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【日韓比較】サッカー日本代表監督交代劇。西野でも、ハリルでもあまり変わらないこと

2017年12月7日、E-1サッカー選手権時のハリルホジッチ監督(写真:田村翔/アフロスポーツ)

サッカー日本代表のハリルホジッチ前監督解任、西野朗新監督就任についてのストレートニュースは出揃った頃か。ここでひとつ、この件について思いっきり斜めの角度からの視点を。

日韓比較だ。

いったいこの国と比べた時、今回の出来事はどんな意味があるのか。韓国の比較から日本の現状をどう考えるべきなのか。

9日の第一報の後、即座に筆者のもとに韓国メディア2媒体から問い合わせがあった。このうち、一般紙のスポーツ担当に逆質問してみた。

「このテーマのどういった点に関心があるの?」と。さすが「ブラジル戦より日本戦が盛り上がる」という国。返事には”なかなか”の分析が含まれていた。

「韓国は歴史上、W杯大会での結果に対し、協会会長が責任をとって辞任したことがありません。技術委員長ですら一度だけです。辞めるのは監督だけ。例外は2014年ブラジルW杯後にホン・ミョンボ監督が辞任し、これと共にホ・ジョンム技術委員長が辞したのみ。ホン監督はもともとロシアW杯までの契約となっていたが、ブラジル大会後の過度な報道のために急遽辞任した。これに伴って辞めざるを得なくなったのです。日本では監督と協会側の責任体制がどうなっているのか。そこに興味がありました」

「日本が98年フランスW杯以降、オシムとアギーレを除くと5人の監督に指揮を任せてきた間、韓国は実に13人もの監督がその座に就きました。韓国と比べた時、日本は監督に対して契約期間を保証してきたと言えるのです。その間にテストを重ね、結果を本大会にぶつけてきた。これは日本サッカー界の哲学だと思ってきましたが、今回、そうではない事態が起きていますよね」

近年、韓国メディア所属で日本の現場にまで食い込んで取材する記者はいない。それゆえ、インプットはインターネットからというところだろうが、アウトプットはかなりのもの。あちらがこちらと比べて自らを分析するのなら、こちらもあちらとの比較からの分析を。

スタイル。韓国にはあって、日本にはないもの。

日韓比較から出てくる話のうち、いくつかはもうすでに他でも論じられている。「日本サッカーのスタイルとはいったい何だ」という話。なんで協会サイドや監督から「こうしたい」という話がはっきりと出てこなかったのか、という意見だ。

個人的にも、9日の田嶋幸三会長、12日の西野朗新監督の会見ではこれくらいのことを言い切ってほしかった。「ハリルホジッチ監督の縦一辺倒にも見えたスタイルは結論を見るまでもありませんでした」「やっぱりショートパス主体のサッカーが日本スタイルだと痛感しました」「今大会はこれをやります」。

両会見での両者の言葉はスッキリしなかった。「解任は総合的な判断」(田嶋会長)。西野監督は「ハリルホジッチのスタイルを引き継ぐのか」という質問に対し、「日本化されたサッカーをやりたい」とは口にした。スポーツ紙の見出しにもなった内容だが、じつは質問に対する答えの中盤でサラっと口にしたに過ぎない。文字数にして約1000字のうち、410文字目あたりだった。いったい「日本化」とは何なのか。「選手の良いところを引き出したい」とも口にしていたが、それが日本化なのか? 協会側の考えがさっぱり分からない。

まあそもそもは2010年の南ア大会後に原博実技術委員長(当時)が掲げたのは「攻守のバランス」だったのだが。守備に偏りすぎず、攻撃もする。そして2014年ブラジル大会後のアギーレ監督就任時も同様に原委員長は「彼なりのバランス」という話だった。この件を語り始めたら一本原稿が書けるので別の機会にでも。

じつは現在の韓国も同様に「外国人監督のコミュニケーション不足から国内監督にバトンタッチ」という流れでシン・テヨン監督が指揮を執る。しかし「韓国のサッカースタイルとは何か」という話にはならない。屈強なFWやサイドアタッカーをベースに長いボールを入れて攻める。精神力や勝負欲では負けない。これが韓国サッカーのスタイル。

現地のネットスラングでは「ポン・サッカー」ともいう。ポン、とはロングキックが飛んでいく際の擬態語だ。監督が変わるたびに出るのは、そこに何かを足すか、戻すかという議論があるだけだ。現在欧州トップシーンでアジア選手有数の力強さを見せるソン・フンミンの得点力に賭けるスタイルは「やや元々のスタイルに戻す」といったところか。くしくも本田圭佑が先の欧州遠征で「原点回帰する場所がない」という話をしていたが。

昨年12月、E-1で来日したシン監督。日本に4-1で勝った試合が「ハリル解任の導火線に火をつけた」と現地メディアは報じた。筆者撮影
昨年12月、E-1で来日したシン監督。日本に4-1で勝った試合が「ハリル解任の導火線に火をつけた」と現地メディアは報じた。筆者撮影

日本は2015年末に霜田正浩技術委員長が「日本サッカーのアイデンティティー確立」という目標を掲げた。しかしもう彼もその職にない。いつまでこの話を続けるのか、あるいは「何でも採り入れられるのが日本サッカー」とするのか。そもそもは06年に就任したイビチャ・オシムによる「サッカーの日本化」が結論まで見られなかったところにこの議論は始まる。12年間も結論を出せないのか。一般的には自らが何者かを理解して物事を進めたほうが上手く進むと思えるが。

余談が過ぎた。現状ではただの愚痴だ。先のことを考えよう。日韓比較からこの先について言えること。それは「W杯本大会でのチームの鮮度」の話だ。

サッカー日韓比較の基本中の基本。「あまり変わらないもの」

近年の日韓両国のワールドカップ本大会での成績は大きな違いがない。この話が日韓比較の重要なデータだ。「グループリーグ敗退か突破か」という結果に絞れば、両国の結果は似通っている。

98年敗退、02年突破、06年敗退、10年突破、14年敗退。

同じ大会で敗退し、同じ大会で突破している。02年大会では突破後の結果が大きく違ったが。

読者のなかには”日本は近年、韓国よりもいい時代を過ごしてきた”とのイメージは多少あるのではないか。あるいは「韓国、やたらと揉めているな」というイメージも。日本は古くは99年のナイジェリアワールドユース以降、多くの国際舞台で韓国の結果を上回ってきた。アジアカップ優勝3回、これに伴い出場したコンフェデレーションズカップでは02年、05年、13年ともに世界強豪に善戦した。

その間、韓国は多くの時間を”ゴタゴタ”に費やしてきている。上記の通り、98年以降指揮を執ったフル代表監督は13人。ブラジルW杯予選では得失点差の1ポイント差で辛くも予選突破を決める事態にまで陥った。一定の成績で徴兵免除のあるアジア大会やオリンピックでは日本を上回る結果を残しているが。

でもW杯本大会での結果は変わらない。重ね、このデータを基に話を進める。

韓国との比較で出てくる「日本にとってW杯本大会で足りなかったピース」

では日本が初出場だった98年を除き、02年大会以降に何が起きてきたのか。重要キーワードはこれだ。

”チームの鮮度”

日本は準備段階の4年間トータルでいい結果を残しながら、結局は本大会では韓国に「追い上げられている」のだ。揉めに揉めた挙げ句、およそ本大会1年前に「もう文句を言うのはよそう」と団結する韓国の勢いが勝る。02年大会のかのヒディンク監督時代もそう、06年(ディック・アドフォカート)も14年(ホン・ミョンボ)も本大会で指揮を執る監督はおよそ1年前に就任している。02年は言うに及ばず、厳密にいうと韓国の成績のほうがほんの少し上だ。06年、日本は勝ち点1でグループリーグ敗退したが、韓国は勝ち点4(トーゴに勝ち、フランスと引き分け)を挙げた。14年はともに勝ち点1の厳しい結果だったが、総得点で韓国が1上回った(日本2、韓国3)。

この話、たんなる偶然、こじつけでは終わらない。

2010年南ア大会は逆の現象が起きた。韓国は大会ホ・ジョンム監督の下、MFパク・チソンらの活躍でアジア予選を無敗突破。大会前の壮行試合でも日本をアウェーにて2ー0で降した。いっぽうの日本の岡田武史監督の下での直前の守備的サッカーへの転換は繰り返すまでもない。この大会、両国ともにベスト16入りしたが、より直前で変化した日本の結果が上回った。決勝トーナメント1回戦で韓国はウルグアイに90分負け、日本はパラグアイにPK戦負け。PK戦の負けは公式記録上ドロー。ちなみに日本がW杯本大会で韓国の成績を上回ったのはこの一度のみだ。細かすぎるか。

つまり、こと日韓比較からの視点でいうと、準備期間の結果はあまり本大会での保証にはならない。結果が出るのは「大会直前まで変化・模索を続け、大会中にチームの鮮度が高いほう」ということだ。あくまで日韓観点に限った視点だが。

”チームの鮮度”を考えると、監督による違いはなかった?

そう考えると、今回のハリルホジッチ-西野の監督交代劇は”変化”や”刺激”により鮮度を保つという文脈にはなんとか当てはめられる。

ただし、監督が替わるにせよ、替わらないにせよ、この点で大きな違いはなかったとも見る。ハリルホジッチはむしろそれをよく知る監督だったのではないか。主力のシャッフル(これはやりすぎの感があったが)に、最終エントリーの二段階発表。変化、刺激を与え続けるための策だったと考えうる。また前回大会、アルジェリア代表を率いた際には大会第2戦で初戦から先発メンバーを5人入れ替え、韓国に4-2の大勝を収めて勢いに乗った。

いっぽう、今回の田嶋会長、西野監督の会見での様子からはとてもこれを求めた積極的な判断には見えなかった。曖昧な物の言いから「後手の判断」との印象がある。だからフラストレーションが溜まるのだろうが。

合わせて、日韓比較から見ても今回の日本の4年間は異例のもので、「未知の世界」だからこそ不安・不満が溜まるというところもあるだろう。

韓国よりも監督交代の回数が多かった。さらに日本側(つまりアギーレ、ハリルホジッチ両監督時代に)に”ピーク”がなかった。つまり、過去のアジアカップ優勝やコンフェデレーションズカップでの善戦のように「この時は強かったな」というイメージがない。強いて言うなら、W杯アジア最終予選で史上初めてオーストラリアを破ったゲームくらいか。

では、ロシアW杯をどう観るべきなのか。「新しくないと意味がない」

立腹、不安、不満は当然だが、こちら観る側としても経験値を上げる機会にしなければならない。監督が誰であれ、どのみち大会直前の変化で「鮮度」を保つことは不可欠だったのだ。

安定がそんなに好きか? 予定通りに物事が進まないことがそんなに不満か? そんな話でもある。日本は過去20年間、成績不振によるA代表監督の更迭を行ってこなかったが、この判断はいつかやるべきことだった。そして、繰り返しになるが準備期間で上手く行ってきたことが、本大会の成績保証になってこなかった。韓国との比較から言えば。

西野朗監督には、どうかアトランタ五輪時に言われた「選手との亀裂」のトラウマに囚われることなく、堂々と「変化を与える」役割を果たすことを求めたい。観る側は「日本化されたサッカー」とは何ぞやというツッコミの準備をぜひ。

ロシアW杯への挑戦のタイトルは書き換えられたのだ。ハリルホジッチ時代に言われた「縦に速いサッカー」の実験から、「近年の4年間とはまったく違う時間の過ごし方を知ること」へ。決してスマートな移行ではなかったし、サッカー産業全体の危機感を考えると、のんびりと実験をしている余裕もないが。

なにか新しいことをやって、その成果を論じる。これを積み重ねることを歴史というのだ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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