではいったい、日本はどうすればいいのか。そんなことを思いますよ。

「そこのところは私達も、具体的にどうしろというのは考えきれていない部分がある。だからこそ、政治に任せるのよ。私達はそれを求め、雰囲気を作り出すためにここに出てきているの」

――こちらはじっとしているだけなのに、韓国が怒り始めて、問題がどんどん大きくなって。日本ではそう感じていますよ。

「あら? そこからもう話が合わないわね。日本が先に仕掛けてきたんでしょう?」

――先に韓国から徴用工の問題で、韓国最高裁の判決が出たという話が来た。このことについて話し合いましょう、と幾度も日本側が問いかけても、返事がありませんよね。

「どちらが先に仕掛けたか、そのことはいいでしょう。問題は日本側にあるんだから」

――徴用工の個人請求権の話ですか? 日本では1965年の日韓基本条約で解決したと認識されていますよ。

「何言ってんの? あれは解決したんじゃなくて、先延ばしにしただけなの。ファクトをちゃんと調べなさい」

話が噛み合わない。しかし、「日本人です」と切り出して話を始めても彼女や周囲が威圧的な態度を取るわけでもなかった。

「左寄りの反日」、「右寄りの反日」

こういった今回の韓国取材を通じ、「日本であまり紹介されていないな」と強く感じる点があった。今回の事態が「韓国の革新・左派系の”反日”」という点だ。

韓国には「右寄りの”反日”」と、「左寄りの”反日”」の二種類がある。これを整理すると、2つの点も整理できる。

「反安倍≠反日の理由」

「(革新・左派系)文在寅政権になって、なんでこんなに一気に問題が起きているのか」

筆者はここ5年間で韓国の左右双方の市民団体の代表にインタビューしたことがある。「ああ、考え方が違うんだな」と感じる機会になった。

まずは、右派。2014年に産経新聞元ソウル支局長の加藤達也氏を告訴した保守・右派系市民団体の一つの代表者(30代の男性だった)。雑談のなかで、慰安婦問題に話が及ぶと、こう話した。

「明治維新以降、大国と戦っていった当時の日本というのは、本当にカッコいいと思いますよ。自分が女性だったら、惚れると思います。カッコよくて、頭が良くて、お金もある。だからこそ、なんで慰安婦のおばあちゃんたちに償いをするという、小さなことができないんだと思う。それさえできれば、未来志向的な関係が築けるのに」

反日の思想に違いはない。ただし、過去の日本の姿について同じ右派の立場から理解はなくもない、というスタンス。

いっぽう、左派は「日本悪し」の一点張りの印象だった。太平洋戦争犠牲者遺族会のヤン・スニム氏に話を聞いた際、この主張が繰り返された。

「私達も日本との正しい関係を作りたいと思ってやっている。でも日本が加害者で、韓国は被害者。このことは明確でしょ?」

徹底的に許さない。そんなスタンスだった。

「左寄りの反日」と、文在寅のバックグラウンド

「反日じゃない」とタイトルで打ちながら、「反日」の説明になってしまった。ここから細かく「反安倍」≠「反日」の話にしていこう。

韓国の左右に何の違いがあるのかというと、左側は「反帝国主義」という点が徹底している点だ。

この点は日本の統治下の時代、抗日運動で左右が分裂したところから始まる。言ってしまえば、抗日パルチザン運動にルーツのある北朝鮮とも相通じるところがある考え方。

「帝国主義と戦う=『日帝』と戦う=このことにより民族がまとまる」

という考え方だ。左寄りの民族主義ということ。

この立場からすると、「帝国主義日本」の復活の兆しに強い警戒を見せる。改憲などの動きだ。つまりこれが「反安倍」の根底にある。今の日本の一般市民が許せないのではなく、帝国主義日本の復活が許せないのだ。

加えて、左派の立場から守るべき労働者たる徴用工の問題について、日本の安倍晋三首相が「1965年の日韓基本条約で解決済み」と一蹴する点も(あくまで韓国側の意見からすると)許しがたいこと。そういう考えになる(ここのところを書き始めると長くなる)。

さらに言うと、文在寅大統領が「人権派弁護士出身」だということが挙げられる。師匠ともいえる盧武鉉前大統領と同じ釜山の弁護士事務所で活動し、その後政治家に転じた。徴用工問題に関して後ろに引くような姿勢を簡単に見せるとは考えにくい。

今回の取材中、「自分は保守」という韓国人男性(40代/会社員)と話をした際、今の日韓関係に処する自国内の雰囲気をこう嘆いていた。

「まったく、いつまで”昔の日本”と戦うんだろう。”昔の日本”には何を言ってもいいと思っているからね……」

国内の激しい左右対立も背景に。キーワードは「親日派清算」

もうひとつ「(革新・左派系)文在寅政権になって、なんでこんなに一気に問題が起きているのか」という点について。

この風潮を増長してきたのもまた「左右」の話だ。韓国社会の近年の深刻な問題となってきた「左右対立」が背景にある。

2012年の大統領選挙時から、この時当選した朴槿恵政権時代末期(2017年)にこの風潮は最高潮に達した。この時、保守・右派の朴槿恵候補は革新・左派の文在寅候補に得票率51.6%:48.0%の僅差で勝った。投票数でいえば108万票の差がついたが、「国内が真っ二つに割れた」と言える状況だった。2017年の朴槿恵前大統領弾劾判決の時期には筆者自身、現地の人と話しながら「この人は右か、左か」を探りながら話をしなければならないほど、気を遣う問題になっていた。

現在政権を握る”左”は”右”と常に戦わなければならない。次の国会選挙(来年4月)、大統領選挙にも勝たなくてはならない。さもなくば大統領は権力を去った後に苦しい目に遭ってきたという歴史もある。

筆者作成
筆者作成

この戦いのキーワードに、「帝国主義日本」がある。「親日派」の話だ。左右関係ない韓国社会の絶対悪だが、近年は左側が右側を撲滅するために使われる。

話が少し徴用工のことから脱線するが、「韓国の左寄りの反日」を説明するにあたり、これは外せない。

この言葉が出てくると「また日本を恨むという話か」というイメージを持たれがちだが、厳密に言うと違う。

2005年の盧武鉉政権時代(つまり文在寅と同じ革新・左派政権)に親日派処罰の発端となる動きがあった。「親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法」が施行された。第一条にはこう記されている。

親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法(第一条)

「日本帝国主義の殖民統治に協力し、わが民族を弾圧した反民族行為者が、その当時、蓄財した財産を国家の所有とすることで、正義を具現し、民族精気を打ち立てることを目的とする」

つまり、「日本による植民地支配下の朝鮮半島で、日本の統治に協力するために当時の朝鮮人を苦しめた人」を指す。

「親日積弊 清算せよ」とのプラカードを掲げる革新・左派系の市民団体
「親日積弊 清算せよ」とのプラカードを掲げる革新・左派系の市民団体

筆者は2010年の秋に、食事の席で同席した人からこんなぼやきを聞いたことがある。

「僕のおじいちゃんは、日帝時代のソウル駅駅長だった。それだけで”親日派”と言われることがとても歯がゆい。祖父はただ、その時代下で出世しようと頑張っただけなのに」

厳密にいうと、たんに日本統治下の公的職務であるソウル駅駅長だったという点だけでは「親日派」にはならない。そこで出世のために”朝鮮人を苦しめた”という証拠があった時点で「親日派」ということになる。

つまり、これは「反日」のようにも見えるが、実は韓国内の問題なのだ。

文在寅政権はわざわざキャンペーン「積弊清算(チョクペチョンサン=せきへいせいさん)」を組み、過去にさかのぼって親日派の処分を行っている。「積弊(せきへい)」とは「長い間つもり重なった害悪」という意味だ。

逆に右派の団体が「文在寅側こそ親日派」と煽る。国内の親日派を巡る議論の激しさを感じさせる、今年8月、ソウルにて
逆に右派の団体が「文在寅側こそ親日派」と煽る。国内の親日派を巡る議論の激しさを感じさせる、今年8月、ソウルにて

では、これが徴用工問題とどう繋がるのか。この問題は、盧武鉉政権時代の05年に一度提起され、一度沈静化した後に、現政権となり再び裁判が進んだ。文政権は「日本との関係悪化を懸念し、朴槿恵政権が不当に裁判を遅らせた疑惑がある」とみなしているのだ。

そこは必ずやメスを入れておかなくてはならない。文在寅がそう考えてもおかしくはない。政敵である保守・右派系の朴槿恵前大統領がやったことなのだ。朴槿恵は日本統治下で日本軍将校だった朴正煕前大統領とともに「親日派」の最たるイメージとして認識される。のみならず、1948年就任の初代大統領李承晩から建国から1997年の金大中政権誕生まで政権を握った保守・右派は、反日を謳いながらも日本との関係性のなかで既得権益を握り続けてきたとする。これもまた、今日の格差社会を生んだ背景のひとつ。徴用工問題は「絶対に叩いておくべき保守・右派政権の負の遺産」でのひとつでもあるのだ。

デモ隊は最後に朝鮮日報前へ。自国メディア前で叫んだ内容は?

つまりは、「反安倍」「BOYCOTT JAPAN」のデモをやっている韓国の革新・左派系臣民団体は

(1)反帝国主義

(2)国内の左右対決

を戦っている。とくに後者については、徹底的にやり抜いておかなくてはならない。だからデモのタイトルを「反日」とは打たない。

「安倍(日本の政権)≒韓国の保守・右派政権=帝国主義とその協力者≠現在の日本(の一般市民)」

”今の日本”には矛先が向かない、”反日”。逆説的な構図が生まれている。

とはいえ、先に書いたとおり現場に行けば鋭い雰囲気は感じる。さらに「日本製品不買運動」「日本旅行取りやめキャンペーン」については、ちょっと今回の話のみではカバーしきれないのも確かだ。こうなると1965年の日韓基本条約の話から掘り下げ直さなくてはならない。

筆者自身は韓国語で直接情報を摂取しているのだが、もちろん全てに合点がいくわけではない。よく分からないと思うこともある。ただ、あちらに反論するなら、もうちょっと相手の言い分も聞くべきだ。昨今の日本国内の雰囲気から、そんなことを思う。せっかくやるんなら、いい喧嘩をすればいい。

10日のデモの最終目的地は、光化門の朝鮮日報本社前だった。日本メディアの支局ではない、自国のメディアへと向かったのだ。そしてデモ隊はこう叫んだ。

「朝鮮日報、廃刊せよ! 廃刊せよ! 廃刊せよ!」

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この日のデモで配られた資料によると、保守系媒体の朝鮮日報は3つほど許せない表現を含む記事を掲載したという。

「韓国はどのツラを下げて日本の投資に期待をしているのか」(2019年7月4日日本語版記事)

「今、日本には華やかだった過去を夢見る指導者が登場している(安倍首相のこと)。総理としての彼の歩みは伊藤博文に比せられる」(2019年6月28日コラム)

「反日で韓国を潰し、日本を助ける売国文在寅政権」(2019年7月4日日本語版コラム)

これらを「親日派の論理を流布している」として糾弾したのだ――。文在寅大統領にとっての次の”大きな選挙”は来年4月の韓国国会選挙。そこまで状況はどう推移していくだろうか。