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「Jリーグのピッチ」に立ってみた! 別角度から見る 山梨中銀スタジアムの魅力

5月10日J1甲府-湘南戦の前座試合に出場した印象を! 後列中央のGK左手が筆者

「Jリーグのピッチに立つ」という貴重な機会を得た。

それもリーグ戦の開催日に、ファン・サポーターがスタンドに入った状態で。

5月10日、J1リーグファーストステージ 第11節ヴァンフォーレ甲府-湘南ベルマーレの前座試合に出場した。

山梨県甲府市の山梨中銀スタジアムで行われたゲームだ。

交流のある「スキマスイッチ」常田真太郎さんの計らいにより、彼が率いる非営利団体フットボール大好き集団「SWERVES(スワーブス)」の一員として「ヴァンフォーレ甲府OB」と対戦。3バックの左として先発出場し、15分ほどプレーした。

チーム代表の常田真太郎さん。「試合開催がJリーグ会場に足を運んでいただくきっかけとなれば」
チーム代表の常田真太郎さん。「試合開催がJリーグ会場に足を運んでいただくきっかけとなれば」

ここでちょっと角度をつけた考察を。

「ふだんスタンドからピッチを見ているJリーグの風景。これを逆にピッチから見ると何が見えるのか?」

実際にプレーをしてみて、意外に感じたことが本当に多い。「被験者」たる筆者は学生時代に全国大会出場歴がない、アラフォーの普通の草サッカープレーヤーだ。週2度ほどフルコート、フットサルを問わずボールを蹴っている。変わった経歴があるとすれば、05-06年に雑誌の連載でドイツ10部リーグで1シーズンの体験取材を経験したことくらい。Jリーグは01年ごろから取材している。そんな立場からすると、ピッチ上の風景はふだん記者席から見る風景とは大きく違った。同じだと思い込んでいるものが違うから、そのギャップに驚いた。

ここからの内容はもしかしたら普段からスタジアムでプレーするJリーガーたちとっては「なんでもないこと」かもしれない。だが人生で幾度しかそこに立てない立場からすれば、骨をしゃぶりつくすように何もかもを感じ取り、伝えたい風景ばかりだ!

Jリーグ発足から22年め。いままでなかった視点でのリポートを。ぜひとも”ピッチに立った”という擬似経験から得られるものをお伝えしたく! 書き手がそんな貴重な試合に出させてもらって「ああ楽しかった」で終わるべきでないとも思い。

まずは「一般論」から! 陸上トラックつきのスタジアムとは!?

「甲府のスタジアムに陸上のトラックがあるから残念」という話ではない。まずは”Jのピッチ”で感じる点の一般論から。

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取材者として訪れても、この山梨中銀スタジアムでの時間はかなり心地よいものだ。新宿から特急で小一時間。八王子を越えたあたりからガラッと風景が変わり、非日常モードにスイッチが入る。また例年GWくらいまでの時期、アウェーゴール裏から10分ほどの距離の場所でイチゴ狩りが楽しめる。記者席からは天気が良けば近辺の山々が望める。山が見えるスタジアム、というのもJリーグでは数少ない貴重な景色だ。

試合前、ピッチサイドから見えた風景もおよそ似たものだった。はっきりと5000人(甲府スタッフ推定)の入ったスタンドや、山々も目に入る。

試合前のセレモニー時に。このカットでもはっきりとスタンドが写っているが……
試合前のセレモニー時に。このカットでもはっきりとスタンドが写っているが……

ところがピッチに立ってプレーすると……ちょっと予想外の状況になる。

「ピッチしか見えない」

そんな状況になるのだ。

こういう場でプレーする場合、前日はちょっと眠れない。一番の要因は「スタンドからの視線」だ。「見られているからと焦り、失笑を買うようなミスをしたらどうしよう」と。例えばキックを空振りして笑われる。これで焦って、相手のJリーガーOBにどんどんつけ込まれてしまう、というような恐怖だ。

ところが実際にはこういったことはあまりない。スタンドから多くの方に見ていただいている状況でも、いざプレーを始めるとピッチ外の状況が見えづらくなる。

筆者はこれまで2度ほどこのチームの一員としてJリーグの前座試合でプレーする機会を得た(2012年9月に福島県営あづま陸上競技場/とうほう・みんなのスタジアム、2014年に栃木グリーンスタジアム)。これは本当に毎回驚く。試合前にははっきりと目に入るスタンドが、試合になると目に入りにくくなる。

「陸上トラックがあるから」「スタンドまでの距離があるから」という話には収まらない。プレーヤーの心理や身体条件から考えられる理由もいくつかある。

まずは選手の心理の問題。筆者の場合、技術とメンタルに重大な欠陥を抱えているから、ピッチ上の状況にばかりいっぱいいっぱいになる。だから周りの風景を見る余裕がなくなる。ピッチ上で「スタンドが見えにくい」と感じるのは、中央のポジション(ボランチ)、今回のサイドのポジション(3バック左)、どちらでも同じことだった。仕事上見慣れた、選手のプレー写真の背後に写るスタンドの風景も、ピッチ上では思ったよりも視野に入ってこないのだ。

試合中のトップ選手もじつはあまりスタンドが見えていない? この質問を甲府のレジェンドにぶつけてみると、「さすがプロ」と唸らされる答えが返ってきた。この日クラブOBとして対戦したストライカー長谷川太郎さん(05年J2リーグ日本人得点王)は言う。

「僕はこのスタジアムを含めて、試合中にスタンドを意図的に見るようにしていたんですよ。スタンドの風景を含め、今自分のいる状況をしっかり把握したうえで、ゴールを狙うように心がけていた。自分たちのチームがボールを回している間、時にあえてスタンドが見えるスペースにポジションを移しながらも見て、状況を把握しようとした。試合中に自分たちの攻めているゴールを目視することと同じくらいに大切にしていたことです」

多くのスタジアムでは「意図的に見なければ見えない」ということでもある。

走ることでも視野は狭まる

長谷川さんの話にも出てきた人間の視野・視角の影響は強いと感じた。彼はこんなことも話していた。

「あえてスタンドを見ずに、ピッチにだけ集中してプレーするタイプの選手もいます。視界を絞ってアドレナリンを上げる、という考え方なのだと思います。ボールを刈り取るボランチにはこういうタイプの選手も多かった。本当にいいことは……『スタンドを見たりして状況を把握して、かつアドレナリンを上げられること』だと思います」

この話にもあるように試合中のピッチにいると、多くは芝生の上にあることの多いボールを追うために、目線は通常よりも下がりがちになる。

筆者は甲府OB戦の途中、メインスタンド側のタッチラインでスローインをする機会があった。転がったボールを広告ボード横のカメラマンに拾ってもらった。「一息つける状況」だったが、まったくスタンドに目を向けることはなかった。やはりはっきりと首を上に上げない限りスタンドの光景は目に入らないからだ。まあ、筆者には周囲を見る心理的余裕がなかったのだが。

構造上見えなくともスタンドは意識する! 失点後ディエゴ監督に土下座パフォーマンス
構造上見えなくともスタンドは意識する! 失点後ディエゴ監督に土下座パフォーマンス

さらに、走っていると思ったよりも視野が狭まっているんだなとも感じた。

先のブラジルワールドカップの際、オランダのロッベンが「ドリブル時の最大トップスピード時速37キロを記録した」とのニュースがあった。これは「原付でゆっくり走っている」のと同じスピード。100m走だと10.28秒だという。この場合、人間の視野が本来左右でおよそ180度から200度あるものが、100度くらいに狭まるのだという。筆者がこれよりもはるかに遅く、止まっている時間が長い点は疑いようがないが、プレー中に左右の視野が狭まっているのは確かだ。

ふだんは広いグラウンドか、フットサル場でプレーする。だからピッチの近くに競技場スタンドのような大きな造形物が存在する状況はない。つまり「特別な機会で意識するだろうものが意外と強く感じられない」のだからなおさら「あらっ?」 と思うという状況だった。

逆に言えば、選手は試合中、スタジアムの熱気を「耳で感じ取っているんだろうな」と想像できた。

陸上トラック付のスタジアムでの「儀式」

この日、湘南ベルマーレと戦ったヴァンフォーレ甲府DFでキャプテンの山本英臣に「アウェーゲームからこのスタジアムに戻ってきて、ホームを実感することはあるか?」と聞いてみた。こんな返答があった。

「このスタジアム自体の構造上の特徴はっきりとは説明できません。でもホームだと感じる点は、いつでも応援してくれ、時に厳しく指摘してくれる雰囲気や声援です。それはゴール裏で声を出してくれるサポーターだけじゃありません。メインスタンドからもそういった雰囲気を感じますから」

アウェーの選手も近い内容を口にしていた。陸上競技のトラックつきのスタジアムでは「視覚」と「聴覚」を上手く使い分けると。湘南ベルマーレの背番号10菊地俊介は、「今日もたくさんアウェーの地にサポーターが来て下さった」と言い、試合前にこんな「儀式」を行ったという。

「試合前、サポーター席をしっかりと目に入れるんですよ。特に陸上トラックつきのスタジアムの場合、必ずやることです。どれくらい来てくださっているか。しっかりと頭の中にインプットしてプレーに入ります」

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この日、筆者も試合後のスタジアムを一周してはじめて、「こんなに多くの方が見ていてくださったんだ」と感じたものだ。ちなみにこのスタジアム名物の「ゴール裏の広告ボード縦列」も試合中はなかなか目に入らず。記者席からの取材時には「自分がもしゴールを決めたなら、あれをハードル選手のように超えまくってサポーター席に行きたい」と思っていたが、実際のピッチからはこれが見えなかった。もっとも試合前にそれを見て、「超えられない高さなんだな」と痛感したが! 何より試合中は目の前のヴァンフォーレ甲府OBの技術とスピードへの対応に精一杯だった。

ゴール裏が「見える!」

いっぽうで、この山梨中銀スタジアムでプレーしてみて感じる魅力もたくさんあった。

試合前ピッチ中央に立つ筆者。肉眼に近い50mmレンズで撮影。試合中の視野にも近い
試合前ピッチ中央に立つ筆者。肉眼に近い50mmレンズで撮影。試合中の視野にも近い

ひとつはぼんやりとした視野の中に入ってきたゴール裏の風景だ。

このスタジアムはゴール裏の構造がかなりはっきりとした「独立式」の構造になっている。かつて浦和レッズがホームゲームで使用した駒場スタジアムのアウェーゴール側の「出島」が大きくなったようなイメージだ。

これがピッチから見ると「四角形の一角が青く染まっているな」というふうに見えた。筆者が技術のなさゆえピッチ上のゲームにいっぱいいっぱいになっているなかでもはっきりと感じられた。過去に観客なしの状況でプレーした国立競技場では、ぼんやりと遠くにスタンドがあるな、と感じられた程度だった。しかしここでは「青く巨大な四角形」を感じられる。

今シーズンのキャプテン山本や前任の城福浩監督は「このチームのサポーターが出してくれる雰囲気は何か特別なものがある」と日々口にしているのだという。それはもしかしたら、このスタンドの構造から醸し出されるものでもないか。そんなことを思った。

特にこのスタジアムのゴール裏スタンドの後方には、等間隔でポールが建てられていてそこに「おなじみの横断幕」がある。これがプレー中にもうっすらと視野に入ってきた。「ある程度の高さの場所にはっきりと分かる横断幕がある」というのは、試合中の選手に伝わりやすいものだと感じた。ましてやそれが「いつも見る横断幕」なら、選手としてもメッセージ性が高いもののはずだ。「ああ、ホームに戻ってきたんだな」と。

「分かりやすい横断幕」、「それが適度な高さに掲げられているということ」そして「分かりやすい声の応援」。

こういった要素が試合中の選手に伝わりやすいものなのではないか? そんなことを感じた。

さらに「分かりやすい横断幕」はメインスタンド、バックスタンドよりも、ピッチ上の選手からは「前方=ゴール裏」にあるもののほうが視野に入りやすい。この山梨中銀スタジアムは、陸上のトラックがある競技場のなかでもこの点に優れている! 選手ならとっくに気づいていることかもしれない。しかしここで改めて言葉で記しておきたく。

試合後もやはり見える横断幕。そして試合後だからこそ見える周囲の山々がGAKU-MC氏の後方に! 
試合後もやはり見える横断幕。そして試合後だからこそ見える周囲の山々がGAKU-MC氏の後方に! 

もうひとつ、前出のストライカー長谷川太郎さん(05年J2リーグ日本人得点王)はこんなことを言っていた。

「勝った試合の後、スタンドの後方に見える山々を眺めると、ほっとするんですよね。ああ、ホームに帰ってきたなと。試合中は見えないものですから!」

試合中は「見えない」。でも試合後は「見える」。

これもまたこのスタジアムの美しさではないか。 

ピッチで体感した「甲府OB」のすごさ

ちなみに、ヴァンフォーレ甲府サポーターの皆様。ピッチで対戦する選手たちは確実に「ハンパねぇ」というところでした。試合後、ロッカールームで泣きそうになりました。えぐい。華麗なパスワークでポンポンボールをつながれる中、こっちも「やられっぱなしにさせるかー」とボールを獲りにいくと……それを見透かしてスッとかわすと言う感じで。特にこの技術は藤田健、片桐淳至の両選手がハンパなかった。そうやってボールを回された果てに、幾度かセンタリングを上げられた。守備の立場からすると視線をぐるぐると動かされ頭が混乱した。しかも「サイドをえぐる」といった感じではなく、ペナルティエリアの両脇くらいにボールをつけ、軽ーくボールを上げてくるという「省エネ」っぷりも「ハンパねぇ」。そんななかDFラインから攻撃参加し、センタリングからヘディングで先制点を決めた秋本倫孝選手はスペースに入ってくるのも速過ぎ、体強すぎだった。目の前で守っていて「何が起きたかわからない」という心境になった。

左DFでプレーした筆者。写真左の片桐さんにもやられっぱなしだった
左DFでプレーした筆者。写真左の片桐さんにもやられっぱなしだった

あと現役引退直後の右サイドバック杉山新さんも物凄かった。試合開始直後、こちらが3バックで、しかも左DFが筆者だと見切るやガツーンとドリブルを仕掛けてきた。こっちもこっちで「やったるか」と1対1でサイド勝負したら……近づく前に加速され、ノーフェイントで抜かれました! そんなこんなで試合は1-3の完敗だった。

自軍「SWERVES」の選手で印象的だったのは、元日本代表通訳(ザッケローニ時代)の矢野大輔さん。ロッカールームでは謙虚ながら、試合になったらいきなり「イタリア人」になる。同じ左サイドに入ったこともあり、こちらを呼び捨てで、「おいこら声かけあってコミュニケーション取るぞ」と言いまくり。それでいて華麗に同点ゴールを決める。もし筆者にドイツ10部リーグでのプレー経験がなかったら、ぶん殴っていたでしょう。ヨーロッパなら「ピッチ上の選手は対等」というのは当たり前なのです。

ベンチで「ディエゴ監督」と語る矢野さん。イタリア語とスペイン語は6割方通じる!?
ベンチで「ディエゴ監督」と語る矢野さん。イタリア語とスペイン語は6割方通じる!?

さらにチーム代表のスキマスイッチ常田真太郎さんは試合前から試合後までの事務作業の連絡のマメさが感動レベル! 当日の集合時間からユニフォームの分配まですべて彼からのメールで伝えられた。彼の「ファンの方々が、トッププレーヤーのプレーする会場に足を運ぶ機会となれれば」という思いからこのチームは動いています。この日の試合後、甲府のスタッフの方々から「サポーターの皆様と自チームOBとつなぐよい機会にもなりました」とお声がけいただいた。チーム公式アンセムを手がける山梨県出身のレミオロメン藤巻亮太さんも試合に出場。試合前はおとなしそうな印象だった彼が、試合後サポーターに「ともにクラブを応援していきましょう」と拡声器で呼びかけた。このシーンには「地元愛」を感じ胸が熱くなりました。

今後も、筆者自身「記録係兼左サイドバック要員」としてこのチームでの挑戦を続けます。世界的にスペシャリストの少ない左サイドバックをやれると招集機会も増えると思うので! まだまだ「スタジアムでの声援の聞こえ方」「スタンドに大きな屋根があると何かが変わるのか?」といった点での研究は不十分でもありますし。

チームは次回、5月末の別会場・某ゲームに登場予定です! 

写真:軍記ひろしa.k.aキョショウ ほか 筆者撮影

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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