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性別や年齢、国籍の壁を越えて人が集まる。京都のコインランドリーが地域コミュニティの拠点となった理由

吉村智樹京都ライター/放送作家
「キョウトランドリーカフェ」のオーナー、Rie(リエ)さん(筆者撮影)

失われつつある地域コミュニティ

あなたは、自分が住み暮らす街に、居場所はありますか? 街の人たちと触れ合う機会はありますか? 街の人はあなたの存在を認識していますか?

少子高齢化、過疎化などさまざまな理由で、いま地域のコミュニケーションが希薄になってきています。世代間の交流が少なくなり、それぞれの立場を理解しあえない。さらにコロナ禍が住民の分断に追い討ちをかけました。

このように人と人とのつながりが薄れゆく昨今、斬新なアイデアで「街の新しいコミュニティのかたち」を提示した場所が京都に誕生しています。

今回から2回にわたり、交流によって孤立を解消し、地域の活性化に貢献している京都の好例を紹介しましょう。

第1回目は、なんと!「コインランドリー」をコミュニティの場所として活かしているケースをお届けします。

コインランドリーで絶品グルメが味わえる

新選組ゆかりの地として知られる京都の壬生(みぶ)。「嵐電」(らんでん)の愛称で親しまれる京福電鉄嵐山本線の線路脇に「KYOTO LAUNDRY CAFE」(キョウトランドリーカフェ)があります。

2023年でオープン4周年を迎えるこの店は、レンガ造りのクラシックな外観。店頭には「京都洗濯屋珈琲」と記された看板が立てられています。

「京都洗濯屋珈琲」と書かれた立て看板。「キョウトランドリーカフェ」は看板の文言通り、店内で洗濯だけではなくコーヒーなど飲食ができる。もちろん「洗濯だけ」「飲食だけ」の入店も可能だ(筆者撮影)
「京都洗濯屋珈琲」と書かれた立て看板。「キョウトランドリーカフェ」は看板の文言通り、店内で洗濯だけではなくコーヒーなど飲食ができる。もちろん「洗濯だけ」「飲食だけ」の入店も可能だ(筆者撮影)

そう、ここは、コインランドリーであり、なおかつコーヒーをはじめドリンクや絶品の料理が味わえるカフェでもあるのです。

「大好きなニューヨークのブルックリンのカフェをイメージした」というおしゃれな店内。洗濯機の回転を眺めながらドリンクやフードを楽しめる(筆者撮影)
「大好きなニューヨークのブルックリンのカフェをイメージした」というおしゃれな店内。洗濯機の回転を眺めながらドリンクやフードを楽しめる(筆者撮影)

大型から家庭用サイズまで、大小さまざまな洗濯機12台がズラリ。ドラムがぐるんぐるんと回転し、そのサウンドが店内BGMをさらにグルーヴィーに盛り上げています。いやあ、いるだけで楽しい! コインランドリーにありがちな、わびしいムードは微塵も感じられません。

大中小さまざまなサイズや用途のコインランドリーが12台(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
大中小さまざまなサイズや用途のコインランドリーが12台(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

「洗濯機の音、いいでしょう。『この店は生活音があって、孤独感がないのが好き』というお客さんがとても多いんです。洗濯物だけではなく、“日常がまわっている”という感じ。私もこの業態をとても気に入っています」

そう語るのは「キョウトランドリーカフェ」のオーナー、Rie(リエ)さん(41)。

オーナーのRieさんがコーヒーや料理を運んできてくれる(筆者撮影)
オーナーのRieさんがコーヒーや料理を運んできてくれる(筆者撮影)

Rieさんは母と二人で料理をこしらえるシェフでもあります。品数も栄養もたっぷりの「日替わりランチ」が大人気。洗濯機に囲まれながら料理をいただくシュールさも、おいしさをさらにアップさせています。

Rieさん親子で手作りする「日替わりランチ」、本日のメインはハンバーグ。ボリューム、品数ともにたっぷり。ピザやカレーも人気だ(筆者撮影)
Rieさん親子で手作りする「日替わりランチ」、本日のメインはハンバーグ。ボリューム、品数ともにたっぷり。ピザやカレーも人気だ(筆者撮影)

料理をふるまうのはRieさんだけではありません。調理込みのイベントや飲食店開業の手助けをする「シェアキッチン」を実施しており、実施日は未来のシェフたちの料理に舌鼓を打つこともできるのです。

シェアキッチンを利用する1日「パエリアとスペイン料理 シェロ」の服部元希さん。普段はUber Eatsで働いており、開業を目指している(筆者撮影)
シェアキッチンを利用する1日「パエリアとスペイン料理 シェロ」の服部元希さん。普段はUber Eatsで働いており、開業を目指している(筆者撮影)

Rie「今日は日頃Uber Eatsで働いているシェフが起業の予行演習のために1日『パエリアとスペイン料理専門店シェロ』を開いています。彼の料理、めっちゃおいしいんです。ほかにもBar、屋台、食育、フェアトレード、ヴィーガン、有機野菜、ママさんたちの家庭料理など、いろんなテーマでキッチンを使ってもらっています。理系女子が化学的な料理をつくるユニークなイベントもあったんですよ」

魚介たっぷりのパエリア。シェアキッチンの日は通常とは異なるメニューが味わえるのがキョウトランドリーカフェの魅力の一つ。SNSでスケジュールを要チェック(筆者撮影)
魚介たっぷりのパエリア。シェアキッチンの日は通常とは異なるメニューが味わえるのがキョウトランドリーカフェの魅力の一つ。SNSでスケジュールを要チェック(筆者撮影)

バラエティに富んだイベントを続々と開催

キッチンを使って多彩なイベントが繰り広げられるキョウトランドリーカフェ。実施しているのはシェアキッチンだけではありません。店内で、驚くほど多種多彩な催しが開かれているのです。

●毎月開催「ランドリーマルシェ」(いろんな才能を持つ地域の人々の手づくり市やワークショップ)

さまざまな市が並ぶ「ランドリーマルシェ」。「出店を初めて経験した」という地域住民も多いのだそうだ(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
さまざまな市が並ぶ「ランドリーマルシェ」。「出店を初めて経験した」という地域住民も多いのだそうだ(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

「ランドリーマルシェ」ではワークショップも行われる(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
「ランドリーマルシェ」ではワークショップも行われる(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

「キッズマルシェ」では親子で参加できるワークショップが開かれている(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
「キッズマルシェ」では親子で参加できるワークショップが開かれている(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

●毎週開催「外国語カフェ」(英語、中国語、韓国語、スペイン語)

中国人留学生や中国語を話してみたい人が集まって茶話会を開く(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
中国人留学生や中国語を話してみたい人が集まって茶話会を開く(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

●カルチャースクール(筆ペン習字、フランス額装、ウクレレ、アートセラピーなど)

●インバウンド交流会

さまざまな国籍の人たちが集う人気のイングリッシュイベント(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
さまざまな国籍の人たちが集う人気のイングリッシュイベント(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

●音楽イベント

●自主映画上映

●クリスマスやハロウインなどのキッズコスプレイベント

クリスマスやハロウインなど行事の日は大人も子どももコスプレで盛り上がる(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
クリスマスやハロウインなど行事の日は大人も子どももコスプレで盛り上がる(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

●シェアハウス(別棟)

●コワーキングスペース(別棟)

●ヨガ教室(別棟)

●バンド活動

●西院・壬生エリアの情報を発信するWebメディア「チョイチョイ倶楽部」の運営

などなど、枚挙にいとまがありません。コインランドリーが新しいコミュニティの場所として機能しているのです。壁には今後開催されるイベントの案内がびっしり。

壁はイベントのフライヤーがびっしり。ほぼ毎日なんらかのイベントが店内で開催されている(筆者撮影)
壁はイベントのフライヤーがびっしり。ほぼ毎日なんらかのイベントが店内で開催されている(筆者撮影)

Rie「お昼は、お子さんを連れたママさんたちの参加が多いですね。この雰囲気を『いい』という人がいれば、反対に『うるさい』という人もいる。賛否両論の狭間で営業しています。お子さんがはしゃぐ声を受け容れるお店でありたいと思って。ママさんだけではなく、いろんな人の居場所でありたいと考えているんです

地域の親子が集まり、社交の場になっている。画像はクリスマスの日(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
地域の親子が集まり、社交の場になっている。画像はクリスマスの日(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

いやあ、コインランドリーという場所が場所だけに、この展開はとても意外な気がしたのですが。

Rie「むしろコインランドリーカフェだからこそ、コミュニティの場所になりえたんやと思います。人と人との間には、見えない壁が、どうしてもあるんです。会場を借りて人を集めて急に『ここは交流の場所です。皆さん仲よくしてください』って言っても、仲よくなれないですよ。その点ここに来れば、洗濯ができて、私や母がつくったごはんがあって、誰かいる。生活の延長のなかにあることばかりでハードルが低い。だから、集ってもらえてるんやないかな」

「洗濯も食事も生活の延長にある。だからここは交流も自然と発生するし持続する」と語るRieさん(筆者撮影)
「洗濯も食事も生活の延長にある。だからここは交流も自然と発生するし持続する」と語るRieさん(筆者撮影)

ワークショップやカルチャースクールをやっているあいだも貸し切りにせず、洗濯や食事で数多の人々が行き交うのもキョウトランドリーカフェの特徴です。時間によっては年齢の偏りがなかったり、多国籍な空間となったりします。

Rie“ブレンディングコミュニティ”というのですが、多様化の時代だからこそ、『混ぜていかなあかん』。そう思って、できるかぎり壁をなくしていっています」

「英語MEET UP」の日。陽が暮れるとさまざまな国の人々が集まり話が弾む(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
「英語MEET UP」の日。陽が暮れるとさまざまな国の人々が集まり話が弾む(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

まるで洗濯物がドラムのなかで回転するように、上も下もない交流を生み出し続け、居場所を提供するキョウトランドリーカフェ。ではなぜ、Rieさんはコインランドリーをコミュニティの場所にしようと考えたのでしょう。その理由は、彼女自身が社会的少数者として葛藤した日々のなかにありました。

「私の居場所はどこ?」と悩んだ在日コリアン3世

Rieこと山本理恵さん、本名は(さい)理恵といいます。自らの紹介文にも「陽気なまちの在日コリアン3世」と表記している外国籍住民です。

生まれも育ちも、ここ京都の壬生。立命館大学の産業社会学部を卒業後、出版社と法律事務所で働きました。そうして27歳になったとき、ふと、アイデンティティが揺らいだのです。

Rie学生時代から、『自分の居場所って、どこだろう』という悩みがありました。私は在日コリアンの3世。以前は携帯義務があった外国人登録証にも韓国の住所が記載されています。それなのに自分は韓国へ渡った経験がない。日本で生まれ、日本で育ち、日本語を話し、韓国語は話せない。『自分はどこに属しているのだろう』。そんなふうに感じる瞬間がたびたびあったんです。いま思えば、海外の人やマイノリティの受け皿になる場所を開きたいという気持ちは、その頃すでに芽生えていたのでしょうね」

Rieさんは在日コリアン3世。「日本で生まれ育った自分の居場所はどこだろう」と悩んだという(筆者撮影)
Rieさんは在日コリアン3世。「日本で生まれ育った自分の居場所はどこだろう」と悩んだという(筆者撮影)

「居場所」。それはキョウトランドリーカフェを語るうえで欠かせない重要なキーワードです。Rieさんは当時、自分の居場所を見失っていました。そして――。

Rie「一度京都を離れ、私の祖先が暮らした韓国で『生きなおしたい』と思いました。いわゆる“自分探し”なのかな。『自分の居場所は韓国にあるのかもしれない』と考えるようになったんです」

海を渡れば、「10年は日本に戻らないぞ」と、Rieさんは腹をくくりました。そうして2011年、親戚も縁者もいない韓国へ単身で渡ったのです。

Rie「両親からは、『移民が本国へ行くと白い眼で見られて苦労するよ』と最後の最後まで反対されました。自分の中のパンドラの函を開けてしまう怖さもありました。それでも、『韓国へ行かなければならない』という決意が次第に強くなっていったのです」

ソウルでキャリアウーマンとして活躍。しかし事態は一転

ソウルで働き始めたRieさん、韓国語はおぼつかないながらも英語と日本語が話せる能力が高く評価され、旅行会社、広告代理店と、さまざまな大手企業で働きます。

Rie「多国籍企業のグローバルチームに配属されました。海外作家の美術展を企画したり、日本企業のスポンサーさんたちを案内するコーディネーターをやったり。毎日がチャレンジでしたね。最後に勤めた会社はNetflixでも配信をしている大手エンタメ系マルチメディア。世界中の人々を相手に仕事をしていました。副業で日本語学校の講師をしたり、“ソウルのおすすめグルメスポット”を取材してWebメディアに寄稿したり。毎日がむしゃらに働きましたね」

ソウルでは海外との渉外を担当し、美術展や動画配信などを成功に導いた(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
ソウルでは海外との渉外を担当し、美術展や動画配信などを成功に導いた(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

韓国で着々とキャリアを積み重ね、充実の日々を送っていたRieさん。しかし在日コリアン3世である彼女には、「韓国こそが自分の居場所」という感覚は、まだつかめずにいました。

そんなRieさんに2018年、突如、日本への帰国を余儀なくされる事態が起きたのです。

Rie「父ががんで倒れ、壬生へ戻らざるを得なくなりました。最低10年は韓国にいると決めていましたが、悔いはなかったです。韓国での仕事は全力でやりきりましたし、あと、地元京都を愛する想いがよりいっそう深まったんです。私はコリアンであるけれども、自分の居場所はやはり、『生まれ育った京都の、あの場所なんだ』ってわかった。海を渡ると、故郷に対する愛情が倍になるんですね

帰国し、父の介抱にあたったRieさん。しかし父は帰国半年後、帰らぬ人となりました。

地域に貢献したい気持ちがコインランドリーに発展

およそ40年にわたり壬生で学習塾『崔(さい)塾』を営んでいた父。「自分も父のように地元に貢献したい」「人と人を結びつける仕事がしたい」。そのためには再び就職するのではなく、「自営業をやろう」。そうして発想したのが、「コインランドリーカフェ」の開業だったのです。

いったいなぜ、コインランドリーだったのでしょう。

Rie「韓国にいた頃、世界中を旅しているバックパッカーから、『コペンハーゲンはコインランドリーが情報発信基地になっていた』『国際交流の場所になっていた』という話を聴いたんです。コインランドリーがソーシャルな場所に? それはおもしろいなと、ずっと頭に残っていました」

そうして「フードも提供できるコインランドリーを始めよう」と、飲食店で働いて調理を学び、2019年、生まれ育った壬生にキョウトランドリーカフェをオープンしたのです。

開店準備中の様子。海外の事例にならい「コインランドリーをソーシャルな場所にしたい」と、あえて飲食との合体を計画した(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
開店準備中の様子。海外の事例にならい「コインランドリーをソーシャルな場所にしたい」と、あえて飲食との合体を計画した(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

Rie「レンガ造りは、父が営んでいた塾のデザインを承継しました。娘がやっている店だとわかってもらえるように。この内装のおかげで地元の方から、『崔塾の娘さんですか?』とよく訊かれます。そのご縁で通うようになってくださったお客さんもとても多い。だから、ヘタなことはできないです(苦笑)」

コインランドリーは人生のドラマが集まる場所

2019年開店当初のキョウトランドリーカフェは、まだ現在のようなコミュニティスペースとして機能してはいませんでした。洗濯とフードが楽しめる、のんびりとした場所だったのです。

そんなある日、「コミュニティを育む拠点の重要性」を改めて感じさせられる出来事が起きました。それは――。

Rie「いつもお子さんと一緒に洗濯をしに来ていた女性の常連さんが、ピタッと訪れなくなったんです。そして数日後に男性がやってきて、『妻が自殺した』と……。『監視カメラに最後の姿が残っているかもしれないから見せてほしい』。そうおっしゃるんです。私は手を合わせに、おうちにうかがわせていただきました。そして、『コインランドリーって本当にいろんな人生のドラマがあるんだ。みんな必死で生きているんだな』と気づかされたのです」

遺された子どもは後日、おじいさんとともに食事に訪れたのだそうです。そうして、母との想い出の場所でひと時を過ごし、他の街へと引っ越していきました。

Rie「お亡くなりになった女性に、もっと話しかけてあげていたらよかったのかな、など、あれこれ考えましたね。そして、『もっとこの場所を大事にしたい。いろんな人がこの場所で交流したり交差したりすることで、救われる場合もあるんとちゃうかな』、そう思ったんです」

自殺した女性の常連客を想い、コインランドリーは人生のドラマの集結地なのだと改めて気がついたという(筆者撮影)
自殺した女性の常連客を想い、コインランドリーは人生のドラマの集結地なのだと改めて気がついたという(筆者撮影)

客との触れ合いの中で名企画が次々に生まれた

自らドリンクや料理を運び、客に気さくに声をかけるRieさん。そんな彼女の朗らかさに惹かれ、多くの人がキョウトランドリーカフェに集い、イベントやワークショップを開くようになりました。

Rie「お客さんとの会話の中で、『南京玉すだれができるんですか? だったらここで教室を開いてみませんか』というふうに盛り上がり、イベントや講座がいくつもできていきました。会話からご縁を紡いでいったんです」

たとえば、不登校児と保護者のための交流の場「いばしょかふぇ」の代表を務める京都・子どもミライ作り「ポレポレ」代表の宅間和美さん。キョウトランドリーカフェでイベントを育んだキーパーソンです。

宅間「ここには洗濯をしに来たのが最初です。有人のコインランドリーってめったにないので、機械の操作で迷う場合が多い私には安心できたんです。さらに洗濯の合間にいただいたカフェインレスのコーヒーがおいしくって、通うようになりました。そうしてだんだんRieさんと打ち解けていきましてね。『うちの子、不登校なんです。学校へ行けない子どもたちが平日に集まれる居場所をつくりたいと思っているんですよ』と話しました。するとRieさんが、『それなら、うちを使ってよ』と」

不登校児と保護者のための交流の場「いばしょかふぇ」を発足した宅間和美さん(筆者撮影)
不登校児と保護者のための交流の場「いばしょかふぇ」を発足した宅間和美さん(筆者撮影)

不登校児と児童の親が平日に集えるサードプレイス(自宅、学校、職場とは別に存在する、居心地のいい場所のこと)として役目をもったキョウトランドリーカフェ。「いばしょかふぇ」は2020年2月から月に一度のペースで開催されました。参加希望者の増加とともに規模が多くなり、企業の協賛もつき、現在はさらに大きな会場で開催しています。

この「いばしょかふぇ」は話題となり、キョウトランドリーカフェの知名度もじわじわと広がってゆきました。発達凹凸(おうとつ)っ子の保護者交流会「ポレポレ」を主催する(あわ)絵美さんも、「いばしょかふぇ」に共感をおぼえた一人。

「ご近所におしゃれなカフェができたね~と、友達とやってきたのが最初です。そして、『ここ、“いばしょかふぇ”のお店だ。新聞で見た!』と気が付き、Rieさんと親しくなりました。そうして発達障害の子どもを育てる保護者を対象とした交流会を開くようになったんです。育成学級(特別支援学級)や総合支援学校に通うお子さんを抱え、就学先に悩んでいる保護者が本音を吐き出せる場所をつくりたかった。会議室のような堅苦しい場所だと、素直に『しんどい』とは言いだせない。前向きな発言しか許されない雰囲気があります。ここはリラックスできて、楽しく過ごせるんです」

発達障害の子どもを育てる保護者を対象とした交流会を開いている粟絵美さん(筆者撮影)
発達障害の子どもを育てる保護者を対象とした交流会を開いている粟絵美さん(筆者撮影)

宅間さん、粟さん、ともに会の名前が奇しくも「ポレポレ」。ポレポレはスワヒリ語で「ゆっくり」「ぼちぼち」を意味する言葉。やわらかな陽光がさしこむキョウトランドリーカフェは、居場所を求める人たちにとって、まさにポレポレな場所でした。

LGBTQ、人種、国籍、障害などさまざまな人たちが壁なく交流ができる場所づくりを推進している京都レインボープライド「そらにじ京都」メンバー、岩本弥生さんも2021年からキョウトランドリーカフェを利用しています。

岩本「私はもともとはカフェの客でした。Rieちゃんはほんまにウエルカムな人でね。お客さんが多様性に富んでいる。つながりが拡がっていく。そこが『すごいおもろいやん』と思いましたね。これまでLGBTQの交流会を区の施設でやっていたんですけれど、行政関係だと土日祝はイベントができないんですよ。ここは週末に交流会が開催できるので、ありがたいです」

LGBTQ、人種、国籍、障害などさまざまな人たちが交流ができる場所づくりを推進する「そらにじ京都」の主要メンバー、岩本弥生さん。「車中泊系女子YouTuberやよい」でもある(筆者撮影)
LGBTQ、人種、国籍、障害などさまざまな人たちが交流ができる場所づくりを推進する「そらにじ京都」の主要メンバー、岩本弥生さん。「車中泊系女子YouTuberやよい」でもある(筆者撮影)

Rieさんの「ウエルカム」な姿勢により、ワークショップやマルシェ、夜市など、いまや街の名物となった企画が次々と誕生しました。しかし、それらは決して簡単につくりだせたわけではありません。

Rie「楽しいだけではないです。苦労もあります。イベントの際の騒音には気を配らなければならないし、道路使用許可も取らなければなりません。ご近所に迷惑をかけては意味がないですからね。でも、難しいけれども、最善を尽くしながら続けていきたいです」

ランドリーマルシェ昼市。タイのオープンカー「トゥクトゥク」は岩本弥生さんの自家用車。参加者を乗せてあげている(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
ランドリーマルシェ昼市。タイのオープンカー「トゥクトゥク」は岩本弥生さんの自家用車。参加者を乗せてあげている(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

ランドリーマルシェ夜市(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)
ランドリーマルシェ夜市(画像提供/KYOTO LAUNDRY CAFE)

迷う人の背中を押せたとき「胸アツになる」

洗濯やお腹を満たすだけではなく、人の渦をつくってぐるぐるとまわし続けるRieさん。そのパワーはどこから湧いてくるのでしょう。

Rie「原動力は、誰かの背中を押せたときの喜びですね。『開業しました』『イベントを開いてみました』『あの人とお友達になりました』とか、これまで一歩踏み出せなかった人たちの報告を聞くと胸アツになるんです。だから、ぶっちゃけ寝不足ですけれども、続けられていられるんです」

「これまで一歩踏み出せなかった人たちの背中を押してあげられたとき胸アツになる」とRieさんは語る(筆者撮影)
「これまで一歩踏み出せなかった人たちの背中を押してあげられたとき胸アツになる」とRieさんは語る(筆者撮影)

思えば江戸時代、長屋の住民たちは共同の井戸に集まり、洗濯や水くみをしながらわいわいと会話を楽しんでいました。元祖コミュニケーションの場だったと言えます。Rieさんが生みだしたコインランドリーカフェは、令和の時代に蘇った井戸端会議の場所なのかな、そう感じました。

Rieコインランドリーもカフェも、社会に必須ではないけれど、なくなってしまったら寂しいものです。失敗していい。間違ってもいい。応援しあえる雰囲気がかなうのって、ここのようにちょっとゆるい場所やと思うんです。だからこそ、私はこの店を大切にしていきたいですね」

さて、第2回目となる次回は、人口流出にあえぐ山林の街で、明治時代から続く製材所が銘木を活かしたカフェを開き、地域コミュニティの復活に取り組む様子に密着します。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

KYOTO LAUNDRY CAFE(キョウトランドリーカフェ)

所在地:京都市中京区壬生淵田町10−1 エイジ壬生1F

アクセス:京福電鉄嵐山本線(嵐電)「西院」駅出口より徒歩約4分/阪急京都本線「西院」駅の北改札口より徒歩約4分

ランドリー 24h

ランドリー定休日:無休

カフェ:11:00~20:00(時間変更あり)

カフェ定休日:月

電話: 070-8547-0728

https://kyoto-laundry-cafe.com/

https://choichoiclub.com/

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

京都ライター/放送作家

よしむら・ともき 京都在住。フリーライター&放送作家。近畿一円の取材に奔走する。著書に『VOWやねん』(宝島社)『ビックリ仰天! 食べ歩きの旅 西日本編』(鹿砦社)『吉村智樹の街がいさがし』(オークラ出版)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)などがある。朝日放送のテレビ番組『LIFE 夢のカタチ』を構成。

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