【平昌五輪現地ルポ】南北騒動に疎外される現地の声。「やったことがないから、何が起きるか分からない」。

昨年末に開通した高速鉄道KTX・平昌駅前。田園地帯にポツンと建つ。

もはや無視できない「南北対立」。北、”不人気大会に協力している”。

市民目線での平昌五輪準備段階のレポートを。そこから東京五輪に観るべきものを探りたい。

そういった考えで開催都市を見てきたが、大会を考える時、本来のテーマから脱線してでもこの点に言及しないわけにはいかなくなった。

”スポーツへの政治介入”

いうまでもない、北朝鮮参加に関する話題だ。大会での南北同時入場、北朝鮮での前夜祭開催、そして女子アイスホッケーでの南北合同チーム結成。これら韓国政府の決定が、韓国社会全体を揺るがす問題になっている。

1月29日夜、「ついに行くところまで行ったか」というニュースが届いた。

北朝鮮 南北合同文化行事の中止通知=韓国「遺憾」

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180129-00000071-yonh-kr(韓国:聯合ニュース)

2月4日に北朝鮮側の観光名所金剛山で開催合意していた行事が中止になった。北朝鮮側が主張する理由は「韓国メディアが平昌五輪に関連して北朝鮮が取っている真摯(しんし)な措置を冒とくする世論を広げている」。

伏線はあった。21日、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は「歴史の汚物箱に放り込むべきゴミメディア」という題目の論評を掲載。これを韓国主要メディアが引用し、報じた。

「情勢悪化により、歴代最悪の不人気大会と記録されうる今回の冬のオリンピック競技大会に、我々が救援の手を差し伸べていることに対して、(※南朝鮮各界が)ありがたみを禁じずにいられずにいる」

※記事を掲載した「中央日報」の注釈。

としながら、韓国の保守系メディアに対して強い論調で批判を加えた。

「北南間の対話の門を開き、関係改善の雰囲気が整いつつある今、南朝鮮で我々に対する保守言論の悪宣伝が度を越している」

メディアが悪い。具体的にはこういった内容だと。

「傀儡保守言論は我々が取っている大様な処置と誠意ある努力に対し、『体制宣伝のためのもの』、『偽装平和攻勢』と悪談を繰り広げている」

「(大会前の南北合同トレーニングが行われる北朝鮮の)馬息嶺スキー場と(元山)葛麻空港について『古臭く、不備な設備』『危険な施設』と根拠のない言い争いを繰り広げている」

韓国の保守系メディア、そしてここには出てこないが、韓国内の保守政党への批難を続けている。

この直前の20日、韓国政府側が国内メディアに異例の報道自粛の申し出を行った。政府関係者が記者団とのブリーフィングを行い、こう発言したのだ。

「南北関係が長い間断絶され、悪化してきた。だからこそ我々の社会でも多様な意見、批判的・否定的意見があって当然だと考える。しかし、現時点で我々がスポーツを通じ、世界平和に寄与しようとするオリンピックの基本精神に戻り、韓(朝鮮)半島の平和定着に向かわなければならないという思いだ。大乗的な次元から北朝鮮の選手団参加問題を見て、メディアも平和的オリンピックの開催成功に協力してほしい。そういったお願いの言葉を伝えたい」

韓国政府が最初に提案し、始まった性急な南北融和ムード形成。これに韓国メディアが反対する。さらに北朝鮮側が敏感に反応。韓国政府は両者からの板挟み状態に。そんな構図だ。

前段が長くなった。

こういった騒動のなか、「開催都市に暮らす人達は何を思うのか」という観点はより端に追いやられることになった。

”平昌”で聞いた、核心を突く声。「やったことがないから、分からない」

”平昌駅”。大会開催地の地名が入る駅を訪ねた。ここではスキー競技が開催される。

田園地帯にポツンと立つ駅。大会のために高速鉄道KTXの駅が新設され、昨年の12月22日に開通した。構内に食事を採る場所はない。12月28日時点でコンビニがオープンしたばかりで、店員にレジの打ち方がレクチャーされていた。

平昌五輪の会場はどうやって行ったらいいでしょう。そこで働く50代前半と思しき女性に聞いた。返事はのんびりしたものだった。

「ああ、こういう質問にも答えられないとね」

平昌駅前の風景
平昌駅前の風景

駅前に降り立つと、一台だけKTXの到着時間に合わせていたタクシーが停まっていた。なにせ行き当たりばったりの行程だ。他に手段もない。運転手に聞いた。

--オリンピックの会場まではいくらくらいですか?

「だいたい1万4000~5000ウォン(1400~5000円)かな」

即決。そうするほかない。

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道すがら、50代と思しき男性の運転手にあれこれと話を聞いた。「大会中は当然のように会場からシャトルバスが出る」という。そういったなかで、ひとつ、核心を突く話が出てきた。

--他のところで地元の方に話を聞いても、「なかなか盛り上がらない」という話になりますね。なぜだと思います?

「何もやったことがないからだよ。やったことがないから、何が起きるか分からない」

昨年11月、「朝鮮日報」が「平昌五輪、まずは国民がムードを作らなければ」という社説を掲載した。北朝鮮参加が議論されるはるか前のことだ。「オリンピックでは安全な大会運営など、気にかけるべき問題は多い。しかしまずは国民の熱気からだ」と。

社説はさらにこう続けた。

「大型スポーツの経験も多い韓国は深刻な運営の未熟さを見せることはないだろう。しかし最も重要な国民の熱気が欠けている」

確かに韓国は、世界最高級のスポーツメガイベントをほぼすべて開催してきた。夏季五輪、サッカーワールドカップ、F-1、世界陸上選手権。

しかし江原道では一度もこれらが開催されてこなかった。

平昌五輪の開催目的のひとつに「地域の均衡発展」がある。だからこそ江原道・平昌でやる。ソウルの目線からは「我々には経験がある」「盛り上げれ」という。しかし当事者は「よく分からない」と。そのギャップは韓国国内ですら見過ごされている。

いっぽうで日本の首都圏で暮らす筆者自身には、02年ワールドカップ時のイメージがあるから、オリンピックへの感情(期待、不満)も抱けるのかもしれないな、とも感じた。

スキー競技の会場「フェニックスリゾート」、そして平昌駅への帰り道でも地元の声はネガティブなものが目立った。

大会会場の真横の食堂で暖を採りながら食事をしたが、そこで女性の経営者はこう嘆いていた。

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「大会前一ヶ月から期間中にかけて、ここ一帯の食堂は警備の問題でお店を閉じなきゃいけないのよ。だから景気もなにもあったもんじゃない。大会前だからって、お客さんが増えるわけじゃないし」

大会会場のお膝元では、経済効果ゼロ。警備の関係では仕方がない部分もあるが、結局はそういう話だった。

スキー会場「フェニックスリゾート」内。大会前はスノーボード、スキーの客で溢れていた
スキー会場「フェニックスリゾート」内。大会前はスノーボード、スキーの客で溢れていた

帰りのタクシーではこんな話も聞いた。

「確かにKTX(高速鉄道)は通った。でも車で2時間40分のところが2時間になるということだろ? ここに住む人はみんな車で移動するからそんなに大きな恩恵はないと思うな。韓半島の国土で高速鉄道を東西に延ばしてもあまり意味は無いよ。将来、南北が統一された時のことを考えたら、南北につなぐことを考えたほうがよかったんじゃないかな」

現状ではっきりと見える「開催効果」はKTX開通かに思えたが、これすら否定する声が出てきたのだった。

東京・平昌比較。2020のために見ておくべきこと

東京と平昌、趣を異にする部分が多い。

夏季五輪と冬季五輪ではまず、競技場の立地条件が違う。都市部から大きく離れた場所で開催される。東京に暮らしていると、時に建設中の新国立競技場を目にすることもあるだろう。それだけでも大会へのリアリティがもてる。

建設中の新国立競技場@東京・千駄ヶ谷
建設中の新国立競技場@東京・千駄ヶ谷

首都開催と、地方都市での開催という意味でも違う。首都東京を中心に全体に活気を拡げていこうという考え方と、平昌開催の大きな軸「国内の均衡発展」は違う考え方だ。

では、2年後の夏季五輪の開催地として、今冬の平昌冬季五輪から何を観るべきか。

ひとつには冒頭の「政治介入」。起きてはならない事態が起きたが、これがどんな結果をもたらすのか。

もうひとつ、東京五輪の基本コンセプトの実現について観るべきところがある。

2020年東京五輪には、組織員会が提唱する3つの軸がある。

■全員が自己ベスト

■多様性と調和

■未来への継承

最終目的は「未来への継承」だろう。小池百合子東京都知事が口にする機会を度々報じられる「レガシー」。直訳すると「精神的・物質的遺産」なのだという。

これについて、組織委員会は細かく5つの点を示している。「スポーツ・健康」、「街づくり・持続可能性」、「文化・教育」、「経済・テクノロジー」、「復興・オールジャパン・世界への発信」。

大会前の短期連載の最後に、個人的な意見をひとつ。レガシーの大きなゴールのひとつは、「オリンピックを通じてスポーツのインフラが改善され、一般市民がよりスポーツを楽しめ、生活が豊かになること」だと考える。逆にいえば東京に暮らすのなら「未来によりよくスポーツがやれ、観ることができる」と考えなければ、オリンピック開催にまつわる様々な日常生活への支障が耐え難くなっていくのではないか。五輪の一時の興奮ではなく、「この先ずっとよくなるための過程」と考えなければ。小さな話かもしれないが、華やかな新国立競技場工事現場のすぐそばで、周辺のいくつかのフットサル場が閉鎖が決定し、利用者の多いジムの長期休館も決定した。「なんで五輪のために?」と考える、とてもよい環境だ。この先、影響はどんどん広がっていくだろう。

平昌五輪の現状はとても「レガシー」への議論へは至れていない。それ以前に「大会がいったいどうなるのだ?」という話で持ちきりだ。喧騒のなか、静かなままの大会前の開催地を歩いて、「レガシー」への難しさを改めて思い知らされた。

”レガシーとは大会時に目前に起きる「安全な大会運営」「外国人・国内からの観客へのスムーズな便宜」などの問題を解決してこそ考えられるもの。簡単なことじゃない”

ベタな話だ。しかし、東京五輪にとってリアリティを感じるべき格好の機会になる。

いっぽうで平昌五輪はまだ大会前、結果が出たわけではない。物議を醸す女子アイスホッケーの南北合同チームも、終了後にはどんな評価なのかは分からない。大会前の現地ルポを3度に渡って掲載した。ここでひとまず終了にし、大会開始後に現地に行って引き続きレポートを続けていきたい。(3回連載了、写真すべて筆者撮影)