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「捨てられる割り箸を見て『もったいない』と思った」京都の新人家具職人が挑む「割り箸の再生家具」

吉村智樹京都ライター/放送作家
使用済み割り箸の再生家具を作る職人、村上勇一さん(筆者撮影)

使用済みの割り箸を家具に変身させる職人

「使用済みの割り箸を家具に蘇らせる」。そんな驚きのインテリアブランドが京都にあります。循環型社会の実現に向け、捨てられる割り箸を原料とした再生紙事業は進んでいますが、まさか割り箸が家具にまで生まれ変わるとはびっくりです

驚異の割り箸家具&雑貨メーカー「TerrUP」(テラップ)を起業したのが村上勇一さん(30)。自ら工具を手にし、前代未聞の家具を製造しています。しかも起業しておよそ1年で、早くも多くのオーダーがあるのだとか

おしゃれな家具の素材は、なんと使用済みの割り箸。作るのは家具メーカー「テラップ」を起業し、割り箸家具のブランド「TAKEZEN」を生みだした職人、村上さん(筆者撮影)
おしゃれな家具の素材は、なんと使用済みの割り箸。作るのは家具メーカー「テラップ」を起業し、割り箸家具のブランド「TAKEZEN」を生みだした職人、村上さん(筆者撮影)

いったいなぜ割り箸で家具を作ろうと考えたのか。どんな方法で割り箸を家具へと転生させているのか。そして、そこにある理念とは? 村上さんにお話をうかがいました。

竹の割り箸が「再生されない」現実を知った

「飲食店でアルバイトをしていたとき、捨てられる割り箸を見て『もったいない』と思ったんです」

割り箸から家具を生みだすブランド「TAKEZEN」(タケゼン)を起ち上げた村上勇一さんは、そう言います。

京都市営地下鉄東西線「三条京阪」駅から北へ徒歩わずか。昔ながらの工務店や石材店がひしめく工芸の街に2022年11月、割り箸家具のメーカー「テラップ」が誕生しました。事業主の村上さんはかつて祖父母が住んでいた古民家を工房に改装し、自分の手で家具を作成しているのです。

かつて祖父母が暮らしていた古民家を工房に改装。事業主である村上さん自ら家具を手作りしている(画像提供/TerrUP)
かつて祖父母が暮らしていた古民家を工房に改装。事業主である村上さん自ら家具を手作りしている(画像提供/TerrUP)

素材となる割り箸は、竹製のみ。淡黄色と褐色の「煤竹」(すすたけ)、2色をうまく組み合わせ、ストライプなどおしゃれな柄を表現しています。定番はテーブル、サイドテーブル、プランタースタンドの3種。脚の形状などにさまざまなタイプがあり、カスタムオーダーが可能です。

割り箸は下の写真のテーブル1台でおよそ3,700本を利用しています。言われなければ、「このテーブルが使用済みの割り箸でできている」とは気がつかないかもしれません

色が濃い「煤竹」がアクセントとなったストライプ柄のテーブル。約3,700本の割り箸を使う。言われなければ素材が使用済みの割り箸だとは気がつかないかもしれない(筆者撮影)
色が濃い「煤竹」がアクセントとなったストライプ柄のテーブル。約3,700本の割り箸を使う。言われなければ素材が使用済みの割り箸だとは気がつかないかもしれない(筆者撮影)

原材料となる割り箸は現在、飲食店5軒とホテル1軒の厚意に依って入手しています。回収した割り箸は先ずブラシなどで汚れを落とし、樹脂に絡め、100度以上の高温に設定したオーブンで1時間ほど熱します。熱することで樹脂がかたまるとともに殺菌もできるのです。

加熱を終えたらプレスして天板の素材に。底面には支え板を張り、特注したアイアン製の脚をネジ留めし、家具となります。

脚はアイアン製。さまざまな形状がありカスタムオーダーを可能とする(筆者撮影)
脚はアイアン製。さまざまな形状がありカスタムオーダーを可能とする(筆者撮影)

木目感があるナチュラルなデザインなのでプランタースタンドにぴったり(筆者撮影)
木目感があるナチュラルなデザインなのでプランタースタンドにぴったり(筆者撮影)

それにしても、なぜ割り箸を竹に限定しているのでしょう。

村上勇一さん(以下、村上)「竹の割り箸は木製と違って繊維が硬いため、再生紙の原料として回収されず、リサイクルされない場合が多いんです。食事が済めばあとは捨てられるだけ。その様子を見て『なんとか別の用途に使えないか』と考えたんです」

竹は強度もあり、デスクワークも安心だ(筆者撮影)
竹は強度もあり、デスクワークも安心だ(筆者撮影)

食後の竹の割り箸から、持続可能社会へのヒントをつかんだ村上さん。アップサイクルへの意識は以前からあったのでしょうか。

村上「いやあ、実は2年前(2021年)までSDGsなどにはまったく関心がなかったんです。それにもともと営業マンをしていたので、まさか自分が廃棄材で家具を手作りするようになるとは、ぜんぜん想像していませんでした

営業マンから家具職人へと大胆な転身。その“節目”はどこにあったのかを、タケノコのように掘り起こしてみましょう。

野球一筋だった青年がビジネスの世界へ

京都で生まれ育った村上さんは、野球一筋の学生でした。幼少期からの夢は「プロ野球選手になること」。大阪経済大学へ進んだのちも3年生の秋まで大学野球に励み、ピッチャーとして活躍したのです。しかし……。

村上「球界を目指していましたが故障が多く、怪我もして、断念せざるを得ませんでした。肩を痛めてしまい、現在もボールを投げられないんです」

野球に没頭した青春時代を送り、就活の時期まで具体的な将来像を描いていなかった村上さん。進路指導部から勧められるままに鉄鋼の専門商社に就職します。

村上「ステンレスの営業マンをやっていました。営業職を強く志望したわけではなかったのですが、働くうちに『ビジネスって、おもろいな』と思うようになっていったんです。大学時代まで野球しかやってこなかったから、世の中を知らなかった。それで、もっと自分の幅を広げたいし、さらにビジネスについて勉強したくなりましてね。『せっかくなら海外で学ぼう』と、会社に勤めながら必死で英語の勉強をしたんです」

学生時代は野球に打ちこんだ。社会へ出て「ビジネスに関心をいだいた」という(筆者撮影)
学生時代は野球に打ちこんだ。社会へ出て「ビジネスに関心をいだいた」という(筆者撮影)

「自分から進んで勉強をするなんて初めてでしたよ」と笑う村上さん。日常会話ができるまでに英語をマスターしたのち、退社。イギリスのバーミンガムへ渡り、ビジネス分野を強みとするアストン大学の大学院へ進みました。

村上「大学院は本当に勉強になりました。イギリスの風土も好きで、『このままこの国のコンサルタント会社に就職して、いろんな企業さんの手助けをしよう』とも考えたほどです。でも……やっぱり帰国しました。どうしても、イギリスの食べ物が口に合わなくて(苦笑)」

お箸の国の人だけあり、日本の味が恋しくなった村上さんは大学院修了後、2021年9月に帰国。ひとまず京都の実家へ戻り、事業を興そうと案を練りました。

村上「はじめに考えたのは“コアな飲食店を紹介するアプリ”でした。知る人ぞ知るお店だけを検索できたらおもろいかなって。でも、Google Mapの進化がすごくて。『これは太刀打ちでけへんな』とあきらめました」

ウッドショックで閃いた「割り箸の集成材」

事業へのアイデアを模索していた村上さん。そのようなさなか、大学時代にアルバイトをしていた天ぷらの店から声がかかったのです。

村上「新型コロナウイルス禍が一段落し、飲食店にお客さんが戻ってきていた時期でした。以前にお世話になった店主さんから『京都に帰ってきているのならば、また手伝いに来てくれへんか。人手が足りないんや』とお誘いいただきましてね。それで再び天ぷら屋さんで働きだしたんです」

店で供する割り箸は、高級感がある竹製でした。客のマナーがよい店で、わずかな箸の先以外を汚す人はいません。それでも使用後はもちろん捨てられる。村上さんはゴミとなった割り箸を見て、「もったいない」と感じたと言います。

ほとんど汚れがない割り箸が捨てられる光景を見て「もったいない」と感じた(筆者撮影)
ほとんど汚れがない割り箸が捨てられる光景を見て「もったいない」と感じた(筆者撮影)

村上「ちょうどウッドショック(コロナ禍の影響により木材が不足したり価格が高騰したりする現象)が社会問題になっていました。『これほど品質がいい割り箸を一度の食事だけで捨てるのはしのびない。材木が不足している昨今やし、集成材などに再利用でけへんかな』と思ったんです。それがサステナブルを意識しはじめたきっかけでしたね」

「あくまで軽い閃きだった」という村上さん。好奇心からインターネットで集成材の製造法を検索してみると、熱硬化性の樹脂を使って端材を固める技法がヒットしたのです。

村上「そこから、『自分にもできるんとちゃうか』と、がぜんやる気が湧いてきたんです。そして『先ずは樹脂を手に入れよう』と、大手メーカーに電話をかけまくりました。でも、甘くはなかったです。どこも小売りをやっておらず、門前払い。サンプルさえもらえません。それでよけいに闘志を燃やしたんです」

この割り箸が自分の未来を変えてくれるかもしれないと、闘志が湧いたという(筆者撮影)
この割り箸が自分の未来を変えてくれるかもしれないと、闘志が湧いたという(筆者撮影)

いったんマウンドに立ったからには、意地でも降りられない。全力投球あるのみ。あきらめずに樹脂探しをするうちに、京都の東山にある樹脂の卸をしている会社が関心を示し、サポートしてくれる運びに。

続いて必要なのは樹脂をプレスして板にする作業。村上さんは新産業の創出拠点を提供する京都リサーチパークへと足を運び、この施設内で開所した地方独立行政法人「京都市産業技術研究所」に相談を持ち掛けます。

村上「割り箸と樹脂を持っていって『これを板にする方法を一緒に考えてもらえませんか』とお願いしたんです。すると興味を持ってくれまして。共同で研究し、おおよそ5か月かけて、やっと割り箸の板ができあがりました

樹脂で固めた割り箸をプレスし、板に。完成に至るまでに約半年を要した(画像提供/TerrUP)
樹脂で固めた割り箸をプレスし、板に。完成に至るまでに約半年を要した(画像提供/TerrUP)

用途に合わせ、さまざまなサイズに切りだしてゆく(画像提供/TerrUP)
用途に合わせ、さまざまなサイズに切りだしてゆく(画像提供/TerrUP)

前代未聞「割り箸から生みだす再生家具」への挑戦

遂にできあがった割り箸製の板。村上さんは電動ノコギリなど工具を借り、はじめはコースターなど小物の製造販売に挑戦しました。しかし、どうもインパクトが足りない。ハンドメイドマーケットに出店しても目立たないのです。

「だったら、思いきって家具にしよう!」。そう決意した村上さん。北区の家具職人のもとで研修をして製造法を習い、自らの手で天板を完成させました。次は脚です。

村上「アイアン製の脚は、鉄鋼の営業マン時代のつてを頼って板金屋さんに作ってもらいました」

まるで左右に離れ離れになっていた割り箸が再び合体するかのように、過去の経験が束となって村上さんの味方をしてくれたのでした。とはいえ、前例なき「割り箸でできた家具」を誰しもがはじめから賞賛したわけではなかったのです

村上「経営者の方々のなかには、『そんなもん儲からへんから、やめとき』『ビジネスにならへんって』という人もいました。母も『……やめて』と絶句していましたね。しかし、ECサイトを起ち上げてすぐに注文が入るようになり、メディアへの露出も増え、周囲の評価が変わったんです

2色の割り箸を使ったテーブルは、ナチュラルながら映える色合い。キャッチーなデザインが高く評価されました。今年オープンした居酒屋やオフィス家具に使う企業もあり、オーダーは途絶えない様子。まさに破竹の勢いと言える快進撃です。

今年オープンした京都の居酒屋が導入(画像提供/TerrUP)
今年オープンした京都の居酒屋が導入(画像提供/TerrUP)

竹の割り箸でできたテーブルで、竹の割り箸を使って食事する。リサイクルの可視化と言える(画像提供/TerrUP)
竹の割り箸でできたテーブルで、竹の割り箸を使って食事する。リサイクルの可視化と言える(画像提供/TerrUP)

起業以来、注文が途絶えない。「SNSで画像を見て注文してくれるお客さんが多い」という(画像提供/TerrUP)
起業以来、注文が途絶えない。「SNSで画像を見て注文してくれるお客さんが多い」という(画像提供/TerrUP)

周囲の変化という点では、「割り箸を提供してくれる店の意識も変わったのではないか」と、村上さんは考えます。

村上「もしも10年前に飲食店さんに『割り箸で家具を作るから譲ってください』とお願いしていたら、きっと『はあ?』という反応だったと思います。今の時代だからこそ、お店の方も再生利用に理解を示してくれているのではないでしょうか。自分がやりたいことと時代がうまく重なったと感じます

将来は全国に工房を展開したい

村上さんは現在、増産体制へと向けて新たな製造機器の導入を考え、クラウドファンディングを募っています。

村上「ゆくゆくは全国のさまざまな場所に工房を構え、その土地その土地で廃棄される竹割り箸からものづくりをしてゆくスキームを構築したいですね」

竹割り箸を家具に蘇らせる取り組みは、まだ始まったばかり。しかしこの第一歩が、いつか日本(二本)を再生する動きにつながるのではないか。取材をして、そんな気がしました。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

「TerrUP」 Webサイト

https://terrup.jp/

京都ライター/放送作家

よしむら・ともき 京都在住。フリーライター&放送作家。近畿一円の取材に奔走する。著書に『VOWやねん』(宝島社)『ビックリ仰天! 食べ歩きの旅 西日本編』(鹿砦社)『吉村智樹の街がいさがし』(オークラ出版)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)などがある。朝日放送のテレビ番組『LIFE 夢のカタチ』を構成。

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